旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

電気釜+簡易貫通扉の「魔改造」の始祖?381系先頭車化改造車【1】

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 国鉄の分割民営化から今年(2024年)で37年目になります。民営化直後は国鉄から継承した車両のみで列車を運行していましたが、直後からは新しい会社にふさわしい車両を開発増備し、徐々に国鉄形車両を置き換えていきました。

 特に特急列車は旅客会社にとって最大の「商品」であり、収益源としては大きいものがあります。乗車券も長距離になり高額になるとともに、これに特急料金という収益をもたらします。また利用客の側にとっても、特別な料金を支払っているので、その対価としてのサービスを享受することになります。国鉄から継承した車両も、それなりに高い水準の設備をもっていましたが、1960年代に設計されていたこともあって、陳腐化は否めませんでした。

 そうしたこともあって、旅客会社は新たな特急用車両を開発することから始めました。

 例えば、JR九州の783系は「ハイパーサルーン」という愛称がつけられました。この当時、従来の特急をさらに「超える」存在として「スーパー◯◯」と名付けることが流行りました。これに倣ったのか、783系で運行される列車は「ハイパー有明」「ハイパーにちりん」として、従来の列車よりもワンランク上の設備とサービスを提供しました。

 

JR九州が分割民営化後に初めて製作した特急形電車である783系は、先頭車が客室内から前方を展望できるなど、国鉄形にはない斬新なスタイルとなったことなどから、「ハイパーサルーン」の愛称がつけられた。そして、783系で運転される列車には「ハイパー」の冠がつけられ、従来の特急列車とは一線を画する、新たな時代のサービスを提供することをアピールした。(出典:写真AC)

 

 JR東日本は、接客サービスのグレードを高めると同時に、列車の速達性を向上させることを目的とした新型車両の開発を進め、651系や351系といった新機軸を積極的に導入しました。全車は「スーパーひたち」として営業運転速度130km/hを初めて達成、後者は中央東線という山岳路線であるにもかかわらず、「スーパーあずさ」の表定速度は90km/hに達し、特急列車の質を大いに高めました。

 しかし、すべてがこうしたJR世代の新しい車両で列車が運行できたとは限りませんでした。185系に代表されるように、国鉄から継承した車両も数多く使われ、それは21世紀に入っても変わりませんでした。これら国鉄形車両は、内装のリニューアルを施し接客設備を時代に合わせたものへと変えることで、サービス水準を維持して走り続けたのでした。

 その国鉄から継承した特急形車両の中に、381系もその一つとして21世紀に入って四半世紀近くにもなる今日も、第一線級の車両として活躍しています。さすがに製造から50年以上と半世紀に渡って使われ続けてきたこともあって、いよいよその歴史に幕を閉じる時期が訪れようとしています。

 今回は、この「最後の国鉄形特急用車両」である381系の中で、異色ともいえる先頭車化改造を施された2つの形式、クモハ381形とクロ381形にスポットを当ててみたいと思います。

 

いわゆる「電気釜」スタイルの特急形電車の先頭車を擁する381系は、急峻なカーブが連続する路線において、特急列車の表定速度を向上することを可能にした。そして、これを実現するために、自然振子式傾斜装置と呼ばれる車体傾斜装置を装備し、曲線通過時の遠心力を軽減させ、乗り心地や通過速を改善させた。「やくも」は国鉄時代、最後に381系が投入された列車で、2024年3月現在も、381系によって運行されているが、それも残すところ僅かになった。(出典:写真AC)

 

 そもそも381系は、1973年の中央西線の電化が決定したことがきっかけで開発されることになりました。中央東線が1965年までに電化が完成していたのに対し、中央西線は非電化のまま残されていました。そのため、名古屋駅長野駅間で運行されていた「しなの」は、当時国鉄保有していた特急形気動車の中で強力なエンジンを搭載したキハ181系が充てられていました。

 気動車を投入したことで、蒸機によるばい煙といった問題を解決し無煙化を達成したとはいえ、列車の表定速度はさほど上がったわけでなく、到達時間も長いものでした。また、キハ181系は強力なエンジンを搭載していたことで、山岳路線でもある中央西線の勾配に一応は対応できてはいたものの、そのエンジンであるDML30HS系の根本問題として、エンジンから発する熱を冷却機構に問題があり、勾配が連続した区間を走るとオーバーヒートを起こすトラブルを頻発させていました。

 そこで、中央西線も電化することで、「しなの」の運転速度を上げて到達時間の短縮を目論んだのでした。

 しかし、中央西線中央東線ほどでないにせよ、やはり山岳路線であり勾配と急カーブが多く存在しています。勾配は電車に置き換えることである程度の解決が可能ですが、急カーブについては一部の線路を新線に付け替えても限界がありました。

 当初、国鉄中央西線の「しなの」の電車化にあたって、181系を投入することを計画していました。しかし、曲線区間が全体の約49%を占めるため、勾配に対応できても急曲線では速度を落とさなければならない制約から、所要時間は3時間45分もかかり、キハ181系と比べて10分程度の短縮にしかならないことが判明しました。これでは、多額の設備投資をして電化しても効果は微々たるものでしかなく、電化する意義そのものが問われかねません。

 一方、国鉄は1970年から全国に広がった特急列車網をさらに高速化するために、591系を製作して試験を続けていました。この電車は、最高運転速度130km/h、曲線通過速度を20km/h程度速くし、分岐器直線側の通過速度も130k/hを目標に各種の機器を開発試験するもので、車体傾斜装置の一つである自然振子を装備するなどして、目標達成のためのデータを取得するなどしていました。

 この591系の成果をもとに、自然振子式車体傾斜装置を装備して、急曲線を高速で走行できる新たな特急形電車として設計製作されたのが318系でした。

 

《次回へつづく》

 

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