旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

回想録 工事臨時列車・砕石輸送チキ車の場合【1】

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 いつも拙筆のブログをお読みいただき、ありがとうございます。

 最近、にわかに工事臨時列車(工臨)が注目を浴びているようです。昔は運ぶ貨物にあわせた物資別適合貨車と呼ばれる多種多様な貨車で組成された専用貨物列車を多く見かけましたが、今日ではごく一部の例外を残してほとんどがコンテナ化されてしまったので、チキ車やホキ車で運転される工臨も見応えのある珍しい存在になったためでしょう。

 それら事業用として残された貨車たちも、既に車齢は40年近くになるものがほとんどで、走行距離こそ短いとはいえ、やはり老朽化の進行は避けることができず、またこれらを牽くための電気機関車ディーゼル機関車保有しなければならないことや、電車や気動車とはまったく異なる運転特性と技術が要求されるために、そのための運転士を確保しておかなければならないなど、コスト面では看過できない実態があります。

 そのため、こうした非効率な状態を解消し、老朽化した貨車や機関車を置き換えるために、レール輸送や砕石輸送用の気動車が開発されて実用化されています。レール輸送用としては、JR東海が開発したキヤ97系がそれで、2008年に登場して既に10年以上が経っているので多くの方がご存知だと思います。最近では、JR東日本が自社仕様に合わせたキヤE195系として製造していますが、基本的にはJR東海のキヤ97系をほぼそのまま、一部だけ手を加えただけで導入しています。こうすれば、開発費を浮かせることができるという、合理的経営が徹底されているJR東日本らしいといえばそうかもしれません。

 もっとも、ここで不思議に思われるのは、そもそも機関車が担っていたレールや砕石といった貨物を、気動車で運ぶことができるのかということです。機関車+貨車であれば、動力は全て機関車が担います。機関車は重量の嵩む貨物列車も牽くことができるパワーを備えているので問題はありません。しかし、気動車では同じディーゼルエンジンでも小型のものを装備しているので、自ずとそのパワーは機関車のものとくらべても小さくなってしまいます。

 しかし、気動車の強みは動力が分散していることです。ディーゼルエンジンを編成内に複数装備すれば、それぞれのパワーで車両の引き出しを可能にします。そのため、十らのチキ車にあたる車両にもエンジンを装備しているので、例え重い物を載せていたとしても、自分の力で走ることが可能になるので、旅客車同様の走行が実現できるというものです。

 そもそも、事業用として使われているチキ車やホキ車に載せるレールや砕石は、一般の貨物列車に載せられるコンテナなどとは異なり、貨物としては軽量の部類に入ります。一般的なレール輸送で使われるチキ6000は、積載荷重が35tに設定されていますが、めいっぱいの荷重を載せることは稀です。それは、レール輸送であれば定尺レールと呼ばれる1本あたり25mになります。

 

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チキ5232【千マリ】(越中島貨物駅常備) 2014年9月16日 八王子駅(筆者撮影)

 

 今日、JR線で多く使われる幹線用の60kgレールは、1mあたりが60kgの重さがあるので、1本の重さは1500kgになります。そして、これを10本運んだとしても合計では15000kg=15tで最大荷重にも届きません。しかも、定尺レールはチキ車1両で運ぶことができないので、たいていは2両ほどが連結されて使われます。そうすると、積載荷重は分散されるので1両あたり7.25tにまで減ることになります。E231系などの最大定員が162名で、日本人の平均体重を約60kgとして計算したときに、満員状態では9.72tの荷重がかかることを考えると、通勤電車よりも軽いことになるので、気動車での輸送が可能になることがお分かりいただけるでしょう。

 さて、こうしたレール輸送や砕石輸送に用いられる事業用の貨車は、ごく一部の例外を除いて基本的には旅客会社が国鉄から継承しました。貨車と言えばJR貨物というイメージですが、これは多くの本線は旅客会社が保有することになったためです。分割民営化の計画段階から、貨物会社はその経営基盤が脆弱であることが分かっていたので、可能な限り負担を減らすための措置として、JR貨物は線路を持たない第二種鉄道事業者として発足しています。

 しかし、貨物駅構内の線路や側線、さらには専用線の一部はJR貨物自身が保有し、あるいは委託を受けて保守管理をしています。当然ですが、こうした線路も使えば使うほど損耗してくるので、定期的な検査はもちろんですが、消耗資材などの交換は欠かせません。

 これらの線路には、低速とはいえただでさえ重量の嵩む車両がひっきりなしに通過するので、本線ほどとはいいませんが、それなりに摩耗したり破損したりするもの。こうしたことを未然に防ぐために、発足当初は旅客会社の保線区に相当する施設区が置かれていました(後に電気設備を保守管理する電気区と統合して保全区へと改組、さらに今日は管理業務を中心にになう保全技術センターへと改編)。

 施設区の職員は、国鉄時代とほぼ変わらず毎日のように徒歩での巡回検査を欠かしませんでした。雨天時は別ですが、暑かろうが寒かろうが予め計画されたとおりに、定期的に駅や区所の構内の線路を歩き、目視での検査を基本に業務に当たっていました。やがて技術の発達によって電子機器による検査も行われるようになりますが、それでも経験がモノをいう仕事であることには変わりません。

 その検査の中で、砕石やレールが摩耗して交換などが必要になると、当然、その補修工事を計画します。一言で補修工事というと簡単ですが、レール交換や砕石全交換となると距離は短くても比較的規模の大きな作業になるので、わずか10名ほどの施設区の職員だけでは施工できないので、専門の工事業者に委託する形で進められます。

 ところが、この工事で必要となる砕石やレールは、一朝一夕に手配することはできません。もちろん、予期しない破損などに備えて、予備レールと呼ばれる応急処置用のレールは保有しています。駅や線路際に数本置かれているレールを見かけることがあると思いますが、それらは応急処置用に配置されているレールです。しかし、全交換作業ではこれらのレールを使うことはまずなく、新しいレールを手配することになります。

  

《次回へつづく》

 

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