旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

気動車の新時代到来を告げたキハ85系【3】

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《前回からのつづき》

 

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■新たな高出力エンジンへの再挑戦

 キハ60とDMF31HSAの失敗によって、いましばらくはDMH17系を使い続けることを余儀なくされたかに見えましたが、国鉄気動車用の強力エンジンを諦めることはなく、さらなる新型エンジンの開発を進めます。

 DMF31系はディーゼル機関車用の大型エンジンであり、それを無理に気動車へ載せようとしたのが失敗の根本原因であったことから、国鉄気動車に搭載することを前提に最適化されたエンジンを新たに開発しました。

 1963年にDMF15系は、水平シリンダー式で直列6気筒、排気量は15リットルのエンジンでした。DMH17系よりもわずかに強力になり、試作であるDMF15HSで240PS/1600rpm、量産機となったDMF15HSAで220PS/1600rpmをマークするなどしました。

 この新しいエンジンは、キハ40系に搭載されました。しかし、DMH17系よりも強力になったとはいえ、この性能では特急列車など長距離高速運転に使われる車両には不向きであると考えられました。また、従来のようにエンジンを2基搭載することも考えられますが、それではキハ80系などと同じように床下はエンジンやそれに付随する機器に専有されてしまい、運用コストも割高になってしまいます。

 そこで、2基のDMF15系エンジンを向かい合わせるようにし、バンク角180度のV型12気筒とすることでエンジン出力の向上を狙いました。これが、DML30系であり、キハ80系の後継となったキハ181系に搭載されたDML30HSBやDML30HSCは590PS/2000rpmと、国鉄が開発した中で最も高い出力を出すことができ、同時にエンジンの回転速度も高くなりました。

 

長らく国鉄気動車用エンジンは、排気量の割には低出力で重量の嵩むDMH17系の一択に甘んじてきたが、国鉄の技術陣もそのような状況を長く許すはずもなく、小型の高出力エンジンの開発に挑戦していた。キハ60系で試用されたDMF31Hは出力の面である程度満足できたものの、トラブルが続発して計画は頓挫してしまった。新たに開発されたDMF15系エンジンを基にしたDML30系は、気動車用としては高出力となる500PSがを実現させ、多くの形式に採用された。北海道で活躍したキハ183系も、新製時はDML30系を搭載したことで、道内の特急列車の速達性向上などに貢献した。(キハ183 204〔札ナホ〕 札幌駅 筆者撮影)

 

 苦労の末に、ようやく強力なエンジンであるDML30系を手にした国鉄は、キハ181系をはじめ、キハ65、キハ183系など優等列車で運用されることを前提とした車両に搭載し、その出力をもって長距離高速運転に使われることになります。しかし、このDML30系でも国鉄ディーゼルエンジンが抱えていた課題をすべて解決するには至らず、騒音や振動、さらにはオーバーヒートの頻発など、機械的に完成されたものとは言えず、結局のところ多気筒であるがゆえに整備に手間もかかり、機械的な信頼性も低かったことから、国鉄分割民営化までにDMH17系を置き換えるどころか、搭載された車両も限られたままとなってしまいました。

 このように、国鉄が開発したディーゼルエンジンは、幾度も改良と開発を重ねつづけてきたものの、安定した回転を求めて予燃焼室式を採用したことが、熱損失が高く、同時に過熱状態になりやすいという欠点を包含することになり、排気量の割には出力が低く、燃費もあまり芳しくないものを使い続けたのでした。

 

《次回へつづく》

 

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