旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

2024年問題で鉄道貨物輸送の「復権」はあるのか【2】

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《前回のつづきから》

 

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 そもそも「モーダルシフト」という言葉は、筆者が鉄道職員の頃から言われていました。特にバブル経済が真っ只中の1980年代後半から1990年代初頭にかけて、旺盛な輸送需要にトラック輸送が追いついていない実態がありました。現在とは異なる事情が原因となって、トラックドライバーが不足して需要に対して供給が追いつかない状態に陥り、貨物輸送の一部をほかの輸送機関に移転させようと試みられました。

 分割民営化によって設立されて間もないJR貨物も、この潮流に一応は乗ることができました。貨物列車の増発や、1列車あたりの輸送量を増加させるための1600トン列車の構想と、それを実現させるための新型機関車の開発、そして荷主の要望に応えるためにコンテナの内容積を従来の17㎥から18㎥への拡大、規格外コンテナの輸送引受とそれを可能にするコキ100系貨車の増備など、様々な施策を次々に実行していました。

 一方で、新たな輸送方式の開発もこの頃に行われていました。トラックごと貨車に乗せて輸送するピギーバック輸送や、コンテナの荷役を簡略化させたスライドバンボディコンテナ、そしてトレーラートラックをそのまま鉄道で輸送するデュアルモードトレーラーなど、次々に新技術の開発に取り組みましたが、実用化できたのはピギーバック輸送だけでした。もっとも、技術開発が失敗したというよりは、従来の荷役方式の方が確実だと考えられたり、鉄道と道路の関連法規が新たな輸送方式に対して阻害していたりするなど、どちらかというと外的要因によるものでした。

 

分割民営化後、JR貨物バブル経済によるトラック輸送の逼迫に応えるとともに、新たな顧客を開拓するため様々な輸送方式に対応した貨車の開発を盛んに進めていた。しかし、技術的な要因と法的な規制、さらにバブル経済の崩壊などによってそれらも実用化にこぎ着けたものは少なく、実用化されてもその運用は短期間で終わってしまった。(パブリックドメイン

 

 しかし、バブル経済の崩壊によって我が国の経済は長い不景気にさらされることになり、それとともに国内の貨物輸送量が激減した結果、トラックドライバーの不足は解消し、鉄道の貨物輸送も落ち着いたどころか輸送量が漸次減少していくことになりました。

 加えて、荷主や物流業界がモーダルシフトに対して、消極的な姿勢であったことも挙げられます。国鉄時代に頻発したストなどによって、荷主の鉄道貨物に対する不信感が拭えきれてなく、いくら新会社になったとアピールしても、結局は看板をかけかえただけではないかと考えられていたからだと推測できます。実際、筆者が鉄道職員になりたての頃、研修の一環で荷主のものとへと行ってみると、鉄道職員がそうしたことをするのが珍しかったようで、「国鉄からJRになって、変わったもんだな」と良くも悪くも感心されたものでした。この言葉から、国鉄時代はいかに営業職員が、荷主のもとへと顔を出さない「殿様商売」に甘んじていたのかが想像できますが、一方ではいまだ鉄道貨物が信頼されきっていないことの表れだったともいえます。

 また、研修期間中に顧客との間をつなぐ通運事業者の講話を聞く機会がありましたが、そこでも講師の方はボロクソに言ったもので、「国鉄は荷主を大事にしなかった、だから衰退したんだ。あんたたちは荷主や我々通運がなければ、商売は成り立たない」と、社会に出たばかりの若い職員に対して、もっともだけど厳しい物言いに、とんでもないところに入ってしまったものだと思ったものです。ですが、これが荷主や通運事業者の鉄道貨物に、そして国鉄JR貨物に対する正直な考えだとすれば、長年に渡って蓄積された不信感は、数年で解消するなどということはなかったといえるでしょう。

 さらに、トラックの利便性は荷主にとって、これ以上ない都合のいい輸送手段だったといえます。荷主が都合のよい時間と貨物の引き渡し場所を指定すれば、輸送業者はその注文に応じて配車してくれます。それがたとえ深夜や早朝であっても、荷主は自らの都合で注文をすればよいのです。輸送業者はそれがドライバーの負担になっていることを承知していても、荷主の注文に応じていました。このことが、荷主にとって非常に便利である一方、鉄道輸送では列車の運行ダイヤに合わせなければならなかったり、貨物の積載を希望する列車のコンテナの積載枠が埋まってしまうと、計画どおりに輸送することが難しくなってしまうので、利便性の面ではトラックに対して不便な面があるのでした。

 これらのことが背景になり、政府と運輸省、後に国土交通省が唱え続けたモーダルシフトは遅々として進まず、国内の物流におけるシェアは低いままだったのです。しかし、前述のように、2024年から施行されるドライバーの残業上限規制などによって、物流のトラック輸送からのモーダルシフトがこれまで以上に推進されることになったのです。

 

《次回へつづく》

 

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