旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

気動車の新時代到来を告げたキハ85系【5】

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《前回からのつづき》

 

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■高効率エンジンDMF14と新型特急用気動車の登場

 1989年に登場したキハ85系は、JR東海の経営方針や運用する線区の実態に最適化され、国鉄時代とはまったく異なる設計思想で開発された特急用気動車でした。

 車体はステンレス製としたことで、車体の重量を大幅に軽減しました。車体の重量が軽くなることは、気動車では燃料の消費量を抑えることに繋がります。また、塗装も省略することも可能になるので、全般検査などにおいて再塗装をする必要もなくなり、保守コストを大幅に軽減できます。加えてステンレス鋼は腐食にも強いので、車体の補修も最小限に抑えることが可能なのです。

 JR東海は新型気動車であるキハ85系の車体をステンレス鋼にしただけでなく、エンジンもJR東日本が試用した上でキハ110系などに採用したDMF14HZ系を採用しました。

 DMF14HZ系は、水平シリンダー式直列6気筒で、排気量は14リットルと国鉄制式エンジンよりも排気量は小さく、エンジンそのものも小型で軽量なものでした。しかし、機関出力は350PS/2000rpmと、キハ80系に搭載されていたDMH17系とは比べ物にならないほどの強力なエンジンでした。

 また、排気量が小さくなったことと、エンジン自体の重量が軽くなったこと、そして車体もステンレス鋼で鋼製車よりも車両重量を大幅に軽減したことによって、燃費は大幅に改善したと考えられます。燃費の改善は、列車の運行にかかるコストに直結するので、非常に大きな意味をもっていました。

 このように、キハ85系は燃料や検修などのランニングコストを大幅に削減した、効率性を追求した起動車となったのでした。

 1989年に高山本線の特急「ひだ」に充てるために新たに設計製造されたキハ85系は、経済性に優れながらも強力なエンジンであるDMF14HZ系を搭載し、軽量ステンレス車体を備えたことで、低燃費で検修コストを可能な限り抑えた特急形気動車でした。

 しかし、いくら経済性に優れた性能をもっていても、肝心な利用者から見向きもされないようでは話になりません。キハ80系は老朽化だけでなく、車内の接客設備などの陳腐化という問題を抱えていました。

 キハ85系は先述の通り、ステンレス車体となったことでメンテナンスフリーを向上させたものでした。その一方で、ステンレス車体にありがちな角ばって無骨な実用本位というデザインではなく、全体として丸みを帯びた柔らかいものでした。これは、設計時のコンセプトとして「自然との調和」をテーマとしていたためで、高山本線は栗を、南紀方面は二枚貝をイメージしたことで、特急用車両にふさわしいデザインとなったのでした。

 

名古屋駅で発車を待つ「ひだ」運用のキハ85系。貫通型の前面のスタイルは、国鉄が製作した特急用気動車であるキハ80系やキハ181系に通じるものがあり、カーブを基調とした柔らかい意匠とパノラミックウィンドウは、そのDNAを継承したともいえる。一方、車体はステンレス鋼を用いるとともに、客室の窓も拡大されて眺望に配慮した設計、さらに小型軽量で高出力エンジンの採用は、気動車の新時代を告げたともいえる存在だった。(キハ85 1110〔海ナコ〕 名古屋駅 2004年8月8日 筆者撮影)

 

 それは、先頭車両にも表れていて、非貫通型のキハ85(0番台)やキロ85では、前面展望にも配慮した大型曲面ガラスを使った前面と、さらにルーフウィンドウを備えるなど、従来の特急用気動車にない大胆なものでした。傾斜のある前面デザインは、やはり曲線を多く使った柔らかいものですが、この部分は万一の事故による破損で修理が容易なように、ステンレスではなく鋼製の鋼体を使っています。

 一方、貫通型のキハ85(100番台以降)も、曲線を多く使った柔和なデザインとなりました。こちらも運転台の窓には側面まで回り込んだパノラミックウィンドウを使うことで、前方視界が良好になるように配慮されていました。パノラミックウィンドウを使うあたりは、国鉄形のDNAをしっかりと受け継いでいるもので、貫通型のデザインはやはりキハ80系(キハ82)やキハ181系に通じるものがあると感じられました。

 一方、側面もまた、乗客への配慮を欠かしませんでした。側面の客室窓は車窓からの眺めを楽しむことができるように、縦方向に95mm拡大した大型のガラスを使い、同時に座席床面と通路床面は20mmの段差が設けられました。座席の位置をわずかに高くすることで、眺望を良くする「ハイデッカー構造」となりました。同じような構造は、JR東日本の183・189系のアップグレード車にもみられましたが、こうしたあたりはやはり民営化によって車両の設計思想や乗客向けのサービス向上など、国鉄時代から大きく変化したことの表れと言えるでしょう。

 

《次回へつづく》

 

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