旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

貨車の色にも「意味」があった【2】有蓋車・ワム80000の場合

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《前回のつづきから》

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最大勢力を誇った有蓋車・ワム80000の場合 

 鉄道の貨物輸送は、いまやコンテナが主流になりました。そのコンテナも、基本は屋根がある構造のドライコンテナで、次いでベンチレータがある通風コンテナでしょう。JR貨物保有するコンテナの大半は、ドライコンテナです。

 このドライコンテナは、車扱貨物が基本だった国鉄時代は、有蓋車がそれにあたるものでした。言い換えれば、有蓋車は鉄道貨物輸送の最も基本となる貨車で、国鉄が最も多く保有した貨車でした。

 これだけ多いと、実にいろいろな形式があり、趣味的には面白いものがあります。

 例えば戦時中に製作されたワム50000は、側面に代用材である木材を使っています。やがて痛みが激しくなると、雨漏り対策もあり耐水合板に張り替えられました。羽目板を使っていた姿と、耐水合板に張り替えた姿では、同じ形式の車両かと思えるくらい異なるものでした。

 また、ワム70000とワム60000、そしてワラ1は、一見すると同じような姿の有蓋車でした。筆者も新鶴見操車場の仕訳線に並ぶ黒い有蓋車を見つけては、それがワム6なのか、ワム7なのか、はたまたワラ1なのかをじっくりと眺めては見分けていたのですが、それだけ外見は似たようなものだったのです。

 

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ワム70000の後継として製作されたワム60000は、どちらもパレット荷役に対応できるように幅2,300mm両開きの側扉を備えていたものの、完全に対応できるわけではなかった。扉の両側、車端部へは結局人力に頼らざるを得ず不便であった。そのため、完全にフォークリフトを使用したパレット荷役に対応できる有蓋車が望まれていた。写真のワム66172は、函館本線東札幌駅常備の信号機器配給専用に指定された車両で、白帯を巻いた事業用代用貨車として運用された。信号機器というと想像が難しいかもしれないが、電気転轍機とった重量機器を輸送していたと思われる。(ワム26172 2016年7月26日 三笠鉄道記念館 筆者撮影)

 

 これらの有蓋車に共通して言えることは、貨物の荷役は側面の引き戸を開けて、人力で行うことが前提だったことです。ワム90000は側面に1,700mm片開きの引き戸を備えていますが、ここから人の手によって貨物を積み下ろししていました。しかし、積み下ろしに手間がかかることと、人の手によるため人件費がかかることなど、消して効率の良い方法ではありませんでした。

 そこで、貨物をパレットに載せてフォークリフトで荷役する方法が考えられました。これであれば、積み下ろしに時間もかからず、人件費も最小限に抑えることが可能になります。

 国鉄はこのフォークリフトによる荷役に対応した貨車として、ワム70000を開発しました。側面に2,300mm両開きの引き戸を備え、縦横1,100mmのパレットをレール方向に2個を容易に載せることができ、フォークリフトを使った荷役ができるようになりました。この後、改良型のワム60000、積載荷重を増加させたワラ1へとはってんしていきましたが、旧来の荷役方法にも対応できる有蓋車でした。

 しかし、フォークリフトによる荷役が可能といっても、車内全部にパレット貨物を載せようとする場合、横移動にはどうしても人の手が必要になりました。いずれの形式も、側面の扉は中央部にしかないため、扉部分はフォークリフトで積み下ろしができても、扉がない部分はそうした事ができません。

 一方で国鉄はコンテナ輸送も始めており、拠点間輸送はコンテナを大いに利用してもらうい、荷役にかかる時間も大幅に短縮できるようになりましたが、車扱貨物はそのようなことはできませんでした。国鉄としては、従来からの車扱貨物も、荷役の近代化をより進める必要があると考え、パレット貨物をフォークリフトで容易に積み下ろしができる有蓋車を開発したのです。

 ワム80000はこうしたことを背景に開発されました。

 ワム80000は側面は総開き戸としました。これは従来の有蓋車が車体中央部にのみ扉が備えてあったのを、ワム80000では側面はすべて扉とし、車端部も扉を開くことでフォークリフトを使った荷役を可能にしたのです。

 

f:id:norichika583:20210822184324j:plainzパレット輸送による荷役の省力化は、国鉄貨物輸送においては非常に重要な課題であった。従来の人力による荷役では時間と労力がかかり、モータリゼーションの進行によるトラックへの移転に対抗するには、パレットとフォークリフトによる荷役は欠かせないものだった。しかし在来の有蓋車ではこれが難しく、側面総開き戸を備えたワム80000の登場で、ようやく荷役作業の機械化ができるようになった。在来車との識別を容易にするため、赤4号で塗られたため操車場などでもすぐに見分けがついた。写真のワム287734は既に車籍が抹消されていると思われるが、訓練車として残っていたと思われる。(ワム287734 新鶴見機関区 2011年12月26日 筆者撮影 ※許可を得て撮影)

 

 こうしたワム80000の特殊な構造もあり、全長が9,660mmと他の有蓋車と比べて有蓋車としては他の形式よりも1,800mm程度長くなってしまいました。操車場などでは入換のときに車体の長さや重量、そして構造などから操車掛が組成のときに特に注意を払う必要があることを踏まえて、外部の塗装を目立つようにしたのです。

 こうして、ワム80000は一般の有蓋車としては例外的にとび色で塗装されていたのです。もっとも、例外的とはいってもワム80000は総勢で26,605両と、国鉄の車両史上、最多の数が製作されたので、操車場で貨車を眺めていてもワム8の方が多かった記憶があります。それだけ、とび色の貨車は目立つ存在だったのです。

 ところで、このワム80000にも例外がありました。例外の例外とはなんとも国鉄らしいといえばそれまでですが、特に目立ったのが鮮魚輸送用の580000番代でしょう。近距離の鮮魚輸送に使用するため、屋根には断熱塗料で塗装し、床面は溶けた塩分を含む水が流れるように水抜き構造とし、防錆塗料を吹き付けた特殊な構造になりました。そのため、他のワム80000と容易に区別ができるよう、冷蔵者と同じ白一色に塗られたのです。

 見た目はワム80000でも、中身は簡易な冷蔵車という特殊な貨車は、ワム80000が汎用性に優れていることと、側面総開きの扉を備えていたため、荷役に時間がかからないという構造のメリットがあったためと言えるでしょう。

 

 《次回へつづく》

 

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