旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

役割は地味だけど「花形」の存在だった電源車たち【1】

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 いつも拙筆のブログをお読みいただき、ありがとうございます。

 「電源車」という車両をご存じの方は、おそらく筆者と同世代に近い方や諸先輩方、そして熱心に研究されておられる方かと思います。筆者がこの「電源車」という言葉を初めて耳にしたのでは、鉄道の魅力に取り憑かれた幼少期の頃であり、それは単に寝台車などと同じく車両を表す言葉の一つに過ぎず、どのような役割をするものであるのかなどまったくもって理解していませんでした。

 この「電源車」の役割を理解したのは小学校に入って少し経ってからのことでした。あまり近いとはいえない市立図書館に自転車を走らせ、そこで借りてきた資料に載っていた形式図を見て、初めて客車に電源を供給する専用の事業用車であることがわかったのです。

 もっともこの電源車と呼ばれる車両ですが、純粋な電源装置のみを搭載して新製された車両はなく、改造車である20系の簡易電源車・マヤ20か、同じ20系を急行格下げの際にP形改造未施工のEF58が牽引することを想定してCPなどを装備したカヤ21だけで、あとはすべて荷物車として分類されていました。

 とはいえ、20系固定編成客車以降に製造された新系列客車は、従来の客車とは異なった考え方で設計されました。軽量車体構造はもちろんですが、客車を牽く機関車は選ばない柔軟な運用を可能にし、客室内はすべて冷房化したことで快適なサービスを提供できる水準に引き上げましたが、これらの問題を解決するために常につきまとっていたのが電源と圧縮空気の問題でした。

 

寝台特急「あけぼの」の最後尾につく電源車カニ21。ナハネフ22ににた意匠だが、窓が3枚に分かれているの画特徴だった。(©Shellparakeet, CC0 出典:ウィキメディア・コモンズ)

 

 従来の客車では、ブレーキ装置は自動空気ブレーキのみを装備するのが基本でした。このブレーキ装置に使われる圧縮空気は列車を牽引する機関車から供給されるもので、客車側には特別な装備を必要とせず、車両単位での解結を容易にし柔軟な運用を可能にする反面、すべて機関車からの供給に頼らなければならないので、ブレーキの応答性は悪く、編成が長くなるほどそれは顕著になって現れました。そのため、編成の長大化や列車の運転速度の向上の妨げとなっていたのでした。

 また、従来の客車の中には冷房化改造を施されたものもありました。特に日本初の軽量車体で設計された10系は、特に寝台車は早期に冷房化がされ、夏季の夜行列車における快適性を向上させました。これら冷房用の電源は、従来の電灯用電源とは比べ物にならないほど消費量が大きいため、車軸発電機と蓄電池の組み合わせでは賄えません。そこで、冷房装置を搭載した車両には、自車の電源を賄うことができる三菱自工製QD4形ディーゼル発電機を搭載しました。この発電セットは他車に電源を供給することを考慮していなかったため、すべての冷房装置を搭載した客車にそれぞれ1セット装備されていました。そのため、発電セットを装備した車両それぞれに燃料を給油しなければならなかったり、検査などでも発電セットの分だけ作業工程が増えるなど、運用の効率面では手間とコストのかかるものでした。

 他方、新系列客車では特急列車で運用することを前提としていました。そのため、最高運転速度も従来の客車と比べて高速になり、同時に乗り心地も一定程度の水準を確保しなければなりません。しかし、従来の金属コイルばねを枕バネにつかった台車では限界もあり、これらの解結には空気ばねを採用することでした。

 単に枕バネに空気ばねを使うと書くと、とりたてて難しいこととは考えないかもしれません。それは、今日では新たに設計製造される車両は動力分散式の電車か気動車であるため、空気ばねに供給する圧縮空気をつくつ空気圧縮機(コンプレッサー、CP)を装備しているのは当たり前で、空気ばねを採用するのは容易だからです。

 ところが、動力集中式の客車や貨車ではそうはいきません。空気ばねに圧縮空気を供給する空気圧縮機どころか、それを動かすための電源装置もありません。かつて最高運転速度を100km/hに設定し、貨物列車としては前代未聞の高速運転を実現させた10000系貨車は、荷崩れ防止などの観点からすべて枕バネに空気ばねを装備したTR203を装着しました。また、このような速度で運転することをを可能にするため、ブレーキ応答性能を高めた応荷重装置付電磁自動空気ブレーキ(CLEブレーキ)を採用しました。これらの装備を動作させるため、機関車側には圧縮空気を貨車に送り続けることを可能にする元空気だめ管や、電磁ブレーキ用の回路を機関車に装備させました。EF66EF65 500番代F形などは、10000系貨車を引くことを前提とした装備をもって製造された機関車であり、これらに牽かれて10000系貨車は本領を発揮できたのです。

 客車の場合はもっとやっかいでした。貨車であればブレーキ装置や台車など、最小限の装備を追加するだけでよかったのですが、乗客が乗る車両となるとそれだけでは済みません。車内の照明や空調装置などのサービス電源は欠かすことができず、それに加えて高速運転を実現できる機器も装備しなければなりませんでした。

 国鉄が1958年に開発した20系客車は、それまでの国鉄客車の常識を大きく覆す斬新な設計を多く採り入れて設計されたのです。

 

《次回へつづく》

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