旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

海峡下の電機の系譜【Ⅷ】 新世代のマンモス機・EH500(1)

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9.新世代のマンモス機

9-1 民営化後、第二種鉄道事業者としての課題

 1987年の国鉄分割民営化で、多くの電気機関車JR貨物に継承されました。貨物列車の運転はすべてJR貨物に引き継がれたためで、このことは今さら細かく書く必要はないと思います。

 一方、この頃はバブル経済の進展によって、世の中は好景気で消費も設備投資も盛んでした。そのため日本の物流も活発になり、国内物流の主役になっていたトラック輸送は既に逼迫した状態になり、加えて好景気のためトラック運転手も不足するという状態でした。

 しかし増加する貨物を運ばないわけにもいかず、これらは鉄道による貨物輸送に流れてきました。皮肉なことに、国鉄時代はヤード継走輸送が主体で、一度発送したらいつ着くか分からないという物流において致命的ともいえる欠点に加え、相次ぐ運賃の値上げ、さらには極度に悪化した労使関係を背景にしたストの頻発など、荷主離れは目を覆うばかりでした。

 筆者が経験した中で、研修の一環として貨物駅に到着したコンテナを荷主のもとへと届ける通運会社のトラックに添乗したときのこと。普段なら、コンテナを運んでくるのはトラック運転手だけなのが、この時ばかりは若い違う制服を着た兄ちゃんがいたことに、荷主の担当者は目を丸くしたものです。

 それはそうでしょう、何しろ筆者が着ている制服は通運会社のものとは明らかに違う水色のシャツ。頭に被るヘルメットには青で描かれた「JRマーク」がありましたから、誰が見てもJR職員だとわかります。

 そして、運転手に「この兄ちゃんは誰じゃけん?」と訊ねられたので、運転手は苦笑いしながら「JRさんから頼まれておってよ。何でもJRに入った新人に勉強しちょって来いってな」と答えると、「ほ~、時代も変わったけんね。国鉄ん頃はそないなこと、考えられんよったのぉ」なんて言われる始末で、どれだけ国鉄時代は荷主からそっぽを向かれたのかが想像できます。

 このように、会社を取り巻く状況は国鉄末期とは大きく変化し、年々輸送量は増加の一途を辿っていました。

 

f:id:norichika583:20200726232527j:plain(©Hahifuheho / CC0)

 

 しかしいくら輸送量が増えたとはいえ、そう簡単に貨物列車を増発することはできません。ご存知のように、JR貨物は自前の機関車と貨車は持っていますが、自前の線路は極々限られたところだけしか持ちませんでした。貨物列車が走行するほとんどの線路は、旅客会社が保有するものでJR貨物はその線路を「使わせていただく」ことで、貨物列車を運転していたのです。

 これは鉄道事業法の施行により、自ら線路を保有し、自らが保有する車両を運転し営業する事業者を第一種鉄道事業者としました。これは分割民営化によって誕生した6つの旅客会社が該当します。一方、ほかの鉄道事業者保有する線路に、自ら保有する車両を運転して営業をする事業者を第二種鉄道事業者としました。これには民営化によって誕生した貨物会社が該当しました。

 こうした枠組みで誕生したため、JR貨物は「旅客会社の線路を借りて」貨物列車を運転するため、列車を増発するためには旅客会社との間に難しい調整を行い、旅客会社がそのためのダイヤを設定して初めて可能になるのでした。加えて、機関車は貨物会社が保有しているものの、その運用については旅客会社が権限をもっていました。このことは、ダイヤ編成上で必要な事項なので、JR貨物としてはいかんともし難いものがあったのです。

 さらに、JR貨物第二種鉄道事業者であるため、貨物列車を運転することで「線路使用料」が発生します。この「線路使用料」は線路を保有する旅客会社へ支払わなければなりません。列車の増発によって増収にはなるでしょうが、当然この「線路使用料」も発生して支払う必要があったのです。

 しかし、民営化前から貨物会社の経営基盤は旅客会社に比べて極めて脆弱であることは予想されていました。国鉄末期の貨物輸送の惨状を見れば、それは容易に想像ができることでした。国の政策によって「鉄道貨物は必要だ」ということで残された会社なので、そう簡単に倒産させるわけにはいきません。

 そこで、JR貨物が旅客会社に支払う線路使用料は、アボイダブルコストルールという特殊な方法で支払うことになっています。

 鐵道の線路には、もともとの固定費と損耗分を補修するなどのための費用があります。固定費は主に固定資産税などといったものです。しかし、線路は列車が走行すればその分だけ摩耗していきます。そのため、摩耗した線路はレール交換や砕石交換などを行います。こうした変動費について、貨物列車が走行しない場合の損耗費と、走行した場合の損耗費を計算し、その分だけをJR貨物が線路使用料として支払うように定められています。

 こうすることで、JR貨物の負担は大きく軽減させることを可能にしています。*1

 ところで、この方法で支払う線路使用料には、線路を走行する車種ごとに計算がされることになっていました。例えば、軽量な空車となる貨車でも、二軸貨車はもっとも軽いのでその料金は最も安く設定され、重量の重い機関車は当然ですが料金設定は高くなります。

 このように、JR貨物は設立当初から、列車を走らせれば走らせるほど線路使用料を旅客会社に支払い、特に機関車は高価な(といっても、アボイダブルコストルールによって損耗分だけではあるが)料金を支払い続けなければならないという課題を背負っていたのでした。

 

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#青函トンネル #交直流電気機関車 #JR貨物 #EH500 #貨物列車

*1:この方法で線路使用料を支払うことにより、JR貨物の負担は大きく軽減させることを可能にしたが、このことは後年、経営危機に陥ったJR北海道などとの間に問題を引き起こすことになった。