旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

いろいろある貨車の標記の意味【3】 貨物輸送の進化と輸送係の注意喚起

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《前回からのつづき》

 

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■道外禁止

 この標記は現在では見ることができないだけでなく、その表記の通り北海道以外では見ることのなかった特殊なものといえます。

 かつて、国鉄の貨物輸送が物流の第一選択肢だった頃、おおくの貨車は最高速度65km/hで運転されていました。しかし、時代とともに速達性が求められるようになると、二軸貨車は走行装置を一段リンク式から二段リンク式にするなどして、75km/hで運転を可能にしました。そして、1968年のいわゆる「ヨン・サン・トオ改正」をもって、車扱貨物列車のスピードアップが実施されました。

 一方、数多く運用されている貨車の中には、この高速化改造の対象外とされたものもありました。車齢が高いため近い将来廃車になることが想定されていたり、車両の構造上、高速走行に適さないと判断されたりした車両は、そのまま65km/h運行に限定され、形式番号には特殊標記記号で低速車を表す「ロ」が追加されました。

 その中でも丸囲みの「ロ」表記された車両たちは、低速車であるとともに、北海道内に封じ込められ、道内での運用に限定されたのでした。

 これは、低速車は地域を限定して運用されることが前提であったことと、これらの車両が本州などに流入し高速対応の車両と混同して運用されることを避けるためであったこと、そして、青函連絡船を介して本州に流入することで、北海道内での車両不足を避ける目的があったと考えられます。また、北海道は広大な大地に鉄道網が張り巡らされ、同時に高速道路の整備が進んでいないことから、鉄道による貨物輸送の需要も多く、本州以南と比べて列車の運行密度も低く、低速車であっても需要に応えられるという事情も、こうした道内封じ込めの「道外禁止」の貨車が存在したといえるでしょう。

 

最高運転速度65km/h以下を示す黄色帯と「道外禁止」の標記がされていたセキ6000形。「ヨン・サン・トオ」ダイヤ改正国鉄は貨物列車の最高運転速度を75km/hに引き上げ、貨物の到達時間の短縮を目指した。それに対応できるため、二軸貨車の二段リンク式への改造などが行われた一方、「不適格」として改造対象から外れた貨車は、黄色帯を巻き、「ロ」の標記が追加された。中でも北海道内での運用に限定し、本州以南への流出を防ぐために、「道外禁止」の標記は目立つように記されていた。(セキ6000形 セキ6657 ©Chatama, CC BY-SA 3.0, 出典:Wikimedia Commons)

 

 この「道外禁止」を表記された貨車は、特に青函連絡船に接続する函館駅や、五稜郭駅構内にある貨物専用の有川桟橋での車両航送作業で、誤って車両渡船に積み込まれることがないよう、桟橋で作業をする操車掛に注意を喚起していました。

 これらの「道外禁止」の標記が書き込まれ、北海道内に封じ込めの対象になった車両たちは、よほどのことがない限り北海道から出ることはなく、廃車になるまで北の大地でその一生を終えています。

 

■連結注意

 この標記がされている車両は、「突放禁止」と同様に現在も見ることができます。

「突放禁止」の場合は、入換作業において突放による貨車入換を禁止したもので、連結時の失敗などによる衝撃で、積荷の破損を防いだり、貨車の構造上、輸送係が貨車に添乗してブレーキ操作ができないなどといった場合に、この「突放禁止」が標記されます。

 一方、「連結注意」の場合は、「突放禁止」と少し異なります。

「連結注意」は読んで字の如く、連結時に注意を喚起するものです。

 その理由として、一つは車両の構造によるものです。特に、タンク車の中でも積荷となる化学物質の性質上、通常の鋼製タンク体を使うことができず、アルミニウム、特に化学物質と反応しにくい純アルミニウム製のタンク体を使った車両に標記されていました。これは、アルミニウムが鉄鋼に比べて強度が弱く、連結時の衝撃によってタンク体が破損し、積荷の化学物質の漏洩を防ぐことがもくてきでした。

 

「連結注意」の標記は、その多くが積荷となるものが取扱に注意が必要な化成品であることや、そのタンク体が強度が弱い材質(アルミニウムなど)でつくられているためであることに起因する。連結時に過度な衝撃が加わり、タンク体が破損し積荷である有害物質の化成品が漏れる事故を防ぐため、操車掛や輸送係の職員に注意を喚起する意味がある。車扱輸送がほとんどなくなり、多くがタンクコンテナによる輸送に切り替えられて見ることがほとんどなくなった。(タキ29000形 タキ290001 ©シャムネコ, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

 もう一つは、積荷の性質によるものでした。例えば、かつて液化石油ガス(LPG)を積荷としたタキ25000形や、液化塩素専用のタキ5450形などに標記されていました。これらの積荷は大気中に漏出すると引火による火災や爆発を起こす危険性や、毒性が高かったり腐食性が強いなど人体への危険度が高いため、万一、連結時の衝撃によってタンク体が破損すると大事故に繋がります。そのため、連結作業時には慎重をようすることから、輸送係に注意を喚起するために標記されていたのです。

 

《次回へつづく》

 

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