旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

2024年問題で鉄道貨物輸送の「復権」はあるのか【1】

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 いつも拙筆のブログをお読みいただき、ありがとうございます。

 2023年も残すところ僅かになりつつあります。2024年になると、日本の経済活動に大きな影響を与えるとされる法令が施行されることが予定され、ほぼ毎日のように報道がなされています。

 その「大きな」こととは、働き方改革に伴う自動車ドライバーの時間外労働時間の規制で、その上限が年間で960時間、月に100時間未満に抑えることなど、これまで当たり前のようにしてきたことが困難になる厳しいものです。

 特に日本の物流を支えてきたトラック輸送においては深刻で、ただでさえドライバー不足の中で、この規制によって更に拍車がかかる恐れがあるとされています。それというのも、筆者も経験がありますが、トラックをはじめ自動車を運転することを生業とする人々の給与は、そのほとんどが歩合制です。タクシー・ハイヤーであれば乗客を乗せて走行した実車で得た運賃を、トラックは走行距離に応じて給与が決まります。ですから、タクシー・ハイヤーは乗客を乗せて走れば走るほど給与が多くなり、トラックは長距離になればなるほど得られる給与が高くなります。

 しかし、タクシーの運賃は路線バスほどではないにせよ、この30年間近くは値上げがないように抑えられていた傾向があり、1992年(平成4年)の初乗りは2kmで600円だったのが1995年(平成7年)に50円上昇の650円になって以降、消費税増税による値上げを除いて、大きく上がることはありませんでした。ちなみに、初乗り2kmとして設定されていたのは2014年(平成26年)の730円が最後で、このとき、2kmを超えると280mごとに90円加算、深夜早朝割引は2割増というものでしたが、短距離の利用を促進しようと2017年(平成29年)には初乗り1.052km410円、以後237mごとに80円加算となりました。

 

筆者も乗務した経験のあるタクシーは、乗客を乗せて走行した「実車」で得た運賃の実績によって給与が決まる歩合制がほとんどだ。景気の低迷による乗客数の低下に加え、運賃自体が抑えられたままの状態が長く続いた結果、乗務員の収入は厳しくなる一方だと言える。国の方針により安全装備を充実させた結果、車両本体価格自体が上昇、さらに燃料費の高騰などにより経営そのものが厳しくなる会社が多い。そこへ、2024年の残業総量規制が加われば、乗務員が得られる収入がさらに減少し、その担い手は減少の一途をたどるといえる。(©Comyu, CC BY-SA 3.0, 出典:ウィキメディア・コモンズ)

 

 一方、トラックも運賃が抑えられている傾向が見られ、特にネット通販が普及する中で顧客を獲得することをねらった「送料無料」が普及し、それとともに荷主から支払われる運賃はかなり安価だったと想像できます。あまりの荷物の多さに比べ、得られる運賃が抑えられ、さらに配送先の不在などによる再配達件数が多く、ドライバーの負担を看過できなくなった宅配便大手のヤマト運輸が、Amazonの荷物輸送から原則として撤退したことは記憶に新しいところです。

 このように、運賃が抑えられてしまえば、当然、輸送を担うドライバーの給与も抑えられてしまうことになり、長時間労働が状態化し、苦労も多い割には給与が安いと、ドライバーを職業とすることが敬遠されるようになり、ドライバーの高齢化とともに後継者となる若い人材を獲得できない「なり手不足」に陥ってしまいました。

 

宅配便大手のヤマト運輸も、厳しい経営環境に置かれているといえる。かつてはAmazonなどネット通販の荷物が主力だった時期もあったが、低運賃で翌日配達など顧客の厳しい要望が祟って、Amazonの配送から事実上撤退してしまった。ヤマト運輸も長距離輸送の一部を鉄道輸送をすることなどにより、ドライバー不足を補い輸送コストを低減させるなどの経営努力をしているが、末端を担う集配業務は小型トラックがその役割を担い、多くのドライバーを必要としている。しかし、増加する荷物量を捌くために日常的に残業が多くなるのに対し、2024年の残業総量規制が始まると、これまでのような業務方法では立ちゆかなくなることが予想される。(上:トヨタ・クイックデリバリー ©天然ガス, CC BY-SA 3.0, 出典:Wikimedia Commons 下:UV51A形コンテナ ©Kei365, CC BY-SA 4.0, 出典:Wikimedia Commons)

 

 そういえば余談ですが、若い頃、筆者がハイタク業界に入った頃、先輩は「ちょっと前まで、この仕事で数年働けば家一軒建てることができたんだよ」と話していたのを思い出します。バブル経済が崩壊したあとに業界に入った筆者に、そのような話は夢物語にしか聞こえませんでしたが、その昔は本当に稼ぎのいい仕事だったようです。実際、そのことを話してくれた先輩だけでなく、ほとんどの先輩たちは戸建の家を構えるか、立派なマンションを所有していたので、この話は夢物語ではなく現実のことだったといえるのです。

 このようなただでさえ慢性的な人手不足、ドライバーの高齢化が問題となっているところへ、働き方改革による残業規制が実施されれば、ますます給与が減ることは容易に想像できます。そして、よくも悪くもドライバーの方々の献身的な残業によって支えられてきた物流、特に長距離の輸送は法規制によってできなくなり、ひいては現在は当たり前のできる少々無茶とも思える運用では成り立たなくなる恐れがあると言われているのです。

 この物流2024年問題を何とかしようと、いま、あらゆる方策が考えられています。大型自動車第一種免許だけでなく、第二種免許の取得条件を緩和するなどの政策が実施されていますが、これは根本的な解決を見出だせるほどの効果はありませんでした。

 そこで、政府や国土交通省もようやく重い腰を上げ、トラック輸送から鉄道や船舶による輸送手段にシフトさせる「モーダルシフト」を更に推進し、特に鉄道による貨物輸送を現在の2倍にすることや、新幹線による貨物輸送を実現させようとしています。

 しかし、現実の話として、これらの政策が可能なのかを考察していきたいと思います。

 

《次回へつづく》

 

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