旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

さらばキハ28 DMH17系エンジンの終焉【1】

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 2023年に入って早くも1月が終わりに近づきつつあります。時が経つのは本当に早いものですが、齢を重ねるとその時間の経ち方は、若い頃に比べて本当に早く感じてしまうものです。それは、きっと鉄道車両も同じことを感じているのではないかと思います。

 国鉄時代、地方のターミナル駅に降り立つと、長距離超編成列車の発着を想定したやたらと長いホームに、ちょこんと1両か2両編成の気動車が発車を待ち、その間中「カラカラカラカラ」と乾いたエンジン音を鳴らしていたことを思い起こします。かれこれ、35年以上前の話とは思えないほど、ついこの間のことのように思えますが、すでにそうした光景は過去のものとなっています。

 国鉄時代に製造された気動車は、1987年の分割民営化によって多くが新会社に継承されました。まだ、経営基盤が確立されていない民営化初期の頃は、国鉄から引き継いだ車両も重宝されましたが、基本設計があまりにも古いために、早い時期に置換えの対象になったり、機関換装という方法で高出力・高効率のエンジンに載せ替えられました。

 国鉄時代の気動車に搭載されたディーゼルエンジンは、主に3つありました。

 1つはDMH17系列、そして高出力化を目指して開発されたDML30系列、そしてDML30系列を元に小型軽量化を目指したDMF15系列でした。いずれも気動車に搭載するため、水平シリンダーとしたこれら国鉄制式のディーゼルエンジンですが、共通しているのは重くて排気量の割には出力が低いというもので、今日、多くの気動車に採用されているエンジンとは異にするものでした。

 DML30系列は主にキハ181系キハ183系といった特急形気動車、急行形のキハ65、一般型のキハ66系と、ごく限られた系列に採用されましたが、高出力エンジンであることから高速走行を目的とした車両に搭載されました。

 DMF15系列は、高速走行を必要としない一般形気動車用として開発され、主にキハ40系に搭載されました。もっとも、DMF15系列は新たに開発したというよりは、DML30系列を半分にしたものといっても差し支えないといえるでしょう。シリンダーも12気筒から6気筒へ、排気量もシリンダーの数を半分にしたため、30リットルから15リットルになり、その分出力も低くなってしまいました。

 いずれにしてもこの2つのエンジンは、1960年代に開発された古いもので、一部はいまなお現役で使われているというのは驚くべきことでしょう。

 さて、この2つのエンジンの大元となったのは、DMH17系列でした。DMH17系列は、その形式名からも分かるように、直列8気筒、排気量17リットルというもので、その出力は最高でも320PSでした。この出力値が強力なのか、それとも非力なのかは数値ではわかりにくいと思われますが、2022年現在製造されている大型トラックと比較するとわかりやすいと思います。

 

DMH17は国鉄が初めて実用化にこぎ着けたディーゼルエンジンであり、動力近代化計画を進めるにあたって、要となったものである。直列8気筒、排気量17リットルという比較的大型のエンジンであるが、その出力はようやく180PSに達するという非力で燃費が悪い非効率なものだった。しかし、それでも鉄道用国産エンジンとして重用され、多くの気動車に搭載され無煙化をを推進した役割は大きかった。(キハ52 125 いすみ鉄道 上総中野駅 2013年6月30日 筆者撮影)

 

 具体的には、筆者の地元にある三菱ふそうが製造する10トン大型トラック、スーパーグレートには直列6気筒、排気量7.7リットルで345PSの出力を出すことができるエンジンが搭載されています。自動車用エンジンと鉄道用エンジンでは基本構造が異なりますが、エンジンのシリンダー数や排気量、そして出力の数値だけ見ても、DMH17がいかに非力で効率が悪く、さらに重量がかさむエンジンであったかはおわかりになると思います。

 この、国鉄で最もポピュラーだったDMH17は、1951年から製造された気動車に搭載されました。キハ10系やキハ20系といった一般形気動車はもちろん、準急形のキハ55系、急行形のキハ58系だけに留まらず、特急形のキハ81・82系にも搭載されました。言い換えれば、国鉄にとって気動車用のエンジンは、このDMH17しか選択肢がなかったともいえます。

 1951年から製造されたともいえるDMH17は、そのルーツを辿ると戦前製のガソリンエンジンであるGMH17にまで遡ることができます。

 DMH17のルーツであるGMH17は、その形式が示すように直列8気筒、排気量17リットルのガソリンエンジンでした。いまでこそ、気動車ガソリンエンジンを使うことは皆無でしたが、戦前はディーゼルエンジンの製造技術が確立していなかったこともあり、燃料を気化させ、点火プラグで爆発燃焼させるガソリンエンジンの方が作りやすかったのです。開発が難しいディーゼルエンジンを使うよりは、比較的製造が容易なガソリンエンジンを選択するのは当然の流れともいえ、このGMH17を搭載したキハ42000を製造、営業運転に投入されました。

 しかし、ガソリンという燃料は御存知の通り、揮発性が高く、着火する危険が高いものです。気化したガソリンにも引火しやすく、その取り扱いには十分に注意しなければなりません。今日、ガソリンを長距離・大量輸送するために、簡便なタンクローリーではなく鉄道のタンク車が使われているのは、輸送効率もさることながら、タンクローリーでは1台で運ぶことができる量が法的に規制されているためで、鉄道のタンク車であれば法規制の適用から外れるという事情もあります。

 一方、ディーゼルエンジンの燃料である軽油は、ガソリンと比べると引火点が高く、比較的安全であり、その取り扱いも灯油並とも言われています。しかし、その引火点の高さから、ガソリンのように点火プラグで爆発燃焼させることがつながって難しく、ガソリンエンジン軽油を使うと燃焼させることができても故障につながってしまいます。

 しかし、軽油を燃料とするディーゼルエンジンは、ガソリンエンジンと比べると高い技術が必要であり、戦前の日本の技術力ではそれを造ることは困難でした。そのため、国鉄の前身である当時の鉄道省は、ガソリンエンジンを搭載した気動車であるキハ42000を製造、これにガソリンを燃料とするGMH17を装備させたのでした。

 

《次回へつづく》

 

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