旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

EF510 300番台の増備で置き換えが確実になった九州の赤い電機の軌跡【4】

広告

《前回のつづきから》

 

blog.railroad-traveler.info

 

■黎明期に開発され九州電化区間の輸送を担ったED72形

 九州島内の幹線が交流による電化が進められることが決まると、1961年(昭和36年)に門司港駅久留米駅間が電化開業したのを皮切りに、1965年までに熊本駅までが電化されました。 

 この電化に際して、国鉄は九州島内専用で使われる交流20,000V60Hzに対応した新たな電車となる421系と475系、そして客車・貨物列車用としてED72形とED73形を門司機関区に配置しました。 

 ED72形とED73形はともに交流20,000V60Hzに対応した交流電機で、ED72形は客貨両用として、ED73形は主に貨物用で運用されることを前提として開発されました。 

 1961年に先ず、試作車となるED72形1号機が東芝で落成しました。ED72形は主変圧器には乾式変圧器を、主変換器には風冷式イグナイトロン水銀整流器を搭載しました。これは、東北本線用に開発したED71形の試作車である1〜3号機のうち、2号機に搭載された機器をED72形に採用したものでした。当時、国鉄にとって交流電機はまだ開発されたばかりのものであり、半ば手探り状態の中で実用化させたという経緯から、ED71形1〜3号機は同じ形式でありながら、主変圧器と主変換器は製造したメーカーが開発した機器を搭載していたためで、日立で製造された1号機は主変圧器の冷却に送油送風式、主変換器は風冷式エキサイトロン水銀整流器を、東芝で製造された2号機は乾式(すなわち自然風冷)主変圧器と風冷式イグナイトロン水銀整流器を、そして三菱電機と新三菱重工(現在の三菱重工)のコンビで製造された3号機には送油送風式主変圧器と水冷式イグナイトロン水銀整流器をそれぞれ搭載しました。 

 国鉄は、この異なる機器を搭載した3両のED71形を試用した結果、ED71形の量産機には日立が製作した1号機の機器を採用しました。そして、東芝が製造した2号機の機器も良好な結果を出したことから、乾式主変圧器と風冷式イグナイトロン水銀整流器をED72形に採用したのです。 

 1961年に東芝で製造されたED72形1号機は、ED71形2号機と同様の機器を搭載しました。既にED71形で運用結果が出ていましたが、それでも新機軸の技術を投入していたことに加え、九州島内には蒸機がまだ数多く残っていたため、冬季の暖房は蒸気暖房を使うことにしたので、新たに蒸気発生装置(SG)も搭載したこともあり、1・2号機は試作車とされたのでした。 

 

交流電化黎明期の輸送を担うために製造されたED72形は、前面を「く」の字型に折り曲げた特徴のあるデザインだった。搭載した機器も、風冷式イグナイトロン水銀整流器といった交流機黎明期にみられたものを多用し、電圧の連続格子位相制御を可能にしていた。しかし、多分に試作的要素が強く、特に水銀整流器はその構造から鉄道車両には不向きで、動作も不安定で扱が難しく保守の面でも課題を抱えていた。後にシリコン整流器が実用化されると、ED72形もこれに交換する改造が施されたが、代わりに連続格子位相制御を失い粘着性能を低下させてしまうことになる。(ED72 1〔門〕 九州鉄道記念館 2007年10月9日 筆者撮影)

 

 ED72形は既にお話した通り、主変圧器は乾式として高圧タップ切替式による電圧制御でした。この高圧タップ切替とは、主変圧器の高圧側にタップを設け、集電装置から流れてくる高圧電流をこのタップ接続を変えることによって電圧を制御するものです。高圧側に設けられたタップを切り替えると、低圧側に流れる電圧も変化していき、速度制御も可能になるのです。 

 そして交流電流から直流電流に変換する主変換器は、風冷式イグナイトロン水銀整流器に電流が流れていき、巨大な真空管の中に封入された水銀を、電極に噴霧することで起きるアークを使って直流電流に変えられます。この水銀整流器は格子位相制御が可能になるので、電圧を連続的に変化させることができます。この格子位相制御によって、主電動機に印加される電圧は連続的に制御でき、引き出し時などにおける粘着性能も、抵抗制御である直流機に比べて高くなるため、主電動機を6基搭載する直流F級機よりも優れ、主電動機4基のD級機でもF級機並の性能を発揮することができるとされました。

 

《次回へつづく》

 

あわせてお読みいただきたい

blog.railroad-traveler.info

blog.railroad-traveler.info

blog.railroad-traveler.info