旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

「お家の事情」で構造が異なっても同一形式を名乗った北の交流電機【4】

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《前回のつづきから》

 

 ED76 500番代は多くの耐寒耐雪装備をもつ、北海道専用の交流電機ですが、台車などの足回りについては0番代とほぼ同じでした。

 電動台車はED74以来、交流D級電機に標準的に装着されているDT129を装着しました。この台車は主整流器を水銀整流器からシリコン整流器に変更した際に、電圧の連続位相制御が失われたことで開発された台車です。連続位相制御を失ったことで粘着性能が低下し、起動時や進段時には電圧差による衝撃も起きてしまいます。直流機がF級機を標準としているのに対して、交流機はD級機を標準としていました。これは、電圧の連続位相制御によって、これらの課題が直流機と比べて有利であったからです。しかし、シリコン整流器は連続位相制御が不可能なため、実質的な性能低下をきたしてしまいました。

 その解決策として、従来の心皿を用いた台車ではなく、仮想心皿方式の台車としました。ただし、主電動機からの動力は動輪軸に伝えられますが、車体を動かす動力は台車枠から心皿を経て台枠に、そして連結器に伝えられます。しかし仮想心皿方式では、その動力を伝えることはできません。

 

北海道向け交流電機として開発されたED76 500番代は、九州向けの0番代、1000番代とは電気的構造も大きく異なり、低圧タップ切換制御とタップ間電圧をサイリスタ位相制御する方式になった。北海道の雪は細かく車内に流入することもしばしばあったので、多くの酷寒地装備が施されている。中でも暖房用の蒸気発生装置は九州向のものと比べて蒸発量、蒸気圧ともに大きくしたSG5Bを搭載した。このSG5Bは大型の蒸気発生装置で、そのために車体は九州向のものよりも長くなり、それはF級機に迫るものとなった。(ED76 509〔空〕 小樽市総合博物館 2016年7月26日 筆者撮影)

 

 そこで、DT129は台車枠下方から台枠を引張棒で連結して動力を伝えました。ただし、単に引張棒で連結したのではなく、台車枠から台枠にかけて上がるように角度をつけることで、力点をレール面に下げることで粘着力を確保しました。「ジャックマン方式」と呼ばれるこの動力伝達方式は、その後のD級交流電機の標準台車として装着され、ED76 500番代もこの「ジャックマン方式」のDT129を装着しました。

 500番代はD級機ですが、強力で大型の蒸気発生装置や大容量の燃料と水、数多くの耐寒耐雪装備をもつため、車体長はもちろんのこと、車体重量も相当の重さになります。動輪軸だけで車体を支えることもできますが、そのままでは軸重は過大になり、軌道への負担を増すばかりか高速での走行も困難になってしまいます。

 そこで、0番代と同様に枕ばねに空気ばねを使用した中間台車、TR103を装着しました。この中間台車は動力は持たないので、単に車体を支える役目しかありません。しかし、枕ばねに空気ばねを使うことで、軸重の調整が可能になります。空気ばねに入れる空気を少なくすれば、動力台車に係る負担が大きくなって軸重も大きくなり、逆に空気を多く入れれば重量を中間台車に分散できるので軸重を軽くすることができます。TR103はこの制御が可能で、0番代では軸重制限のある九州南部での運用を可能にしました。

 一方、北海道専用の500番代にもこのTR103は装着されましたが、九州の0番代とは異なる使い方がされました。そもそも、電化とともに函館本線小樽−旭川間は軌道強化も施され、軸重16トンでも入線が可能でした。言い換えれば、中間台車がなくとも500番代の運用ができるといえるのです。

 しかし、冬季は蒸気発生装置のために大量の燃料と水を積載します。そのため、燃料や水を満載したときと、蒸気発生装置を作動させてそれらを使った後では機関車の重量に違いが出て、軸重も大きく変化してしまいます。特に蒸気発生装置を使う冬季は降雪も激しいため、軌条面(レール面)にも雪が降り積もるため、空転を起こしやすい条件になります。空転を解消させるには主電動機の回転数を下げてトルクを低くするか、軸重を重くすることです。しかし、燃料や水を消費したことで車両重量が軽くなった状態では、軸重を重くしたくても難しくなってしまいます。

 そこで、500番代では燃料や水を満載したときに空気ばねを使って軸重を分散させ、それらを消費し車両重量が軽くなると、空気ばねの空気を抜いて動力台車にかかる重量を加えて軸重を重くするのです。こうすることで、冬季の車両重量の増減に対応し、軸重の変化を可能な限り抑えて粘着性能を確保したのです。

 この他にも、挙げればきりがないほど500番代には、北海道特有の厳しい気象条件に対応した耐寒耐雪装備を施し、厳冬の鉄路へと挑んでいったのです。

 

《次回へつづく》

 

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