旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

「キマロキ」編成の仕事を1両でこなそうとした「モンスター」ロータリー機・DD53形【5】

広告

《前回からのつづき》

 

blog.railroad-traveler.info

 

 DD53形は除雪用ディーゼル機なので、除雪装置となるロータリヘッドへ動力を供給するため、エンジンからシャフトを接続できる構造でした。このシャフトは機器室内に設置されたエンジンに接続された液体変速機につなげられ、運転台の下を貫通するように通されて、前頭部の下部、左右それぞれ一か所ずつにシャフトの接続部が設置されていました。ロータリーヘッドを連結したときには、このシャフト接続部にヘッド側のシャフトを接続し、左右1本ずつのシャフトをロータリーヘッド内で伝えられてきた動力を1つにまとめることで、ロータリー装置を動かす構造になっていたのです。

 DD53形が装着する台車は、動力台車としてDT131形を2個、中間台車としてTR101B形を1個装着していました。DT131形は基本となったDD51形が装着するDT113形とは異なる構造で、DD53形の補機として設計製造されたDD20形2号機と同じものでした。この台車は軸距が1800mmと短く、DT113形の2200mmと比べて短いことが特徴の一つです。軸距が短い分だけ床下に占める面積の割合を抑えることができますが、安定性の面で不利になります。しかし、DD53形はロータリーヘッドだけで全長10,000mmにも及ぶため、DD51形と同じ車体長にした場合、合計で28,000mmにも及ぶ巨大な機関車になってしまうため、車両本体の長さを抑える必要がありました。またDD53形は、冬季は除雪用として使うことが前提であるので、暖房用の蒸気発生装置を搭載する必要はありませんでした。このことも、DD51形よりも車体長を短くすることを可能にしましたが、その分だけ床下の面積に余裕がなくなってしまうため、燃料タンクなどの床下機器を設置するため、軸距の短いDT131形が選択されたと考えられるでしょう。

 DD53形は湿気が多くこびりつきやすい本州日本海沿岸の雪をかき寄せ、遠方に投射する除雪をしながら、他の列車のダイヤを可能な限り支障をきたさないように高速で走行することを可能にするディーゼル機として、強力なDML61形エンジンを2基搭載し、この動力をロータリー装置の駆動用に充てることができます。そして、DD14形と同様に2基のエンジンの内、1基を除雪用動力として使い、もう1基を走行用動力として使うことができます。つまり、DD14形であれば2基のエンジンを使って除雪するのを、DD53形では1基のエンジンで同等の能力を発揮できるのです。これによって、DD53形は補機を必要とせず、単機でこれをこなすことが可能だったのです。

 

DD51形をベースに強力なロータリ-式除雪用ディーゼル機として開発されたDD53形は、DD14形と同様に凸型の車体ではなく箱形の車体をもっていた。機器室から運転台下を牽き通す駆動用のシャフトを通じてロータリーヘッドに動力を供給することが可能だった。夏季にはDD51形の運用を担うこともあり、登場当初はこの姿で本線にでたこともあったようだ。(DD53 1 碓氷峠鉄道文化むら 2011年7月28日 筆者撮影)

 

 もっとも、「三八豪雪」のような大雪の時に、DD14形と変わらない性能では除雪もできなくなってしまいます。特に本州日本海沿岸の豪雪地帯に降る雪は、湿気を帯びた雪質なのでDD53形のエンジン1基ではそれもできない可能性があります。そこで、エンジン2基すべてを除雪用動力に振り向けることで、さらに強力な除雪性能を発揮したのでした。

 ただしこの場合、DD53形は走行用に使えるエンジンがなくなってしまい、単機での運用が不可能になってしまいます。そこで、エンジン2機を使っての排雪列車として運用するときには、後補機による補助が必要になります。

 DD53形がこうした強力な排雪列車としての運用に充てるために、専用の補機としてDD20形が製作されました。DD20形といっても、試作機として製造された1号機ではなく、これを基本に欠点を改善した2号機が製造されました。DD20形2号機は1号機とは異なり、セミセンターキャブの凸型車体という国鉄ディーゼル機としてはありふれた形態でしたが、重連総括制御装置を搭載し、DD53形と同じ仮想心皿のDT131形を台車として装着した車両でした。後に2号機の1両だけでは対応が難しくなることから、試作機である1号機にも重連総括制御装置を設置して、DD53形の後補機として2号機とともに充てられるようになりました。

 このように、DD53形は国鉄史上もっとも強力な除雪用ディーゼル機としての性能をもち、後補機のDD20形とともに豪雪地帯での大雪に対抗する「切り札」として、特に除雪を担う保線職員の期待を大いに集めたのです。

 

《次回へつづく》

 

あわせてお読みいただきたい

blog.railroad-traveler.info

blog.railroad-traveler.info

blog.railroad-traveler.info