旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

JR東日本が山手線の自動運転化を進める訳とは【1】

広告

「未来の世界では、自動車は人が運転するのでなく、すべての運転操作は自動化されます。人間は何もすることなく、快適で楽に移動ができるようになるでしょう」

1.はじめに

 一昔、いえそれよりももっと昔、私が幼少の頃に読んだ「未来の世界」を描いた本には、こんな解説とともにハンドルを握って運転をする人がいない、自動で運転できる自動車の紹介がありました。

 まあ、1970年代の子ども向けの本なので、それが現実味を帯びていない夢物語だったのは否定できません。そして、その当時は誰しもそれは、将来に実現できることなのか、それでもできないことなのかなんて予想もできませんでした。

 ところが、21世紀に入ってからというもの、自動車の世界では自動運転技術の開発が急ピッチで進められています。

 その一つに、自動ブレーキというのがあります。自動車の前方に障害物(人や他の車など)を検知すると、最低限の距離で止まれるように自動でブレーキがかかる優れ物です。
 その技術は日進月歩どころか、それ以上の速さで進化しました。
 今日、国内で売られている多くの自動車の新車には、この衝突軽減ブレーキ(自動ブレーキという言い方はしていません)を標準で装備するようになりました。

2.鉄道の自動運転

 一方、鉄道ではどうでしょうか。

 実のところ、列車の自動運転技術はかなり早い時期に開発され、実用化がされています。あまりに古くからある技術なので、それほど知名度が高いとはいえませんが、いずれにせよ自動運転をする列車は、既に営業運転がされていて多くのお客さんを乗せて走っています。

 例えばこちら。

f:id:norichika583:20190122160915j:plain

 塗装といい、窓の形といい、多くの鉄道車両のそれとは違う、夢の国への入口でゲストを運ぶ役割を担う「ディズニー・リゾートライン」。もしかすると乗られたことがある型もいらっしゃると思います。
 この「ディズニー・リゾートライン」はモノレールです。モノレールも立派な鉄道の一つで、モノレールを運行する鉄道事業者はその構造を「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」(この省令以前は「特殊鉄道構造規則」)に準拠させ、営業運転を行うために鉄道事業免許を受けなければなりません。「ディズニー・リゾートライン」も歴とした鉄道事業者としての免許を受けています。

 ところで、この「ディズニー・リゾートライン」に乗られた方はお気付きだと思いますが、なんとこのモノレールには運転士が乗っていません。乗っているのは車掌業務を行うガイドキャストと呼ばれる乗務員だけです。
 ガイドキャストは乗降用のドアの開閉や、乗客の乗降といった客扱いを主な仕事としています。ほかには安全運転にかかわる監視業務や、乗客の案内業務といった仕事をしています。
 しかし、ガイドキャストは列車の一番最後尾に乗っていて、運転にかかわる業務はしていません。

 「ディズニー・リゾートライン」の列車は、列車自動運転装置(ATO)によって自動運転がされているのです。

3.鉄道の自動運転を実現したATO(列車自動運転装置)

 ATOとよばれる列車自動運転装置の登場は意外にも早く、1960年に名古屋市交通局が地下鉄東山線で試験導入したのが最初でした。その後、2年近くにわたって試験運転がされましたが、本格導入に至らず終了しています。
 名古屋市で試験が終わったのと同じ1962年に、当時の帝都高速度交通営団営団地下鉄、今日の東京地下鉄日比谷線で、3000系電車のうち2編成にATO装置を搭載し、長期に渡って試験を兼ねた営業運転に供されていましたが、こちらも本格導入には至りませんでした。

 ATOによる自動運転を本格的に導入したのは、札幌市交通局地下鉄東西線でした。こちらはATOによる無人運転も行われました。営業運転ではありませんでしたが、車両基地へ入出庫する列車は無人での運転がされていました。
 しかし、1990年になると営業列車に限りATOによる自動運転を終了させ、その後は運転士による手動運転へと移行して今日に至ります。

 札幌市での実用化はATOによる自動運転が可能であることが実証され、その後は新交通システムや地下鉄を中心に採用も増え、営業列車での自動運転が日常的になりました。

 2018年現在、ATOによる自動運転を営業列車で運用しているのは、首都圏では東京地下鉄銀座線、日比谷線東西線を除く全線で行われています。東京都交通局では、南北線と一部の線路施設を共用する三田線が自動運転化され、ミニ規格の大江戸線も同じく自動運転です。
 ほかには、多くの地下鉄ではATOを導入して、自動運転へと替わっていきました。

4.鉄道の自動運転を実現化するための条件

 自動運転が導入されれると、鉄道事業者にとっては大きなメリットがあります。
 それは、運転士を乗務させる必要がなくなる、ということです。
 ATOによる自動運転が行われている路線のうち、新都市交通システムと呼ばれるゴムタイヤ式案内軌条鉄道では、現実に運転士は乗務していません。ともすると、車掌すらも乗務していないなんてこともありえます。
 列車には、お客さんしか乗っていなく、列車は誰の手を煩わせることなく勝手に走っている、なんてこともあるのです。

 一方、地下鉄で自動運転が導入されている路線では、運転士は乗務しています。
 運転士が乗務しているのなら、わざわざ自動運転などしないで運転士がハンドルを握って、運転すればいいではないか。と、考えてしまうこともあるでしょう。実際、その考えはごくあたりまえのものだといえます。
 しかし、これら自動運転化されている地下鉄では、運転士が乗務して、列車の運転は機械に任せ、代わりに彼らは車掌としての業務を兼ねています。側扉の開閉や安全確認、必要に応じて乗客の案内放送といった役割を担っているのです。
 また、異常時にはすぐに運転士が対応できるように、鉄道事業者や路線ごとにことなるものの、一定の期間ごとに実際にハンドルを操作して手動で運転することもあります。

 さて、これら自動運転が行われているのは、地下鉄や新交通システム、あるいはモノレールといった鉄道です。
 これらの鉄道に共通するのは、踏切は一切なく、容易に人が立ち入ることができない設置環境にあるということです。

 地下鉄はその名の通り地下を掘ったトンネルを走る鉄道です。もちろん、この地下鉄に踏切などはなく、簡単に線路に入ることはできません。駅のホームか降りて入り込むことも考えられますが、ホームにホームドアと柵を設置すればそれも不可能になるでしょう。
 新都市交通システムやモノレールは、地上にはありますがその構造上地平に建設することは不可能です。そのため、これらの鉄道は高架上につくられています。高架上につくられているので、当然踏切など必要ありません。加えて、線路内に入ることも不可能です。

 このように、今日実用化され、実際に営業運転に供されている自動運転の鉄道は、共通して線路内に容易に立ち入ることができず、踏切の設置が必要ではない、そして駅のホームにはホームドアと柵が設置されているということなのです。

(次回へつづく)