鉄道マンの年末年始事情【3】
年末年始の仕事納めから正月三日までは公休日の指定を受けても、それ以外の日は通常通りに勤務しなければならなかった。日勤Ⅱ種の職場なので、基本的にはカレンダーどおりに仕事があるのは、ほかの会社と同じでもあり、そしてついこの間まで通っていた学校も同じだった。
ところが、冬になると高校時代の友人からある誘いを受けた。
それは、ゲレンデに行ってスキーをしようというものだ。
冬にしかできないリゾートスポーツ、いつかはやってみたいと幼い頃から思っていたので、私も誘いに乗ろうとした。ところが、友人とスケジュールを合わせていくと、私はⅠ日だけ年休を取らなければならなかった。
▲JR各社が運転したスキー客輸送に特化した臨時列車「シュプール号」。同じ「JR」の名を冠していても、筆者は貨物会社勤務であったが、それでも鉄道マンであることには変わらず、スキーの時期はいわゆる繁忙期となり有休(年休)を取ることがままならないこともあった。そのせいか、非常に無縁な列車でもあった。(©Linearcity [GFDL or CC-BY-SA-3.0], from Wikimedia Commons)
そこで、いつもどおりに年休の申請をすると、なんと「却下」されてしまったのだ。
年休は権利の行使なので、会社から与えられるものではないが、それでも業務に支障がある場合にはよほどの理由がない限り、会社も時期を変更することができる。
このときに、年休を取る理由を正直に答えてしまったのが運の尽き、年末年始の輸送の繁忙期であることを理由に、却下をされたのだった。
この時は「なんでだよ!」なんて腹が立ちもした。しかし、考えてみると、確かに年休を取ろうとした時期が悪い。なんと、正月三日が明けて仕事が再開してすぐの時期に取ろうとしたのだ。
年の暮れから正月三日の間はさすがに貨物列車も運ぶ物が極端になくなるので、列車の運休が多くなる。一方、旅客列車は帰省ラッシュの真っ盛りであったり、初詣や初日の出のために移動をするお客さんもあるから「終夜運転」を実施したりと、とにかく休む間もない。そこへ三が日が明ければ社会も動き出すので物の流れも始まるので、貨物列車の運転が再開される。しかも年末年始は貨物の輸送量も多くなり、臨時列車まで運転されている「繁忙期」なので、列車の運転に直接は関係ない施設区所でも、万が一には出動をするのでこの時期は簡単に休むなどできなかったのだ。
だからというわけでもないだろうが、友人たちからは「付き合いが悪い」と思われてしまった。まあ、鉄道に入ったときから、友人たちとは住む世界が違っていたのだろうと、仕方がないとばかりに割り切るほかなかった。いや、割り切ってはいたが、むしろこうした勤務体系と仕事の特殊性が鉄道マンとしてのやり甲斐というか、誇りにもつながっていたと思う。
それからというもの、年末年始や夏のお盆の時期に休みを取ろうということはしなかった。だから、ほかの会社勤めとは違う時期に休みをとるので、どこへいっても空いているし、何よりお値段も安く済むというオマケもついてきた。
そうはいっても、やはり周りに理解してもらうことはなかなかの至難の業。
当時付き合っていた彼女からは、自分と同じ時期に私が休みを取れないことに不満を抱いていたようで、ともすれば「私と仕事、どっちを取るの?」なんて言われたもの。
そりゃあね、どっちを取るかって・・・簡単には決められないけど、仕事をなくせばお飯(まんま)は食い上げになる。そうなっては元も子もないので、毎年、季節がくれば説得するのがまるで年中行事のようだった。
いまなら、間違いなく「仕事!」とキッパリと言っていたかも知れない。
いや、この年になればどっちが大事か?なんて聞きもしないだろう。それで生計を立てていることぐらい、大人なら大抵は理解できるのだから。