旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

貨車の色にも「意味」があった【7】 高圧ガス用のタンク車の色は法律で指定

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《前回のつづきから》

高圧ガス用のタンク車の色は法律で指定

 同じタンク車でも、運ぶものによって随分と形が違います。もっとも多く見かけるのはガソリンや石油類を運ぶタンク車でしょう。他にも生活などに欠かすことのできない燃料としてはガスがあります。

 液化石油ガス、一般にはLPガスと呼ばれる燃料は、家庭用のガスとしても使われるポピュラーな燃料の一つです。LPガスは家庭用燃料としての用途以外に、タクシーなど営業用自動車の燃料としても使われています。筆者が貨物会社を退職した後、数年ほどハイヤーとタクシーの乗務員をしていましたが、乗務していたトヨタクラウンの営業車は、トランクに燃料として使うLPガスのボンベが装備してありました。毎日一回はLPガススタンドへ出向き、そこで必ず「充てん」してもらったものです。

 このように、LPガスの用途は多く、しかも需要が多い燃料の一つです。

 とはいえ、危険物であることは石油類と変わりません。このLPガスの輸送も、かつては鉄道が担っていました。

 LPガス専用のタンク車はいくつかの形式が製作されましたが、主なものとしてタサ5400、タサ5700、そしてタキ25000がありました。他にもつくられた形式もありますが、製造数として多かったのはこの3つのタンク車でした。

 これらのタンク車も、石油会社や石油輸送会社、そして通運事業者などが保有する私有貨車でした。

 このタンク車は製造当初から黒色ではなく、ねずみ色1号に塗られていましたので、とかく目立つ存在だったといえます。

 この塗装は法令によって決められていました。LPガスは、その名の通りガスです。ガスと言うと気体になっているものを想像する方が多いでしょう。確かに、LPガスを使っている家庭では、ガスコンロで火をつけたときは気体になっているLPガスをガスが燃えることで火が付きます。

 しかし気体のままのガスを運ぶのは容易ではなく、そして効率も悪くなってしまいます。大量に運ぼうとすると、気体では想像を超える大きさの容器が必要になってしまいます。そこで、高い圧力をかけると液体になるLPガスの性質を利用して、液体にした状態で輸送することにしました。

 そのため、LPガス専用のタンク車は、高圧タンクをタンク体にしていました。高圧タンクを使えば、LPガスは液体の状態で運ぶことができるので、大量のガスを運ぶことができます。

 一方で、この高圧タンクを載せたことで、高圧ガス保安法の適用を受けることになります。高圧ガス保安法では、高圧タンクやボンベに入れる化成品の種類によって、塗装される色が指定されています。そのため、LPガス専用のタンク車は、タンク体の色がねずみ色1号に塗ることが定められているのでした。 

 同じような例では、LPガスを使用する家庭に置かれたLPガスのボンベは、すべてねずみ色に塗られています。間違っても他の色に塗られていることはありません。また、最近では新型コロナウイルス感染症で、酸素を投与しなければならない状態になることがありますが、この酸素を充てんしたボンベは黒色に塗ることが定められているのです。言い換えれば、高圧タンク体をもつLPガス専用のタンク車に、黒色の塗装をしてしまうと内容物は酸素ガスと認識されてしまうので、国鉄の貨車標準の塗装である黒色が使うことはできず、指定されたねずみ色にしなければならなかったのでした。

 これらLPガス専用タンク車は、かつては数多く運用されていたようです。1987年の分割民営化では、20トン積みのタサ5700と25トン積みのタキ25000が継承され、国鉄時代と変わらずLPガスガス輸送に活躍していました。

 

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国鉄のタンク車といえども、国鉄の規定ではなく法令に従って塗色が決められていた例の一つとして、液化石油ガスLPガス)専用のタンク車が挙げられる。高圧ガス保安法(改称前は高圧ガス取締法)では、LPGを封入した高圧ボンベはねずみ色に塗装することが定められていた。LPG専用の貨車も「高圧ボンベ」と見做されていたため、タンク体をねずみ色で塗装していた。(©Yamato-i, Public domain 出典: Wikimedia Commons)

 

 1990年代後半から、車扱貨物として輸送していた多くの物資別バルク輸送は、新たに開発したコンテナを使ったコンテナ輸送に置換えられていきますが、LPガスガス輸送はコンテナ化はされず、これらの貨車の後継となる車両もコンテナもなく、姿を消していきました。

 ところで、LPガス専用タンク車は、その積載量とは裏腹に大型であることが特徴です。タサ5700は20トン積みであるにもかかわらず、全長は17,880mmもあり、タンク体の容積は約47㎥と大きなものでした。タキ25000に至っては17,080mmとタサ5700よりも800mm短くなっていますが、タンク体の容積は約59㎥にもなり、大きく長いタンク体が特徴でした。このように、LPガス専用のタンク車は積荷のLPガスの比重が約0.5と水の半分しかないため、同じ重さを積もうとしてもタンク体の容積は水の2倍も必要になってしまうのです。

 かつては鉄道が担っていたLPガスの長距離輸送も、残念ながら今日では姿を消してしまいました。理由はいくつかありますが、一つには輸送を担ってきたタンク車の老朽化があるでしょう。最大級のタキ25000は製造初年が1966年で、1982年まで長期に渡ってつくられ続けました。とはいえ、最も新しい車両があっても、荷役設備が老朽化しては意味もなく、こうしたことも背景にあったと考えることができます。

 もう一つには、LPガスの供給体制が整備されたことが挙げられます。輸入したLPガスは一次基地と呼ばれるところで受け入れますが、今日では全国35か所もあります。そして、ここから二次基地と呼ばれるところへ運ばれますが、ここへは内航のLPGタンカーで運ばれるようになりました。鉄道に代わって内航船が担うことで、大量輸送を実現させたのです。

 かつては操車場などでも目立ったねずみ色のタンク車。この色も、法令に基づいて決められた色だったのです。

 

《次回へつづく》

 

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