旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

悲運の貨車〜経済を支える物流に挑んだ挑戦車たち〜 アイディア商品でもあったSVS・チキ100【1】

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 いつも拙筆のブログをお読みいただきありがとうございます。

 昨年末あたりから、鉄道にまつわるニュースの多くはダイヤ改正後の列車の運転についてが多く見られます。大都市圏を中心に最終列車の発車時刻の繰り上げと、始発列車の発車時刻の繰り下げを行い、深夜の保守作業時間を確保することをねらっていると報じられています。

 鉄道会社のもう一つの本音としては、やはりコロナ禍で利用者が極端に減ったことも、こうしたダイヤ改正を実施する要因の一つともいえます。テレワークの推進や、異動の自粛などで、つい一昨年まで見られた多くの人が列車に乗って移動する光景は、いまや過去のものになってしまいました。そうした中で、利用が少ないのなら列車の運転を取りやめてしまおうと考えるは、ごく当たり前の発想だといえます。

 その一方で、あまり報じられていませんが、貨物輸送については利用の減少はごくわずかでした。巣ごもり生活によって、通販の利用が軒並み増加したことで、宅配便などの混載貨物の需要が大きく伸びました。大量の宅配貨物が増えたため、ヤマト運輸などの宅配運送業者は、鉄道による輸送を選択することが多くなり、いわゆるモーダルシフトが進んだともいえる状態でした。

 こうしたこともあって、旅客会社が列車の運転本数を削減する一方、貨物会社は輸送量の増加にともなって、輸送力を増強するという相反した施策をとるダイヤ改正を行うようです。

 そんな貨物の輸送量の増加は、30年ほど前にもありました。バブル景気真っ只中、長距離トラックのドライバーが不足したことで、捌ききれない貨物は鉄道で運ぶようになります。そのおかげもあって、JR貨物は列車の増発と、新しい機関車と貨車、そしてコンテナを新製するという、分割民営化当時では考えられなかったことを実施したのでした。

 輸送量の増加は、列車の増発で対応できたとしても、貨物駅での作業量の増加によって貨物が滞留しやすくなるという問題をはらんでいました。通常、鉄道利用運送事業者は、貨物駅からコンテナを載せたトラックで送り主が指定する場所まで集荷に向かい、そこで貨物を積み込むと、発駅となる貨物駅までやってきます。ここで、コンテナをトラックから降ろして貨車へと積み替えるのですが、中にはすぐには貨車に載せないこともあります。いずれにしても、貨物駅におけるコンテナの積み下ろしには大型フォークリフトトップリフターといった荷役機械が必要ですが、列車の発着が多い駅やラッシュの時間帯になると、コンテナの積み下ろしのためにトラックが待たされるというけーすもあったそうです。

 こうした荷役の煩雑さを解消するとともに、荷役機械やそれを操作する作業員を削減することを狙った新たなコンテナ輸送の方式として、いすゞ自動車JR貨物に提案する形で開発されたのが、SVS=スライド・バンボディ・システムでした。

 これは、通常のトラックに固定されているバンボディを可搬式にし、フォークリフトなどの荷役機械を使わず、直接そのバンボディを貨車に載せるというものでした。バンボディの下にはソリ状の器具が取り付けられており、トラックを貨車に横付けした状態で油圧ウィンチを使ってバンボディを移動させ、貨車へとスライドさせて積み下ろしをするというものでした。

 当然ですが、この荷役作業にはフォークリフトトップリフターは不要で、トラックのドライバーが一人で荷役作業ができるというのが大きなメリットでした。バンボディを貨車に乗せて長距離の異動は貨物列車に任せれば、トラックを効率よく運用でき、ドライバーの負担も大きく減らせる点でも、SVSは大きなメリットがあったのでした。

 こうした新しい簡便な荷役に対応した専用貨車として、コキ50000を改造して施策されたのがチキ900でした。

 

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新興駅構内にある留置線(通称三地区、旧新興駅)に留置されているチキ900。車体色は青22号に変わりるなど、一見するとコキ100系にも見える。車体中央に白で書かれた「SVS」がこの貨車の用途を示していた。
出典:Wikimedia Commonsより ©シャムネコ (Shamuneko), CC BY-SA 4.0

 

 チキ900は民営化の翌年1988年に広島車両所で改造されて登場しました。30ftSVS用コンテナ2個積みを前提に、それまで装備していた12ft用コンテナ緊締装置と20ft用ツイストロックをすべて撤去し、代わりにSVS用のスライドソリを取り付け、バンボディコンテナの緊締装置とスライド用の滑車、そしてバンボディコンテナを牽引するワイヤーを装備しました。

 塗装はコキ50000時代の赤3号から青22号へと塗り替えられ、後年登場するコキ100系にも似た姿となりました。車体中央部には白で「SVS」のロゴが書き加えられ、他のコンテナ貨車や長物車との識別をしやすくしたのでした。

 台車などは特に改造されず、種車が装備していたTR223のままでした。

 チキ900はバンボディコンテナをスライド荷役する現車確認用としての要素が強い試作車で、この成績が良好だったことから、本格的に運用できる量産車として登場したのがチキ100でした。

 チキ100もコキ50000を改造して登場しました。チキ900は30ftバンボディコンテナ2個積みでしたが、チキ100は20ftバンボディコンテナ(U30S)を3個積としたため、スライド機構もチキ900とは異なる位置に設置されたのでした。

 量産車となるチキ100も、チキ900に倣って車体色は青22号に変わりました。台車も変わらずTR223と変わりません。コンテナの緊締装置はコキ50000時代のものはすべて撤去され、バンボディコンテナ用のものが設置されました。この緊締装置が走行中に外れることがあると、非常制動がかかる機能をもたせていました。これは、従来のコンテナとは異なる緊締装置であることや、荷役はコンテナをスライドさせるための機構を備えていることは、走行中にこれが仇になってコンテナが落下してしまうことが懸念されたための装置だったと考えられます。

 量産車であるチキ100が出揃うと、苫小牧-相模貨物間での営業運転に供されました。バンボディコンテナはSVSを提案したいすゞ自動車の関連会社であるいすゞ物流が保有する私有コンテナで、荷主もいすゞ自動車で、主に自動車部品の輸送に使われました。

 しかしながら、新機軸を投じた新しい形の輸送形態として期待されたものの、チキ100は5両が改造されただけで、それ以後の増備はありませんでした。

 

 

《次回へつづく》

 

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