旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

この1枚から 雪と闘い40年、最終盤の711系【1】

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 いつも拙筆のブログをお読みいただき、ありがとうございます。

 今年は梅雨入りが例年よりも早く、5月から雨続きのところがある一方、平年並みでそろそろかな、というところもあるようです。ただ、梅雨明けは平年よりも速いという予報もあるとかないとかで、もしかしたら「空梅雨」なんてこともあるのかもしれません。

 梅雨があければ、暑い夏がやってきます。今年は臨時休校もなく、4月からなんとか通常通りに仕事が進んでいるおかげで、夏にはまとまった休みが取れそうなのがささやかなお楽しみです。

 さて、今回は夏とは正反対に、寒いという言葉では言い尽くせない、酷寒の中を走り続けてきた車両のお話をしたいと思います。

 日本の鉄道車両、特に国鉄やJRの車両たちは使われる地域の気候に応じて、同じ系列や形式でも様々な仕様でつくられます。例えば全国各地で見ることのできるDE10は、北海道用の極寒地仕様や東北や北陸などで運用される寒地仕様、それ以外の暖地仕様と分けられます。極寒地仕様では凍結防止が重点的に施され、寒地仕様も含めて運転台窓はワイパーではなく旋回窓を装備するなど、見た目にもわかるものがあります。

 113系415系に代表される近郊型電車も同じです。特に115系は基本となる暖地仕様のほか、上越線信越本線で運用された車両は豪雪地帯を走行することから、電動車に雪切り室を設置した耐寒耐雪仕様である1000番代がつくられました。また、115系で最も最後に新製された3000番代は、使用される地域の実情に合わせたため、片側2ドアで転換クロスシートを備えたものとなりました。これは、山陽本線広島以西では普通列車に153系が充てられていたことや、日本三景の一つで有数の観光地である宮島があり、接客サービスの面でも従来の近郊形電車の仕様では、競合する路面電車やバスに対抗できないという事情もあり、その実情を踏まえた車両となったのです。

 このように、国鉄形の車両の多くは、画一的で標準化された車両が多く作られましたが、投入される地域の気候や実態に合わせた車両もつくられたのです。

 さて、このブログでも何度もお話しさせて頂いているとおり、既にこのブログでも何度もお話しさせて頂いているとおり、北海道は本州以南とは多くの点で異なります。

 北海道内の鉄道は、ほとんどが非電化です。これは、かつて盛んだった炭鉱から採掘される石炭を輸送するため、道内各地に炭鉱へと続く鉄道が数多く建設されました。これは、基本的に都市間を結ぶ古都を目的とした本州以南の鉄道建設と性格を大きく異にするものです。そのため、輸送密度はそれほど大きくないが、大量の石炭を輸送する貨物列車が運転されていた関係で、非電化でも十分だったと考えられます。

 一方、北海道のもう一つの大きな特徴は、本州以南では考えられない冬の厳しい気候でした。本州にも上信越や奥羽など、豪雪地帯はいくつかあります。これらの地域では、除雪車が活躍していますが、これらの地域で降る雪は湿り気を帯びたものです。ところが、北海道で降る雪は湿り気の少ないさらさらとしたものです。これは、気温が極端に低いため、雪自体が非常に冷たく氷に近い質のためだとも言われています。それ故に、北海道の冬は身が千切られるかのような痛みを伴う寒さで、防寒対策は本州以上にしないと命取りになるほどなのです。

 そうした環境にあって、北海道では数多くの気動車が運用されてきましたが、人口が集中している道央部、すなわち小樽ー札幌ー旭川、札幌ー苫小牧ー室蘭は輸送密度もそれなりに多いこと、国鉄が進めていた動力近代化計画の一つとして交流電化がされ、ここで運用する車両が必要となったのです。

 こうして、1968年に国鉄初の交流電車(交直流両用ではない)として開発・製造されたのが711系でした。北海道の電化区間は、ほかの直流電化区間と隣接していないため、わざわざ直流用機器を搭載する必要がなかったため、交流専用車として設計されました。

 711系の最大の特徴は、なんといっても北海道専用として設計されたことでしょう。

 形式こそ近郊型ではあるものの、客用扉は片側2扉で幅1000mmの片開きでした。また、客用扉にはデッキが設けられ、客室内へはデッキの引き戸から出入りする構造で、この仕様は急行型とほぼ同じものでした。これは、通常の片側3ドア両開き戸で、デッキもない構造のままだと冬季にはたちまち車内は温度を下げてしまい、暖房効果が全くなくなってしまうことから、保温のためにあえてこうした構造にしたのでした。

 

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札幌駅へ進入する711系3両編成。登場時は北海道の気候を考慮して非冷房で、国鉄時代に冷房化をされることはなかった。しかし、民営化後はサービス向上と、北海道といえども夏季には気温が高い日が多くなったこともあって、集約分散式の冷房装置を装備する改造を受けている。(クハ711-113×3〔札サウ〕 札幌駅 2005年5月29日 筆者撮影)


 この急行形に近い設備を活かして、一時は電化区間で運転される急行列車にも充てられた経歴をもっています。この急行列車が好評だったことから、北海道内でも電車による特急列車が運転されるようになりますが、北海道用に耐寒設備を強化した485系1500番代は酷寒の気候には対応しきれず、結果、711系をベースにした道内専用の交流特急形電車である781系を登場させました。

 

 

《次回へつづく》

 

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