旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

なぜ超低床コンテナ車を追求し続けるのか【4】

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《前回のつづきから》

 

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 1994年に、JR貨物は新たな超低床貨車となるコキ71形を開発しました。「CAR RACK」と呼ばれる自動車積載用の特殊な構造をしたコンテナであるUM20A形30000番台を載せ、往路は自動車を、復路はJR規格の12ftコンテナを載せることができるものでした。往路、復路ともに貨物を載せることができれば、輸送効率の面でも収益の面でもメリットが高くなります。

 詳細はすでにこのブログでご紹介しているので、そちらをお読みいただければと思いますが、床面高さはコキ70よりも9mm低くした700mmとなり、コキ100系よりも300mmも低く抑えられました。

 

JR貨物が開発した超低床コンテナ車で唯一、実用化にこぎ着けたコキ71形は、往路は自動車を載せ、復路はコンテナ内に12フィートコンテナを載せる特異な構造となった。台車の課題は残るものの、荷主の要望もあって営業運用に充てられた。しかし、復路は12フィートコンテナを載せることはできるものの、4個積であるため輸送効率に難があり、加えて経済の低迷が長引いたことや、自動車のサイズが大型化したことなどもあって、10年強程度で営業運用から退いた。(©Gazouya-japan, CC BY-SA 4.0, 出典: Wikimedia Commons)

 

 そして、超低床貨車でまず問題となる台車は、コキ70で試作されたFT11をベースにしたFT12を装着しました。FT12もまた、小径車輪である610mmの車輪を装着したボルスタレス式空気ばね台車でした。

 しかし、FT11で顕在化した諸々の課題はある程度の解決を見たためか、超低床貨車である70番台のコンテナ車としては唯一、量産に移されて実用化に漕ぎ着けました。もっとも、小径車輪に由来する高回転による車軸の発熱は如何ともしがたかったようですが、それでもなんとか定期運用に就くことができましたが、カーラックコンテナの構造が特殊で、保守にかかるコストがかさんだことや、自動車の多様化・大型化によって積載効率が悪化したことなどから、2000年代後半に運用を終えました。

 続く1996年には、新たな超低床貨車としてコキ72が開発されました。

 コキ72は当時、規制緩和によって道路上を大型で重量級の海上コンテナを輸送することができるようになったことを受けて、これに対応する重量級コンテナ輸送用として、高さ2,896mm、重量24トンの20ftハイキューブコンテナの積載ができる構造で開発されました。

 コキ72はISO20ft、JR20ftコンテナを2個、またはJR30ft、ISO40ftのいずれかを1個積載可能とし、車体全長は16,000mmとコンテナ車としては短いものでした。もっとも、このような短い車体をもったコンテナ車はコキ72が初めてではなく、国鉄時代も同じような目的で試作された車両もあったので、未知の領域というほどではなかったようです。ですが、国鉄時代には想定していなかったハイキューブコンテナも輸送できるよう、床面高さは740mmとされました。

 また、当初の計画どおりに20ftコンテナの重量は1個につき24トン、2個積載のときには48トンの荷重に耐えることができるように、台枠の構造は一般的なコンテナ車とは異なった特殊な構造となりました。床面高さを740mmに抑えたため、連結器部分は一般の車両と連結ができるようにするために、デッキ部分は嵩上げした特異な形態をしていました。これは、1両単位での運用を前提としたためで、重量荷重に耐えられる頑丈な構造と相まって、コンテナ車としては特殊な構造となったのでした。

 台車はコキ70以来の超低床貨車で用いられるFT11系となり、車輪径610mmの小径車輪を使用する、ボルスタレス式空気ばね台車のFT15が新たに設計されました。この台車はボルスタレス式空気ばねや、軸箱支持にシェブロンゴム支持を採用している点ではFT11を変わりませんでしたが、軸距は2,000mmと広く取られたほか、重量荷重を支えることができるように空気ばねが大型化されるなどといった点で異なりました。

 こうして、満を持して24トン級の重量をもつハイキューブコンテナを積載できる構造をもったコキ72の登場で、海上コンテナの鉄道輸送を担うために量産化されると思われましたが、実際には試作車である901が1両製作されただけで終わりました。

 その理由として、コキ72を運用する区間として、横浜本牧駅−宇都宮貨物ターミナル駅間が予定されていましたが、高さ2,896mmのハイキューブコンテナを載せた列車を運行する際に、この区間ではわざわざ特殊な構造の貨車を必要としないことが判明したからでした。

 これは、同区間の建築限界を改めて測定した結果から判ったことで、安価で他の列車とも共通運用できるコキ100系でも、ハイキューブコンテナを運べるのならそれに越したことがありません。何しろ超低床貨車は製造コストも高く、特殊な構造の車体と台車はメンテナンスにも手間とコストがかかります。

 また、ボルスタレス式空気ばねを用いているということは、走行中にこの空気ばねに圧縮空気を送り続ける必要があり、それを供給する機関車にも元空気だめ管が必要となるとともに、車両を連結・切り離しをするときには、必ずこの元空気だめ管のジャンパホースを接続・解除の作業が発生し、駅などでの操車作業での手間が増えるてしまいうのでした。

 これらの理由から、ハイキューブコンテナを輸送するにあたって、コキ100系でもそれが可能だとわかると、高価なコキ72は量産に移されることなく、試作車1両で終わる「悲運の貨車」となってしまったのでした。

 

《次回へつづく》

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