旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

EF510 300番台の増備で置き換えが確実になった九州の赤い電機の軌跡【16】

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《前回のつづきから》

 

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 客車列車の視点で見れば、それまで長距離輸送が主体で、普通列車も長編成で長距離を走破するのが当たり前でした。そのため、列車の運転本数は1時間あたりにしても少なく、乗客の立場からすれば利便性が高いとは言えないダイヤ編成でした。このことは、「使いづらい国鉄」というレッテルを貼られるようになり、特に人口の増加が著しい都市部で顕著になり、労使関係が極度に悪化してストも頻発したことにより、私鉄の路線網が充実した大都市圏を中心に「国鉄離れ」が加速していきました。

 

国鉄時代の花形であり、新幹線に次ぐ「主力商品」だった寝台特急列車も、利用者の減少に歯止めがかからなくなっていった。少しでも利用者を呼び戻そうと、合理化などによって九州島内で廃止されていたヘッドマークを復活させ、ED76形もそれを前面に掲げるようになる。形状は本州で使われているものとは異なり、お椀状の独特な形だった。しかし、寝台特急の末期は列車の多層立て化によって、二つの愛称を併記するようになるなど、かつての栄光からはかけ離れたものになっていった。ED76形が牽く24系25形の客車も、電源車を除いて僅か4両と短く、こちらもかつての栄光とはほど遠い寂しい編成になってしまっていった。(写真AC)

 

 こうした状況で、国鉄もただ手をこまねいているわけにもいかず、列車の運行に手間と労力がかかり、運転速度の向上も難しう多くの面で効率の悪い客車列車から、電車や気動車へ転換させることでこれらの課題を解決しようとしたのです。また、短中距離を中心とした地域輸送を重視し、短編成で高頻度運転をする「国電ダイヤ」へ転換させることで、「駅に着いて、ちょっと待てば乗れる」という乗客の利便性を考慮したダイヤ編成へと変えていきました。

 これらの施策によって、客車列車で運行される普通列車は激減し、ED76形を中心とした機関車の運用も減少していきました。

 一方、長距離列車でも1970年代を通して変化していきました。特に、新幹線博多開業によって長距離優等列車は大整理され、電車、客車を問わず急行列車は特急列車へ昇格あるいは統合され、その数を大幅に減らしました。残ったとしても、速達性の向上とサービス改善のために電車や気動車へ転換され、やはりED76形の活躍の場は急速に減少していきました。

 反面、国鉄の看板とも言えた寝台特急は、最後まで運用を保ち続けました。東京駅から1000km以上の長距離を夜通し走るブルートレインは、「さくら」「はやぶさ」「富士」「みずほ」そして「あさかぜ」と5本の列車が設定されていました。関西地区からも、「明星」「あかつき」「なは」といった列車が運行されていました。そして、九州島内だけを走る夜行急行列車もあり、「かいもん」「日南」が深夜帯に運行されていて、九州島内ではその先頭にED76形が充てられていたのです。

 しかし、残念ながら旅行手段の多様化、特に航空機の大衆化と大幅な割引運賃の設定、高速バスの台頭の前にブルートレインも太刀打ちできなくなりました。特に、14系や24系は1970年代の設計製造であるため、設備の陳腐化と開放式寝台が中心という接客設備が、時代の移ろいとともに利用者のニーズに合わないものとなってしまいました。国鉄も、この看板列車を何とか維持しようと「さくら」に4人用個室B新台「カルテット」を設定、「はやぶさ」「富士」には誰もが利用できるロビーカーを連結するなど、商品開発をする努力をしました。一時は人気を集めたようですが、寝台幅700mmという何とか寝返りをうつことができる狭さはいかんともしがたく、加えて寝台料金お特急料金を合わせると、安価なビジネスホテルに泊まることもできる値段設定などから客離れを食い止めることは難しかったといえるのです。

 こうして1987年の分割民営化を迎え、それ以後はJR東日本JR東海JR西日本JR九州の旅客4社を跨る列車として維持していました。しかし、運賃と料金の各社の配分がJR東日本JR九州にとって収益性が悪く、JR東海JR西日本にとっては深夜を走る列車のために駅などに要員を配置しなければならないこと、線路の維持に欠かすことのできない保守作業に必要な時間を確保することが難しいことなどから、次第にブルートレインの運行に消極的になっていきました。

 

《次回へつづく》

 

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