旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

気動車の新時代到来を告げたキハ85系【6】

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《前回のつづきから》

 

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■接客設備も大きく変わったキハ85系

 キハ85系は客室の設備も大幅に変わりました。

 特急列車は多くの人が長距離・長時間の乗車をする傾向があります。座席の座り心地が悪くては、せっかくの新型車両も評価が低くなり、結局は「国鉄時代と変わらない」ということになってしまいます。座席の座り心地を左右するものとして、座席の間隔、すなわちシートピッチがありますが、キハ85系では普通車で1000mmにとなりました。これは、キハ80系が910mmのシートピッチだったので、90mmも拡大したことになります。これによって、足元に余裕が生まれて快適性が増しました。

 快適といえば、冷房装置も重要な設備の一つです。国鉄気動車は、冷房装置に電車や客車と共通のものが使われていました。キハ80系では「キノコ型のキセ」で覆われたAU12を、キハ181系ではAU13を装備していました。これは、気動車用の冷房装置をわざわざ開発装備すると、機器類の標準化という国鉄の車両設計方針から外れるため、可能な限り同じ機器を使うことにしたのでした。専用機器を開発するコストをなくし、量産効果で製造コストを削減するとともに、部品などの確保もしやくすく、検修での作業も共通化することで、検修員に対する教育も統一のカリキュラムで済み負担も少なくなるなど、あらゆる面から共通化と効率性を重視していたのでした。

 

キハ85系の車内は座席からの眺望に配慮し、通路と座席の床面に差があった。後に、公共交通機関バリアフリーが義務化されると段差はなくなった。窓面積が広くとられて、座席からの視界もよい。(出典:写真AC)

 

 しかし、電車や客車と共通の冷房装置は、これを作動させるためには三相交流440Vの電源が必要でした。キハ80系やキハ181系は、この冷房装置を作動させるために、走行用のものとは別に電源用のディーゼルエンジンを搭載し、これに繋がれた発電機で三相交流440Vの電源を作り出していました。しかし、すべての車両に発電セットを搭載すると、非力なDNH17系エンジンを1基しか載せることができなくなり、その結果高速での運転が難しくなります。そこで、比較的容量の大きい発電機を使うことで、これを搭載する車両を必要最小限に抑えるようにしましたが、それでも自車を含めて3〜5両までが限界でした。特にDMH17系エンジンを搭載したキハ80系は、発電セットのあるキハ82を、5両ごとに連結しなければなりませんでした。そのため、5両を超えるごとに先頭車でもあるキハ82を組み込むため、編成の自由度がなくなるため、短編成を組みにくくしていました。

 キハ85系は、そうした国鉄気動車について回った、柔軟な運用に欠けることにもつながっていた冷房装置の動力源を解決しました。これは、いわゆる「サブエンジン式」となる走行用とは別のディーゼルエンジンで発電機を回して動力源を供給する方式から、走行用のエンジンに直結させることで、冷房装置の圧縮機を回して冷風をつくり出す「機関直結式」を採用したのでした。

 この機関直結式では、冷房の動力源を自車の走行用エンジンから供給するので、1両単位での運用が可能になります。また、走行用のエンジンとは別に、わざわざ発電用のエンジンを装備する必要がないので、車両重量を軽減させることもできるなど、サブエンジン式と比べると効率面で優れているのです。

 しかし、デメリットもありました。機関直結式は動力用のエンジンのパワーを冷房装置のコンプレッサーを駆動することに使うため、エンジン出力を低下させてしまいます。これは、自動車を運転される方なら経験があると思いますが、夏にエアコンを全開にした状態で急な坂道を登ろうとしたときに、冬と比べて力不足になるときがあります。これは、自動車のエアコンが機関直結式であるために起こる現象です。鉄道車両も同じで、機関直結式の冷房装置を作動させていると、出力の一部をこれに充てなければならないので、どうしても出力が低下してしまうのです。

 国鉄制式のDMH17系のような非力なエンジンでは、冷房装置に回せるほどの余裕がなかったので、どうしてもサブエンジン式にせざるを得なかったのですが、DMF14HZ系のように強力な出力をもつエンジンになったことで、パワーにも余裕ができ、機関直結式冷房装置を装備することが可能になったのでした。

 このように、キハ85系は小型軽量で高効率、高出力エンジンを装備したことにより、冷房装置も機関直結式を採用して1両単位での増解結ができるなど、より柔軟な運用を可能にし、客室設備なども利用客にとって快適かつ列車での旅を楽しめることを配慮したことで、接客サービスの質を向上させるなど、国鉄形とは一線を画する特急用気動車となったのでした。

 

《次回へつづく》

 

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