旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

爆音を轟かせて走り抜けた強力気動車 国鉄キハ66系【5】

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《前回からのつづき》

 

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 キハ66系いはいくつかの大きな特徴があります。その一つが、大出力を誇るDML30系に゙改良を加えたDML30HSHを装備したことです。このエンジンは、出力が440PSとキハ65形が装備するDML30HSDなどよりも若干出力が低下したものの、エンジン1基でこれだけの出力があれば、高速運転でも余裕をもたせることが可能になりました。 

 そして、キハ66系の最大の特徴は、近郊形と呼ばれるキハ45系や、ローカル線用として当時増備が続けられていた一般形のキハ40系のうち、温暖地向けに量産されていたキハ47形と同じ、両開き戸を車両中央寄りに2か所設け、扉間には二段式ユニット窓を設置した構造で、これは後に登場する中京・関西地区向けの117系電車や、広島地区向けの115系3000番台に通じる2扉近郊型のスタイルでした。 

 さらに、客室内の扉間に設置した座席は転換クロスシートを採用しました。当時、国鉄の車両には、普通列車などに運用する車両の座席は固定式のクロスシートを使うのが標準とされていました。これは、大量に車両を運用する国鉄において、地域ごと、形式ごとに違う設備や部品を使うことによって量産効果が薄れ、これらの調達コストが高くなる恐れがありました。また、広域配転という極端な話が九州で使われていた車両が余剰化などの理由により、遠く北海道へ配置転換となった場合、転属先の運転区所において検修を担う職員が新たに検査や修繕の手順などに関して教育を受けなければならないことや、補修用の部品などを改めて調達しなければならないなど、画一化された規格によって非効率的な運用を避けていたといえるのです。 

 

2両編成で走るキハ66系。両開き2扉を備え、普通列車にも対応できるように設計された。(写真AC)

 

 しかし、キハ66系はそうした国鉄の方針を見事に打破し、急行形であるキハ58系はもちろん、キハ65形でも設置されなかった転換クロスシートを備えたのです。この転換クロスシートは当時の国鉄車両としては、新幹線0系電車しか設置していなかったため、普通車としては破格の装備で「新幹線並の設備」とさえいわれていました。 

 こうした新幹線並みの座席を備えた客室ですが、扉付近はロングシートを設置して、ラッシュ時など多客時の乗降にも配慮していました。こうしたあたりは近郊形のレイアウトであり、急行から普通列車にまで柔軟に対応できる汎用性を備えていたといえるでしょう。

 キハ66系は新製当初から冷房装置を装備していました。急行形のキハ58系やキハ65形では、分散式のAU13系が採用さてていました。分散式冷房装置は1基あたりの重量が軽く、屋根部の補強は最小限で済むというメリットがあります。しかし、1基あたりの冷凍能力が低い(5,500klac/h)ため、車内を十分に冷やすためには複数台載せる必要があり、その分だけ整備に手間とコストがかかるというデメリットがあります。

 キハ66系は国鉄気動車の標準ともいえたAU13系分散式冷房装置ではなく、通勤形電車などに数多く搭載されていたAU75系集中式冷房装置が採用されました。AU75形は扉も多く、開閉することも多い103系など通勤形電車でも十分に冷やす能力を備えているので、床下に強力なエンジンを搭載したことで発熱量も多く、普通列車でも運用されることから、妥当な選択だったといえるでしょう。

 しかし、集中式は重量が重いために屋根部はこれに耐える構造としなければならないので、キハ66系はこれに対応できるようにしたことと、車内を十分に冷やすために天井部いは冷風を行き渡らせるためのダクトも設置されていました。また、このダクトは乗務員室にも設置されたことで、乗務員の執務環境を大幅に改善し、夏季でも涼しい中で乗務することを可能にしたのでした。 

 

《次回へつづく》

 

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