旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

走り抜ける「昭和の鉄道」 ラッシュ時の切り札と伝統を守って・京急800形(Ⅰ)

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  「ハマの赤いあんちくしょう」と呼ばれる京急電車。その線路の幅、すなわち軌間(ゲージ)1435mmという広さであることに由来する安定感を武器に、住宅街すれすれの線路でもスピードを出して走り抜けます。

 かつては国鉄時代から今日はJR東日本と速さ、快適さ、そして便利さで競争し続けきたのは、東京都心から京浜地域を抜けて三浦半島へと結ぶ鉄道路線という性格であるが故のこと。
 東海道本線横須賀線根岸線とほぼ並行しているためで、平日なら通勤通学客を、夏なら海水浴客を、そして冬は初詣などなど。そして最近では相互乗り入れをする都営地下鉄京成電鉄とも協力して、成田空港や羽田空港へ向かう旅行客も対象になり、とにかくお客さんの奪い合いには事欠きませんでした。

 それがために、京急は最高速度120km/hで走る快特をひっきりなしに走らせています。その合間を縫うように走るの普通列車は、短い間隔に置かれた駅を一つひとつ停車していきます。そして、快特との待ち合わせ駅まで全力で走って、ぎりぎり滑り込んで快特をやり過ごすのが日常茶飯事です。

 そのため、京急の電車は加速・減速とも性能がよい車両がつくられました。
 それでも、従来からつくられていた1000形電車では、対応しきれないこともあったとか。ラッシュ時には多くのお客さんをできるだけ短い時間で乗り降りさせて、停車時間を短くすることで、列車の運転時間を短くしようと考えられました。

 こうして1978年に登場したのが、「京急のダルマ」こと、800形電車でした。

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 この電車の正面のデザインは、それまでの京急の車両とは打って変わって斬新なものでした。

 正面は大きな二枚の窓、その周りには白色で塗装されて縁取られました。
 見るからに明るいイメージです。

 この斬新なデザインの800形電車は、一方では伝統がしっかりと息づいていました。

 なにより、おでこに一つだけ取り付けられた前灯がその一つです。
 この時代、前灯を1個だけ取り付けた鉄道車両は、国鉄がつくった通勤形電車の103系電車や、戦前・戦後直後につくられた国鉄の旧性能電車、そして古い電気機関車ぐらいでした。
 新しく造られる車両のほとんどは、前灯を2個以上装備していたのとは対照的です。

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 通勤ラッシュの切り札的存在で登場した800形電車でしたが、お客さんが乗り降りに使うドアーは、なんと片開きドアーでした。やはり、同じ時期の多くの電車は両開きドアーを採用していたので、それを考えると何とも古いイメージになってしまいます。

 この二つは、京急電車の伝統的な車両デザインでした。
 そもそも京急電鉄は、アメリカのパシフィック電鉄をお手本としていたので、車両のデザインもそれに倣ったものでした。そして、当時の京急電鉄の方針として、前灯は1個、ドアーは片開きというのが車両設計の条件だったようです。

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 伝統を守り続ける一方、新機軸も大いに導入されました。

 客室の窓は1段下降式の大きな1枚窓にないりました。その分、車内は明るくなりました。窓枠はサッシのアルミが剥き出しというのがほとんどですが、京急FRPの窓枠を採用しました。この窓枠は日本では初めてで、その後の京急電車もFRPの窓枠を採用していきます。

 いまでこそ日除けのロールカーテンを備えていますが、1978年の製造当初はロールカーテンはなく、熱線吸収ガラスが使われていたそうです。今日、JRをはじめ多くの鉄道事業者が採用している窓ガラスを、早くも800形電車は採用していました。

 電装品も当時としては最新のものを採用しました。界磁チョッパ制御は京急の電車では初めてで、電力回生ブレーキも装備しました。

 そして、新製当初から冷房装置も装備していて、接客サービスの向上にも貢献しました。

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 座席も座り心地を考えて奥行きが深く、そして一人あたりの幅も広めにとって設計されました。もちろん、この時代の座席のクッションはスプリングを内蔵し、座り心地も考えられています。

 コストこそ高めになりますが、その分長い距離を乗るお客さんにとっては、乗っていても疲れを感じさせないのではないでしょうか。こうしたあたりは、平成世代、特にここ最近のコスト優先でつくられた、ウレタンクッションの硬い座席(板の上にスポンジを付けたベンチと揶揄することも)とは比べものになりません。

 座席の仕切も新しく取り入れた新機軸でした。木目調のデザインは落ち着いた感じを演出するのには十分でした。

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 そんな「ダルマ」こと800形電車も、残された時間はあと僅かになってきました。

(次回へ続く)

 

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