旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

EF510 300番台の増備で置き換えが確実になった九州の赤い電機の軌跡【2】

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《前回のつづきから》

 

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 EF510形の九州仕様機は300番台に区分され、既存の0番台、500番台から若干の仕様変更がされています。外観では、前部標識灯が従来のシールドビーム灯からLED灯に変更されました。また、塗装も国鉄時代からの交流機標準色である赤2号をはじめとした赤色系ではなく、500番台カシオペア機にも似たシルバーを基本に、赤色のアクセントライン、下回りは濃紺色となりました。この塗装は300番台という区分からも、関門間で運用された歴代の電機(EF10形、EF30形、EF81形300番台)を踏襲したものではないかと筆者は想像しています。 

 

本州と九州を結ぶ関門トンネルが開通して以降、この区間線用にEF10形、EF30形などといった専用電機が門司機関区に配置され、人と物の流れを支え続けてきた。交直流電機の決定版ともいえるEF81形も関門仕様の300番台が配置され、民営化後はJR貨物に継承されて運用されてきた。車体外板にステンレス鋼を使った国鉄形車両としては珍しいもので、多くの人を魅了したといえる。そのEF81形300番台も4両の内3両が既に廃車となり、残るのは303号機1両のみとなった。新たにEF510形300番台が量産されることに決まったが、500番台でもなく100番台でもないこの「300」という数字は、国鉄時代から伝統的に九州配置の機関車に付番されてきたことに倣ったものではと考えられる。(出典:写真AC)

 

 実際、配置区所となる門司機関区といえば、国鉄時代は関門トンネル専用機の牙城ともいえ、銀色に輝くステンレス鋼の車体をもった電機たちが昼夜を問わず走っていました。筆者が門司機関区に勤務しているときも、関門仕様の電機が多数在籍していて、九州の玄関口を預かってきた伝統が息づいており、その中でもステンレス鋼の車体をもったEF81形300番台はその象徴ともいえた電機でした。 

 新たに門司区に配置されることになっているEF510形300番台も、車体の材質こそはほかの車両と変わらないものの、その伝統を引き継ぐ意味でシルバー塗装になったといえるでしょう。 

 メカニズムの面では、新たに交流回生ブレーキが装備されたことです。EF510形は0番台、500番台ともに電機では一般的な電気指令式自動空気ブレーキ発電ブレーキを装備していましたが、発電ブレーキは主電動機を逆回転させることで発電機とし、その抵抗力をもってブレーキとして減速させています。しかし、発電ブレーキは制動力を確保するため主抵抗器の容量=抵抗値を高くしなければならず、その分だけ主抵抗器は大型にならざるを得ません。また、発電ブレーキは主電動機が発電した電気エネルギーを主抵抗器に流し、主抵抗器で熱エネルギーに変換しますが、そのエネルギーは放熱する形で捨てられてしまいます。 

 回生ブレーキであれば、主電動機が発電した電気エネルギーは終電装置(パンタグラフ)を通して電車線(架線)に戻されます。電車線に戻された電気エネルギーは、同時期に走行している他の列車が消費するので、エネルギー効率を高くすることができます。すなわち、全体的な消費電力を抑えることになり、エネルギーコストを軽減できます。そして、車両自体の消費電力は回生ブレーキで発電される電力量と相殺されるので、低く抑えることができるのです。 

 電気機関車の場合、重量のある貨物列車を牽くことが主な用途のため、大きな制動力を必要としています。そのため、安定的に動作することが期待できる発電ブレーキを装備することが一般的です。EF200形を嚆矢とする民営化後に開発・製造された一連の新系列電機も、電気的に回生ブレーキを使うことができるVVVFインバータ制御を採用していますが、すべて発電ブレーキ自動空気ブレーキのみを装備し、回生ブレーキは装備していませんでした。ですから、九州向けに新製される300番台は、民営化後に開発された電機で初めて回生ブレーキを装備することになったのです。 

 

今から10年ほど前までは、旅客会社と貨物会社の間で業務を受委託する例が多く見られた。関東では、常磐線系統の貨物列車はJR貨物が直接運行するのではなく、JR東日本にそれを委託し、田端運転所所属のEF81形やEF510形500番台が牽き、乗務するのも田端運転所の機関士だった。そのため、写真のように貨物機に混ざって旅客機が留置される姿が新鶴見機関区でも見られたが、それも今では過去のものとなった。このEF510形500番台は、JR東日本でに所属した期間は短く、受委託解消とともに廃車されJR貨物に売却移籍、富山機関区で貨物機として運用されている。(EF510-503〔田〕新鶴見機関区 2011年5月11日 筆者撮影)

 

 さて、EF510形300番台によって置き換えの対象となるのは、国鉄から継承した交流機であるED76形です。九州島内の電化区間はすべて交流電化であるため、ここで運用される電機は関門間以外はすべて交流機で、ED76形は標準機として数多く製造され、長きに渡って活躍してきました。 

 九州の「主」ともいえたED76形をはじめ、九州を走り抜けていった赤い電機、交流機たちの軌跡をふりかえってみたいと思います。 

 

《次回へつづく》

 

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