旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

EF510 300番台の増備で置き換えが確実になった九州の赤い電機の軌跡【9】

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《前回からのつづき》

 

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■少数が製作された交流標準機の九州版・ED75形300番台 

 交流電機の黎明期に製作された車両たちは、交流電流から直流電流へ変換するための整流器に水銀整流器を搭載していました。この水銀整流器は、大きな真空管のようなもので、真空にした容器の中に水銀を封入し、これを電極に噴射させ、アーク放電で生じる整流効果を用いて直流電流に変換しています。 

 水銀整流器の優れた特徴として、構造が比較的簡便であり技術的なハードルが低く、当時の技術力では製造しやすい方だったといえます。また、変換された直流電流は平滑なもので、脈流と呼ばれる現象が少なかったことが挙げられます。 

 その一方で、水銀整流器は真空管の一種であることから、その取り扱いに難があり、特に常に振動のある鉄道車両に搭載することに不向きだったことです。水銀を電極に噴霧させて整流しますが、振動によってこの噴霧に困難が生じ、動作も不安定になるという弱点がありました。また、保守の面でも困難が伴い、煩雑な作業になるなどといった点でもデメリットとして挙げられます。 

 もっとも、これらのデメリットを承知で電機に搭載したのは、これに代わる機関車に搭載可能な整流器が存在しなかったことが最も大きな要因であったといえます。 

 しかし、半導体技術の急速な進歩により、大電力を扱うことができるダイオードが開発されると、状況は大きく変化していきます。シリコン整流器と呼ばれる機器は、ダイオードをブリッジ上に結線したものです。ダイオードは一定方向にしか電流を流さない性質があるため、これをブリッジ上に決戦すると、そこに流れた交流電流は+から−方向に流れる電流に変える性質をもつのです。 

 

ED70形以来、交流電機は試行錯誤の連続であり、交流技術の開発史そのものといっても過言ではない。黎明期は水銀整流器を装備したものの、その取扱の難しさや不安定さ、整備の煩雑さに悩まされたものの、半導体の進歩によってシリコン整流器が開発されたことで、ようやく安定した性能をもつことができた。そして、低圧タップ制御とシリコン整流器、磁気増幅器を装備したED75形は、交流電機の標準機ともいえる安定した性能を手に入れたことで、EF65形に次ぐ大量増備となった。分割民営化後も多くが運用され、21世紀も四半世紀が経とうという今日も、JR東日本が運用を続けている。(出典:写真AC)

 

 このダイオードをブリッジ上に結線した機器であるシリコン整流器は、意外にも私達の身近にたくさんあり、例えばスマートフォンの充電器や、パソコンの電源にも使われています。 

 このように、小型化も容易なシリコン整流器が登場すると、国鉄は交流電機に搭載しようと考えるようになりました。そして、大電力を扱うことが可能になると、早速これを交流電機に搭載するようになります。 

 シリコン整流器は構造が簡単で、振動にも強く、そして衝撃にも耐える特性を持ちます。この振動や衝撃にも耐えるというのは、鉄道車両に搭載するうえでとても重要なことであり、大きなメリットといえます。 

 一方、シリコン整流器で整流された電流は、完全な直流電流ではなく、波状の電流で出てきます。そのため、この波状の電流、すなわち脈流を可能な限り直流に近づけるため、整流器とは別に平滑回路が必要になることがデメリットであるといえます。 

 とはいえ、取り扱いが簡単で信頼性の高いシリコン整流器は、電機用に実用化されると、先ずは日本海縦貫線用として設計したEF70形に搭載しました。興味深いのは、EF70方の第1次車の製造は、ED72形と同じ1961年であることです。EF70形は交流機初のF級機ということもあって、大出力の機関車となることが想定されていたことや、日本海縦貫線にはED70形が既に運用に就いていたこともあって、新機軸であるシリコン整流器を搭載したEF70形に不具合などがあって使えないとしても、それを改修する時間を確保しやすかったからと考えられます。一方、ED72形は初の九州用電機であったため、シリコン整流器を搭載して万一不具合などが出れば、これに代わる車両がないため、既に実用化されていた水銀整流器を搭載したものと考えるんが自然かもしれません。 

 さて、このシリコン整流器は瞬く間に水銀整流器を搭載した交流機に取って代わっていきます。特に、東北本線向けに開発されたED75形は、交流電機の決定版ともいえる存在になっていきます。 

 

《次回へつづく》

 

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