旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

貨車の色にも「意味」があった【6】 百花繚乱のタンク車も色には意味がある 

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《前回のつづきから》

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百花繚乱のタンク車も色には意味がある 

 貨車の塗装と一言でいっても、枚挙に暇がありません。

 それもそのはずで、貨車は様々な形態のものがあり、そして国鉄だけではなく貨物輸送を利用する企業が所有する私有貨車もあるので、同じ種別の貨車でも形式は多数に及びます。

 その中でもタンク車は、最も形式が多い貨車だといえます。

 タンク車の積荷で最も一般的なのは、ガソリン・石油類でしょう。いちばん少量のタ級から大容量のタキ級まで、ガソリンなどを輸送するタンク車は数多くありました。国鉄保有したタンク車もありましたが、ほとんどは石油会社が保有していました。

 その石油会社も数多くあり、日本石油や出光興産、ゼネラル石油、モービル石油などなどあげればキリがありません。そして、石油会社が保有する私有貨車では、保有する会社のみが使うことができるため、効率的な運用を妨げるとともに、石油会社としてもタンク車を保有するコストが看過できなくなっていきました。

 そこで、石油輸送専門の会社を設立して、その会社にタンク車を保有させて借用する形態がとられました。その代表は日本石油輸送でしょう。石油会社に代わってタンク車を製作し保有した石油輸送会社は、実に多くのタンク車を製作して保有しています。

 タキ35000やタキ38000、さらにはタキ43000など、これらのタンク車は石油輸送会社が保有し、石油会社が借り受ける形でガソリンなどを輸送するようになりました。かつては、タンク車のタンク体に、保有する石油会社の会社名と社紋が掲げられ、多種多様なタンク車と相まって、百花繚乱という言葉がぴったりで、見ていても楽しいものでした。今日ではこうした光景を見ることはなくなり、ある意味では寂しいものがあります。

 一方、石油輸送会社が保有するタンク車を使っての輸送は、石油会社が必要とした数のタンク車を借り受け、自社の製油所でこのタンク車にガソリンなどを積み込み、内陸部などにある自社または系列の油槽所、オイルターミナルまで運んでいます。そのため、タンク車を保有する必要もなく、輸送にかかるコストを軽減できるメリットがありました。

 こうした石油輸送会社の中で、日本オイルターミナルは少し変わった経緯で設立されました。

 日本の石油輸送会社は大きくは二社あり、一つは日本石油輸送です。その名前革も推察できますが、日本石油輸送は主に日本石油(当時)が出資して設立されました。現在でも、ENEOSホールディングスが主要株主で、関連会社に位置づけられています。

 もう一つは日本オイルターミナルです。会社設立こそ1966年になりますが、こちらは出資が国鉄石油元売会社でした。国鉄が出資しているので、当然、鉄道を利用した石油輸送を主目的にしています。そのため、日本オイルターミナルの油槽所は、国鉄駅に隣接して設けられました。

 そして、両社とも同じ石油輸送会社ですが、日本石油輸送は石油会社にタンク車をリースして自系列の油槽所に輸送するのに対し、日本オイルターミナルはタンク車こそ石油会社にリースする形態を採りますが、日本オイルターミナル保有し石油会社にリースする油槽所へと運ぶことが異なるのです。

 そのため、同じタンク車でも運用が異なりました。日本オイルターミナル保有するタンク車は、到着駅が同社の保有する油槽所のある駅となるので、行先が決められていました。そのため、他のタンク車とは明確に識別できるように、塗装は規定の黒色ではなく青15号に塗られたのです。

 

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日本オイルターミナル保有するタキ車は、貨車の標準塗色である黒ではなく、客車などで使われている青15号に塗られた。これは、同社が国鉄石油元売り各社の出資によって設立され、それまでは石油元売会社がそれぞれ保有するタンク車を、自社の製油所から油槽所へ輸送していたのを、製油所から同社が保有する油槽所へ輸送するいわば「共同輸送」のために運用されることから、一般のタンク車と運用が異なることを識別するためにこの塗装になった。同社の油槽所は、元売各社が製造した石油製品を一時的に預かり、需要と元売各社の要望に応じて油槽所から周辺のスタンドへタンクローリーで出荷する代理的な役割を担っており、北海道から東北、関東信越、そして四国に拠点を構えていたが、高速道路網が発達したことと、需要地が札幌都市圏に集中し、その他の地域は過疎化の進行で需要が下がったことから、札幌を除いて撤退している。筆者が鉄道マン時代に保守に携わった八王子駅には、この日本オイルターミナル専用線があり、通称「OT線」と呼ばれていたが、根岸や浜川崎方面から毎日のようにこのタンク車がやってくる光景を目にしていた。(タキ43172〔日本オイルターミナル所有〕 新鶴見信号場 筆者撮影)

 

 タンク車は基本的には黒色でしたが、タンク体がアルミニウムやステンレスでつくられている場合は銀色でした。これは、材質によるものです。後にもお話しますが、化成品で高圧ガス保安法の規定で黃1号に塗られたものもあれば、LPGを積荷にしたタンク車はやはり法令でねずみ色1号にぬられた貨車もありました。

 しかし、保有する企業と、その運用理由で識別するために色を変えた例は、他にはありませんでした。

 こうして、日本オイルターミナル保有するタンク車は、青15号で塗られるようになったのです。

 後に、民営化後に製作されたタキ43000の243000番代は、鮮やかなエメラルドグリーンとグレーというツートンカラーで登場しました。従来は43トン積みから1トン増しの44トン積みになった区分で、在来者と区別する必要からこのような色になりました。区別するだけなら何も手間のかかるツートンカラーにする必要はありませんでしたが、新製貨車の塗装規定はほとんどなくなり、所有する企業が自社の貨車の色をある程度決める事ができるようになったためと聞いています。

 実際、日本石油輸送に所属するタキ243000は、エメラルドグリーンとグレーのツートンカラーですが、日本オイルターミナル保有する車両は在来者と同じ青15号で塗られています。もっとも、最近はこの両社の間で頻繁にタンク車の移籍が行われているようで、ツートンカラーのタキ243000が日本オイルターミナルの所有で、社紋と社名だけを書き換えている車両を見かけるようになりました。おそらくは、移籍のたびに車両所へ入場させて塗装し直していてはコストも掛かるので、次の全検まではそのままにしておくようになったのかもしれません。

 このツートンカラーは、後に新製されるようになったタキ1000にも継承されていますが、日本石油輸送保有する車両に施され、日本オイルターミナル保有する車両は変わることなく青15号に塗られています。やはり、形式が変わっても塗装を変えていないのは、識別のためだといってもいいのでしょう。

 

《次回へつづく》

 

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