旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

悲運の貨車 奇抜な発想で複合一貫輸送を目指した両用貨車・ワ100【2】

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《前回からのつづき》

 

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 ワ100形は計画自体は1990年に始まっていたようでしたが、実際に落成したのは1992年になってからでした。当時、JR貨物国鉄時代から脈々と続けられてきた、物資別適合貨車による車扱貨物輸送から脱却し、コンテナ貨物を中心にした新たな輸送システムへシフトさせている真っ只中でしたが、貨物駅における荷役作業にかかる時間をさらに短縮させるとともに、フォークリフトなどの荷役作業機械を使わずに、トラックなどをそのまま鉄道で輸送することで、これらの時間と労力を削減しようと様々な技術開発に取り組んでいたのです。

 その中で開発したピギーバックは実用化に漕ぎ着け、実際に営業列車で運行されました。しかし、日本の鉄道における車両限界は世界的には小さく、貨車の上に載せるトラックもまた、その制約を受けてしまうことから特殊な形状で小さめのサイズになってしまいました。それでも、バブル経済とともにトラック輸送を担うドライバー不足から、いくつかの顧客を得ることに成功したのです。

 一方、このような小型で特殊なトラックでは積載量が小さいなど輸送効率に難があるため、大型のトラックを貨車に載せることも考えられたようです。しかし、やはり車両限界からバンボディのサイズが制限を受けるため、小型トラック同様に輸送効率に難があることから実現しませんでした。

 そうした中で、鉄道上では有蓋車として、道路上ではそのままセミトレーラーとして運用できる「両用」車両の発想が起こりました。国鉄時代にも似たような発想で試作された貨車があり、セミトレーラーのバンボディを落とし込み式の貨車に載せるカンガルー式や、貨車の上にバンボディーを載せるためのターンテーブルを装備し、セミトレーラーからアルミバンを直接このターンテーブルに乗せて荷役をするフレキシバン方式が試用されましたが、いずれも課題が多かったためか本格的な作用には至りませんでした。

 JR貨物はこうした国鉄時代の経験を踏まえ、セミトレーラーに直接鉄道用の台車を装着させ、車両限界に抵触することなく鉄道と道路といった異なるモードで運用ができる車両を構想したのです。これが、デュアル・モード・トレーラーと名付けられたワ100形だったのです。

 

国鉄分割民営化の直後、1987年からJR貨物は日本鉄道貨物工業会のもとで開発した新たな貨車は、従来の鉄道貨物輸送の常識を大きく覆す「鉄道車両」であり「自動車(セミトレーラー)でもある両用貨車であるワ100形貨車だった。車体はセミトレーラのアルミバンだが、台車とブレーキ類、連結器などを備える「アダプターユニット」を装着すると鉄道を走行できる貨車となり、荷役機械とそれに携わる人員の省略とともに、荷役時間の短縮を狙った。(パブリックドメイン

 

 ワ100形は一見すると、道路上で見かけることの多いアルミバン・ボディをもったセミトレーラーです。道路上を走行するのに必要なタイヤは、ダブルタイヤ2軸配置の大型車両でよく用いられるポピュラーなものでした。強いて言えば、ホイールが青色に塗られていることぐらいでしょう。ところが、この2軸配置ダブルタイヤのサスペンションは、鉄道モードへ切り替えるときに必要な高さに可変できる空気ばねを装備していました。また、鉄道での運用時に引張力や車端部に加わる衝撃に耐えられるように、中央部の梁は強化されたものでした。

 そして、何よりも肝心なものとして、鉄道モードで走行するための台車を接続する機構が備えられていました。この台車は「アダプターフレーム」と呼ばれるものでも、一般の貨車における台車枕梁と端梁に相当し、台車と連結器、連結器緩衝器、各種の空気・電機配管とブレーキ装置など、貨車として走行するために必要な機器をまとめたものでした。この「アダプターフレーム」にセミトレーラーのアルミバンとなる車体を載せますが、トレーラトラクターと連結する機構を活用することで、可能な限り汎用性をもたせたていました。

 また、ワ100形は2台のセミトレーラーを連結し、両端は連結器を備えた「アダプターフレームを」、中間部分は台車とブレーキ装置などを備えた「アダプターフレーム」を接続する連接構造とすることで、構造を可能な限り簡易なものにしました。この中間台車となる部分は、1台の台車で2両分の車体重量を支えるものでしたが、そもそもワ100形の積載荷重は13tと軽いため、あまり負担にはならなかったと考えられます。

 台車はコキ100系で実用化されたFT1系列ですが、狭小な「アダプターフレーム」に様々な機器を組み込む必要があるため、ブレーキシリンダーやブレーキてこを小型化して一体組み立てとしたユニットブレーキを、台車枠内に装着させたものでFT1A形と呼ばれるものが装着されました。外観はコキ100系FT1形とは大きく変わりませんが、その塗装はコキ100系ではグレーの塗装がなされていたのに対し、ワ100形では冒頭でもお話したように台車枠と車輪までもが青色で塗られていたため、貨車としてはかなり異色といえるものでした。ワ100形はその構造や外観からも貨車とは言い難いものでしたが、この台車の塗装はそれをさらに強調するかのようなものだったといえます。

 こうして試作されたワ100形は、1992年に落成すると試験運用に供されることになりました。

 

《次回へつづく》

 

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