旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

さらば客車改造気動車 異端の成功車とその軌跡【6】

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《前回のつづきから》

 

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 北海道に残ったキハ143は、室蘭本線での運用を続けていましたが、こちらも後継となる737系の新製増備に伴って、運用を終了するアナウンスがされました。もともと、キハ143が運行されていた室蘭本線室蘭−東室蘭−苫小牧間は電化された区間で、輸送量の実態から2両編成で十分だったことから、適当な電車がなく、札沼線の電化によって余剰となったことて転用されたといえます。しかし、電化区間をわざわざ気動車で運行するのは効率的ではなかったのです。

 

キハ143の車内は、種車のオハフ51のものを可能な限り使いながらも、混雑する路線での運用を考慮して収容力を向上させた。乗降用扉近くのデッキ仕切りの撤去やボックスシートを前位、後位ともに2区画を撤去した上でのロングシート化、吊り革の増設など多岐に及ぶが、それでも客車時代の雰囲気は残されていた。この改造によって、人口の増加によって混雑が著しくなった札沼線で、多くの通勤通学の利用者を運び続けた。(キハ143 2011年11月23日 札幌駅 筆者撮影)

 

 札沼線から転用されて以来、7年にわたって室蘭本線を走ってきたキハ143は、2023年5月に737系の運用開始にともなってその運用を終えました。運用終了後、10両のキハ143はそのまま廃車となはならず、保留車として苫小牧運転所に留置されたままです。JR北海道は今後の処遇については検討すると発表しているので、もしかすると活躍の場を他に移すのかもしれません。

 もっとも、キハ143もオハフ51として新製されてからすでに40年以上、キハ143に改造されてから30年以上が経っているので、老朽化が進んでいることは間違いなく、ともすると転用されずに廃車の運命をたどるかもしれません。しかし、JR北海道の経営環境は非常に厳しく、本州三社のようにおいそれと新車を続々と製造することは難しいといえるでしょう。一方、安全対策に関しては厳しい目が向けられているので、故障などのリスクが高く運用コストが高くつく老朽車を延々と使い続けるわけにもいかず、財政と安全の間でジレンマに立たされていることは容易に想像がつきます。そうした中で、廃車としないで転用となると、その活用には悩ましいものがあるといえるでしょう。

 

朝の札幌駅で多くの人が乗り降りする光景。キハ143は車体構造はオハフ51じだいと大きく変わらなかったが、車内の改造によって収容力を増し、このような都市圏におけるラッシュ時に対応し続けてきた。(札幌駅 2011年11月23日 筆者撮影)

 

 余剰となった車両を活用するという発想は、今も昔も、誰もが考えることです。しかし、その多くは電車や気動車といった動力分散式の車両であり、改造のハードルはそれほど高くないといえました。

 しかし、客車という電車や気動車とはまったく違う構造の車両を、動力をもつ車両への改造はハードルが高く、国鉄時代に製作されたキハ08系や、民営化後にJR西日本が製作したキハ33は成功とはいえず、少数の製作に留まってしまいました。しかし、JR北海道種車の選定から綿密に計画を立て、改造の工数を可能な限り減らし、車体重量に見合った小型軽量で高性能のエンジンを組み合わせたことで、客車改造の気動車という例のない車両を製作し成功に導きました。後にも先にも、こうした改造気動車の成功と量産はキハ141系以外ありません。

 

積雪の翌日、朝の冷たく澄んだ空気の中を走るキハ143。後ろには札樽自動車道をオーバーパスする勾配と、その奥には藻岩山の山肌が見える。2011年当時、写真のように既に電化工事は進んでいて、架線柱やビーム、そして電車線の設備は一通り設置が済んでいた。電化開業を翌年に控えていたので、キハ141系にとって最後の冬となり、粛々とその役をこなし続けていた。(新琴似駅 2011年11月23日 筆者撮影)

 

 こうして、札沼線という札幌都市圏で人口増加が著しい沿線を抱えた路線で、通勤通学輸送では力を発揮し、同時に沿線の人たちの貴重な足として活躍したのでした。そのキハ141系も、2023年のダイヤ改正をもって多くが運用を離れ、保留車となって次の処遇を待つ日々です。しかし、ローカル線に過ぎなかった札沼線の輸送力を強化し、道内でも有数の通勤路線へと成長する中で、その輸送を支えたキハ141系の功績は大きいといえるでしょう。また、日本の鉄道史の中で、客車改造気動車の成功例として、その実績は燦然と輝き続けることでしょう。(了)

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

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