旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

さらば客車改造気動車 異端の成功車とその軌跡【2】

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《前回からのつづき》

 

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 キハ141系は、余剰となった50系51形客車を改造の種車としました。50系51形は製造から長くて10年強、短いものでは10年に満たないなど車齢は若く、状態もそれほど悪くありませんでした。そして、かつてのキハ08は種車の重量が重く、非力なエンジンとのの組み合わせでしたが、キハ141系は種車の50系51形が軽量構造であったことと、小型軽量で出力が高い直噴式のDMF13HZを搭載したことで、既存の気動車と遜色のない性能を確保しました。

 多くの50系51形が余剰となっていましたが、JR北海道はこれを気動車化する際に、種車はすべてオハフ51に限定することにしました。これは、オハフ51には車掌が乗務するための乗務員室と、乗務員室扉があったためでした。中間車のオハ51のほうが数が多いので、より多くの気動車を手にすることが可能ですが、乗務員用の設備がないため気動車化する場合、これらの設備を増設する必要があります。また、乗務員室を設置することに伴って、乗降用扉とデッキの移設が必要になり、工程数も多くなりコストも高くなります。

 オハフ51であれば、そうした大掛かりな改造をする必要もなく、既存の乗務員室を活かして運転台を設置するなど、工程数を最小限に抑えることができます。実際の改造では、オハフ51の両車端部に設置されている乗務員室のうち、面積の大きい前位側の乗務員室を活用し、面積が狭い後位側の乗務員室は撤去、乗務員用扉を埋め込み、出入口部のデッキを拡張させてラッシュ時の乗降を円滑になるようにしました。

 運転台を設置した側の妻面には、新たに窓を設置しました。また、貫通扉も設けられて起動者としての体を整えました。そのデザインは、新潟鐵工所第三セクター鉄道や地方鉄道向けに設計した軽快気動車であるNDCシリーズに類似したものでした。

 

冬の札沼線を札幌に向かって発車していくキハ141系気動車。屋根上に冷房装置を搭載していることからキハ143であることが分かる。電車化、気動車化の推進によって余剰となった50系51形客車のうち、乗務員室を備えたオハフ51を改造種車としたことで、車体の改造は必要最小限に抑えることを実現した。また、小型軽量で高出力のエンジンを使うことで、車体重量が重くても満足する性能を実現できたといえる。(キハ143 101ほか4連 新琴似駅 2011年11月22日 筆者撮影)

 

 前面窓の上部は屋根の形状に合わせた形になり、左右非対称の五角形としました。そして、窓ガラス上部は黒色ジンガート処理がされ、運転席側には行先表示幕を、車掌席側には運行番号表示器を設置できる枠が設けられましたが、実際にはそういった機器を設置されることなく、北海道で運用される気動車独特の車番が記入されていました。

 灯火類は、特に冬季の降雪時に列車を認識しやすくするため、貫通扉上部に角型ライトケースに収められた2灯の前部標識灯と、窓の下に左右に1組ずつ、同じく角型ライトケースに収められた前部標識灯と後部標識灯を設置していました。

 客室の設備はオハフ51時代のものを最大限活用することで、改造コストを可能な限り抑えようと努められました。冬季の過酷な気象条件の中で運用される北海道用ならではの小型の二重窓はそのままで、座席もデッキ付近はロングシートとし、中央部は固定ボックスシートセミクロスシートでした。しかし、札幌都市圏にある札沼線での運用を前提としていたため、ラッシュ時により多くの乗客を収容できるように、通路はできるだけ広く取りました。そのため、ボックスシートは2人掛け+1人掛けとし、1人掛けとなった方には通勤形電車と同様に吊り革が設置されました。

 1990年から1993年にかけて改造された車両はキハ141とキハ142で、前者は14両が、後者は15両の合計31両が登場しました。

 どちらも小型軽量で高出力のDMF13HSを搭載しました。このエンジンは出力250PS/2000rpmの性能をもつ水平シリンダー式直列6気筒で、排気量は13リットルと効率のよいものです。組み合わせる液体変速機はTC2AまたはDF115Aと、高出力に対応したものでした。

 キハ141はエンジン1基を搭載し、台車は動台車がDT22A、付随台車はTR51Aで、どちらも枕ばねは金属コイルばね式で、軸箱支持は金属コイルばねを使ったウィングばね軸箱支持という、国鉄時代から使われ続けている気動車の標準的なものでした。この台車はキハ141系のために新たに造られたものではなく、廃車になったキハ56系の発生品、すなわち中古品を活用したものでした。

 一方、キハ142はキハ141と対をなす2エンジン車で、キハ141と同じDMF13HSを2基搭載し、台車もDT22Aを装着していました。エンジンを2基搭載したことで、キハ142の総出力は500PSにもなり、かつて北海道で運用された2エンジン車であるキハ56の360PSを大幅に上回る強力な車両になりました。

 

石狩当別方の先頭車となるキハ142は、DMF13HSを2基搭載することで、車両出力は500PSに達することができた。この高出力は、特に冬季の気象環境が過酷な北海道にあって、線路上に積もった雪を排雪するのに欠かすことができない出力だったといえる。前面のデザインは軽快気動車に似ているが、これも改造内容を最小限にするために種車の妻面を活かしたものだったといえる。(キハ142 6〔札ナホ〕 札幌駅 2011年11月22日 筆者撮影)

 

 キハ141は札幌方を、キハ142は石狩当別方(当時)を向いており、基本的に同じ番号の車両同士を連結して運用されました。トイレはキハ141に設置され、キハ142は客室を拡大するために撤去され、採光用の小窓は塞がれました。トイレのあった部分は窓の増設などはされなかったので、外観からトイレのあった部分が識別できました。

 こうして客車を改造するというあまり例を見ないキハ141とキハ142は、苗穂運転所に配置されて計画通り札沼線での運用を始めました。キハ40 300番台・330番台などともに、共通で運用されました。

 

《次回へつづく》

 

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