旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

悲運の貨車〜物流に挑んだ挑戦車たち〜 【番外編】4年でお役御免になった悲劇の郵便車【4】

広告

《前回からのつづき》

 

blog.railroad-traveler.info

 

■たった4年で形式消滅した郵便電車 クモユ143

 鉄道による郵便輸送は、その多くが客車列車(荷物列車)によって行なわれていましたが、一部は電車列車によるものもありました。

 電車の場合、客車と異なり自ら走行できることが大きな特徴です。機関車を必要としないため、1両単位からの運行が可能な反面、走行するために電気機器を搭載するため、製造コストは客車と比べて高価になります。

 また、電化方式が異なったり、非電化区間であったりした場合、当然ですが走行することはできません。そのため、電車による郵便輸送は、多くがローカル線などで合造車を使った小規模な輸送がほとんどでした。

 例を挙げれば飯田線身延線といった、道路の整備が進んでいない山間部を走る路線で、旧型国電であるクモハユニ44や、クモハユニ64といった車両が充てられていました。普通座席と荷物との合造車だったので、これらの形式に設置された郵便室は非常に狭く、沿線の郵便局へ送達するための郵便物を区分するための必要最小限の設備が備わっている程度でした。

 また、一部の幹線では、電車列車に併結する形で郵便荷物輸送を行っていました。具体的には、東海道本線中央本線高崎線などで、クモニ83やクモユニ74といった専用車を製作して、急行列車などに併結して運行していました。これらの車両は新性能化によって余剰となった72系電車を改造して製作されたもので、台枠や台車、電装品は種車のものを活用し、車体を新製して載せ替えるというものでした。

 これら、専用の車両は、一部では急行列車や普通列車に併結することをせず、これらの車両だけで組成した荷物列車としても運行されていましたが、客車列車に比べると運行する距離も短く、連結両数も少ないもので、いわば郵便荷物輸送の中距離列車という性格を帯びていました。

 そうした中で、郵便専用の電車として製作されたのが、クモユ141でした。

 

かつては写真のように中距離列車などに荷物車や郵便車が併結されていることがあった。荷物電車の多くは、余剰となった72系電車を改造した旧性能電車だったが、郵政省の予算で製作される郵便電車は冷房装置付の新性能電車と、事業用車としては贅沢なものだった。(©Gohachiyasu1214, CC BY-SA 4.0, 出典:Wikimedia Commons)

 

 クモユ141は郵便客車と同様に郵政省の予算で製作された車両であるとともに、国鉄で初めてMM'ユニットを組まない、1両単位で運用することが可能な新性能電車でした。

 1967年に新製されたクモユ141は、高崎線上越線普通列車を客車から電車へ転換する際に、それまでの客車列車に併結していた郵便車や荷物車に代わる車両が必要になりました。

 しかし、101系電車を始祖とする新性能電車は、電動車を2両1組で組成するMM'ユニットが標準でしたが、郵便車や荷物車の場合、1両単位で運用することが前提でした。そのため、荷物車については72系電車からの改造によって製作するクモニ83で賄うことにしましたが、郵便車は新製することになったのです。

 この背景として考えられるのは、1つは製作の予算でした。荷物車は国鉄自身が用意しなければならず、すでにこの頃から慢性的な赤字に悩まされていたため、乗客を乗せることのない荷物車までコストを掛けて新製することが難しかったのではないかと考えられます。一方、郵便車は郵政省が自らの事業である郵便輸送のために運用する車両であるため、郵政省の予算で製作されます。そのため、国鉄と比べると予算も潤沢だったため、専用車である郵便車を新製することができたといえるでしょう。

 2つ目に考えられるのが、荷物車は国鉄が輸送する手小荷物を載せるだけで、荷扱専務車掌や荷物手が乗務することがありますが、基本的に車内で細かい作業はしません。一方、郵便車は鉄道郵便局員が乗務し、車内では郵便物を区分する細かい作業をします。そのため、旧性能電車である72系電車を改造した車両では、吊り掛け駆動特有の加速時の振動や高速で走行中の動揺が、郵便局員の執務環境に大きな影響を与えると考えられるのです。

 3つ目には、72系電車を改造した車両では、冷房装置を搭載することが難しかったためといえます。郵便車はその構造上、荷物車のように窓を多く設置することができません。区分棚が設けられている部分には、上部に採光用の小窓が設置されていますが、これを開閉することができません。また、区分棚があるため、その部分に開閉ができる窓を設けることができないため、特に夏季は車内の温度が上がり、作業をする郵便局員の汗で郵便物を汚損する可能性があるため、冷房装置を装備することが求められたのです。この冷房装置を作動させるために、比較的容量の大きい電動発電機を搭載する必要から、72系電車からの改造ではなく、新製することによってそれが実現可能だったと考えられるのです。

 こうして、クモユ141はAU12を搭載した1M方式の新性能電車として登場したのでした。

 

《次回へつづく》

 

あわせてお読みいただきたい

blog.railroad-traveler.info

blog.railroad-traveler.info

blog.railroad-traveler.info