旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

走り抜ける「昭和の鉄道」 マルーンの艶やかさは移籍先でも・能勢電鉄1500系(Ⅰ)

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マルーンの艶やかさは移籍先でも・能勢電鉄1500系(Ⅰ)

 大都市で過酷な通勤ラッシュを支えて走り続けた鉄道車両も、月日が経ち新たにつくられてやってくる後輩が増えると、その役目を終えて引退していきます。多くはその功績を称えられつつも、車両工場などで解体されて姿を消していく運命です。

 鉄道車両も見方を変えると工業製品であるので、用途を失えばただの金属の塊に過ぎないので、いつまでもそのままにしておいては経費もかかれば場所も取ってしまいます。そうなると、通常の事業を営むには邪魔になってしまうのも仕方ありません。
 それ故、鉄道マンが手塩にかけてメンテナンスした車両といえども、やむなくその手で解体せざるを得ないのです。

 ところが、中には幸運を掴んで第二の活躍の場を与えられる車両もいます。

 よく知られているところでは、東急電鉄で活躍したオールステンレス車が、中古車両として活躍しています。北は青森から、西は熊本まで実に多くの鉄道会社に譲り渡されています。

 ほかにも幾つかの会社で活躍した車両たちが、グループ会社に移籍したり、あるいはまったく関連がない会社に移籍する例はあります。

 今回のお話の主人公、能勢電鉄1500系電車もその一つでした。

 「でした」とは過去形です。そう、すでにこの電車は能勢電鉄からも引退してしまいました。

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 この写真を一目見ると、深みがありながらも艶っぽいマルーン一色に塗られた電車は阪急電鉄かと見まがうかも知れません。親会社と同じ塗装を施しているので、そう思っても不思議ではありません。

 さて、この能勢電鉄1500系。もともとは、能勢電鉄の親会社でもある阪急電鉄で走っていました。阪急時代は2100系と呼ばれ、宝塚線を仕事場にしていました。

 阪急電鉄で2100系として誕生したのは1962年のことでした。神戸線用の2000系よりも少しだけモーターの出力を落とし、宝塚線に適した性能にした設計に変えて造られました。

 とはいえ、基本的な性能は神戸線用の2000系と同じ。1960年代前半につくられたこの電車には、なんと自動的に一定の速度で走ることができる機能をもたされました。当時は「人工頭脳をもつ電車」などと言われたそうで、ただ単に一定の速度を維持するだけではなく、お客さんがたくさん乗っていて列車の重さが重い時でも、少ない軽い時でも自動的に対応できるという優れ物でした。

 今の時代では「人工頭脳」=AIは私たちの生活の身近になりつつありますが、この当時は文字通り「凄い、近未来的な技術」だったのかも知れません。

 宝塚線に適した性能といえば、この当時、架線を流れる電気は直流600V。国鉄や今日の主流である直流1500Vよりもはるかに低い電圧でした。2100系もこの電圧に合わせた電気機器を載せていました。

 1960年代も後半に入ると高度経済成長期に入り、沿線の開発も進み、利用するお客さんが増え続けてきたことで、列車の増発やスピードアップといった輸送力の増強は喫緊の課題になっていきます。

 1969年には架線の電圧が直流1500Vへと変わりました。

 電圧が上がったことで、2100系もそのままの電気機器を載せていては使えません。そこで、一部は電気機器を1500Vに対応できるものに交換しましたが、先にお話しした「人工頭脳」なる装置は1500Vには対応できず、この改造とともに役割を終え、2100系は抵抗制御で走るごくふつうの通勤形電車になりました。

 その後、宝塚線を中心に阪急沿線の人たちを運び続けました。

 しかし、1980年代に入ると沿線の人口はさらに増え、それとともに列車の速達性が求められるようになりました。こうなると、列車のスピードをアップしなければなりません。

 2100系が仕事場にしていた宝塚線は、1980年代に入ってスピードアップがされました。ところが、2100系はそのスピードアップに対応できる性能をもっていなかったことや、冷房装置も装備していなかったことで御役御免となってしまいました。

 しかし、親会社である阪急電鉄では御役御免にはなりましたが、子会社である能勢電鉄では活躍できる道がありました。この当時の能勢電鉄は、架線電圧はまだ600Vのままでした。

 2100系はもともとが600V対応の車両だったので、再び600Vへ改造されて能勢電鉄に移籍し、1500系と名乗って第二の活躍を始めました。

 ちょうど、長年勤めてきた会社で定年近くになり、子会社へ出向したり転籍したりするサラリーマンがいますが、鉄道車両でもこれに似た形になったのでした。

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