旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

鉄道車両の冷房装置 出力の肥大化と大都市の気温上昇【3】

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《前回からの続き》

 

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大手私鉄・特急用車両の場合

 国鉄優等列車で運用する特急形や急行形を中心に冷房装置を設置し、接客サービスの向上を図っていた頃、大手私鉄でも同様に優等列車として運用する車両を中心に冷房化が始められました。

 とはいえ、一口に大手私鉄といっても、会社によってその事情は様々なので、この言い方が当てはまるかは議論の余地があるところでしょう。

 この傾向が最もよく表れていたのは、国鉄と競合関係にある鉄道事業者でした。

 例えば新宿と小田原を結ぶ小田急は、国鉄東海道本線東海道新幹線と競合関係にあります。どちらも箱根などへの観光輸送という面においては競合関係でしたが、高速電車の開発という面では協力関係にありました。

 今も語り継がれる小田急初の連接台車を装備した特急用電車3000形(SE車)は、その開発にあたっては国鉄の鉄道技術研究所との共同開発でした。競合関係にある鉄道事業者同士が手を組むとは不思議なことですが、高速で走行できる電車を開発したい小田急と、その成果をもとに新幹線の開発に繋げたい国鉄の思惑が一致し、競合関係でありながらも協力関係を保ったのでした。

 ところで、この小田急3000形は、就役直後は特急用でありながらも冷房装置は搭載されていませんでした。これは、3000形が開発された当時は車載できる冷房装置がなく、新製当初は事務所などで使う冷凍装置や、国鉄冷蔵車のように氷を積んで熱交換をすることで冷気を車内に送ろうということまで議論されたそうです。

 しかし、いずれも不適とされて実現されませんでしたが、3000形に次いで登場した3100形(NSE)が登場する頃には、鉄道車両に搭載できる小型軽量の冷房装置が開発されたことから、冷房能力9,000kcal/gのCHU-40(三菱電機製)を2基搭載しました。もっとも、このCHU-40は床下設置のヒートポンプ式冷房装置で、これは、高速運転を前提としていた連接構造の車両であるため、重心を低くとる必要から床下設置になったといいます。

 

小田急電鉄の特急用車両であるロマンスカーは、3100形NSE車からは新製時から冷房装置が装備されていた。しかし、運用していく中でより快適な車内サービスを実現させるために、冷房装置の増強が後年に施されている。屋根上に1基だけのキセが見えるが、これが後付で設置された冷房装置で、新製時から床下に装備していたCHU-40(9,000kcal/h)2台に加えて、屋根上にCU-193(10,500kcal/h)を追加した。(開成駅前に保存されている3181号 ©Cassiopeia sweet, Public domain 出典:ウィキメディア・コモンズ)

 

 一方、日本でも有数の観光地である日光を沿線にもつ東武は、小田急のように国鉄とは協力関係にありませんでした。どちらかというと、日光方面での観光輸送では常に敵対していたと言ってもいいほどで、東武が自信をもって投入した1720系(DRC)を開発するときには、国鉄東武に対抗して投入してくるであろう車両の仕様を想定し、それを上回る性能と接客設備をもつ車両として開発したのでした。

 当然、1720系は新製当初から冷房装置を装備していました。国鉄が日光方面へ運行する列車の車両は「こだま形」(151系)であると想定していたため、これに対抗するため1720系は冷房装置を搭載したのでした。

 1720系に関しては資料があまり多くないため詳細はわかりませんが、屋根上に搭載している冷房装置の外観と、製造された年代から見ると、国鉄のAU12に相当しているものと考えられます。先頭車で5基、中間車で6基を搭載していることから、車両全体の冷房能力はAU12と同等と仮定して22,500kcal/h〜27,000kcal/hと、国鉄の特急形電車に匹敵するものでした。小田急3000形と比べて冷房能力が強力なのは、3000形は連接車体で1両あたりの車体長が短いのに対して、1720系は2軸ボギー台車を装着する20m級の大型車体であることから、このような差があるのです。

 いずれにしても、大手私鉄国鉄と競合する以上、接客設備の面で国鉄車両と同等か、それを上回るものを求める必要があり、1960年代にはこうした冷房装置を装備するのが当たり前となっていたのでした。

 

《次回へつづく》

 

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