旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

さらば客車改造気動車 異端の成功車とその軌跡【3】

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《前回からのつづき》

 

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 札沼線沿線はベッドタウンとして開発が続き、沿線の人口も増加し続けていました。そのため、ラッシュ時には混雑が激しくなり、多くの乗客を乗せたことで車両の重量も増したため、強力なエンジンを搭載したキハ141・142はその性能を発揮しました。

 こうした状況の中で、札沼線のさらなる輸送力増強は欠かすことができなくなり、JR北海道はキハ141系の増備をすることにしました。とはいえ、やはり気動車を新製するのではなく、客車を改造するという選択は、一般形気動車の新製にまで予算が回せなかった財政事情によるものだと推測できます。

 しかし、JR北海道はキハ141系の増備にあたって、キハ141・142をそのまま増やすということはしませんでした。この時期のJR北海道は、道内の都市間輸送に特に力を入れており、列車の運転速度の高速化によって到達時間を短くすることで、サービス向上を図っていました。

 キハ141系の増備車もより強力なエンジンと、これに対応した駆動システムを採用することで、最高運転速度を向上させるなどしました。これが1994年から増備されたキハ143でした。

 キハ143に搭載されたエンジンは、N-DMF13HZDで水平シリンダー式直列6気筒、排気量13リットルで、キハ141・142に搭載されているDMF13HSとは基本構造は同じものでした。ターボチャージャーも装備していましたが、N-DMF13HZDはシリンダーの直径が2.9mm拡大されたことで、厳密な排気量はDMF13HSの12.7リットルに対して、N-DMF13HZDは13.3リットルと大きくなり、出力は450PS/2000rpmと強化されました。そして、この強力になった分、冷却系統も強化する必要があり、インタークーラーも装備していました。

 

新琴似駅に停車しているキハ143 151。搭載するN-DMF13HZDは単体での出力が450PSを出すことができる強力なエンジンで、キハ141系の増備車であるキハ143は、これを1基のみとした。中間に付随車であるキサハ144は連結しても、編成出力は900PSにもなり、夏季に冷房装置を駆動させてもなお余裕だった。札幌方に連結されているのは、いまはな末端区間と呼ばれた石狩当別駅−新十津川駅間専用のキハ40 400番台で、こちらも同じエンジンを搭載していたため、この時は4両編成で合計1,350PSにもなる「協力編成」だった。(キハ143 151〔札ナホ〕 新琴似駅 2011年11月22日 筆者撮影)

 

 キハ143はN-DMF13HZDを1基搭載し、従来の1エンジン車よりも強力で、2エンジン車並みの性能をもつことができました。1エンジン車は2エンジン車よりも保守の手間が少なく、メンテナンスコストを軽減できます。また、走行するための燃料も1エンジン車のほうが少なくて済むので、運用コストを軽減できるのでした。

 台車もキハ141・142が装着していた金属コイルばねを使ったDT22A/TR51Aではなく、キハ150と同じN-DT150A/N-TR150Aを装着しました。この台車は空気ばね式ボルスタレス台車であり、台車の重量も軽量化させています。また、空気ばねを使っているため、乗り心地の面でも大幅に改善することができました。

 客室内はキハ141・142と同じくデッキ付近をロングシートクロスシートは通路を広くとるため片方を一人掛けとし、吊り革を増設しました。また、ラッシュ時の乗降を円滑にさせるため、キハ141・142ではデッキと客室に仕切りがありましたが、キハ143はデッキの仕切りをなくしました。しかし、冬季には車内の保温が難しくなるため、乗降用扉はボタンで開閉ができる半自動扉とされました。

 トイレは札幌方の先頭車となる150番台に設置され、石狩当別方の100番代は撤去・不設置としました。キハ141・142では形式が異なっていましたが、キハ143は同一仕様でつくられたので、トイレの有無で番台区分がされていました。

 キハ143は100番台4両、150番台7両の合計で11両が改造によりつくられました。キハ141・142に増結する形の3両編成、または中間に付随車を連結した3両編成を基本に、札沼線での運用を中心に活躍しました。

 キハ143の製作と同じ頃、3両編成での運用を前提とした中間車も制作しました。気動車では珍しい付随車で、4両のキサハ144がオハ51を種車に改造されました。中間車なのでオハ51でもよさそうですが、JR北海道はキサハ144もオハフ51を種車に選びました。この理由は定かではありませんが、筆者の推測ではオハ51にした場合、トイレがなかったことと、乗降用扉が車端部にあったため、ラッシュ時で混雑した場合、デッキ部があまり広く取れないため、円滑な乗降に支障会ったためと考えられます。

 付随車であるので、キサハ144はエンジンを搭載しませんでした。そのため装着していた台車は、キハ143のような空気ばね式ボルスタレス台車のDT150A/TR150Aではなく、金属コイルばねのTR51Aでした。この台車はキハ46の廃車発生品を再利用したもので、キハ141・142と同様に製造コストを抑えることにつながりました。

 

キハ141系の中で唯一の中間車であり、気動車としては珍しい付随車でもあったキサハ144。中間車なので種車をオハ51にしてもよさそうだが、JR北海道はこちらにもオハフ51を選定した。そのため、乗降用扉は僅かに車両中央に寄っているが、扉付近に余裕があるためラッシュ時に乗降も比較的スムーズにすることができていた。キハ143に合わせて冷房装置が設置されているため、これのためのエンジンが床下に備えられていた。(キサハ144 6〔札ナホ〕 新琴似駅 2011年11月22日 筆者撮影)

 

 キサハ144は製造直後はキハ141・142に、後に2両のキハ143に挟まれる形で3両編成を組んで運用されました。特にキハ143と連結した運用は長く、キハ143に搭載されているエンジンが450PSであり、これを2両連結すると編成出力が900PSと余裕があったため(キハ141・142の編成出力は750PS)、付随車であるキサハ144を連結しても走行性能に大きな影響を及ぼすことはなかったようです。

 1995年になると、JR北海道は札幌都市圏にある札沼線のサービス向上の一つとして、気動車の冷房化改造を実施することにしました。特にキハ141系はもっぱら札沼線での運用が多いので、真っ先にその対象になりました。

 しかし、すべてのキハ141系が冷房改造されたのではなく、キハ143とキサハ144がその対象となったのです。これは、キハ141とキハ142に搭載したエンジンは、出力250PSと従来のDMH17系と比べれば強力になったものの、機関直結式のN-AU26を搭載した場合、冷房を駆動させるとエンジン出力に余裕がなくなってしまうからでした。その点で、キハ143は出力450PSなので、冷房装置を駆動させる余裕がありました。

 一方、キサハ144は走行用エンジンを搭載しない付随車なので、機関直結式の冷房装置を使うことができません。そこで、冷房装置を駆動させるためのエンジンを搭載したのでした。いわば、かつての国鉄気動車と似たような手法で冷房化を実現したのでした。

 

《次回へつづく》

 

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