旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

爆音を轟かせて走り抜けた強力気動車 国鉄キハ66系【3】

広告

《前回のつづきから》

 

blog.railroad-traveler.info

 

 DMH17系エンジンと液体変速機を組み合わせた国鉄気動車は、1950年代後半から続々と量産され、全国の非電化路線で普通列車から準急や急行、さらには特急として都市間輸送までも担うようになりました。 

 そうはいっても、最大でも180PSという出力の低さは、特に優等列車での運用や、勾配線区での運用には難がつきまとっていました。できれば、高出力のエンジンを欲するところでしたが、ないものは仕方ありません。 

 特に優等列車に充てられる車両には、高い加速性能と高速走行性能が求められたため、キハ55系からは1両にDMH17系エンジンを2基搭載した車両を製作して、これを補うことにしました。また、勾配線区で運用する一般形気動車にも2エンジン車が設定され、キハ52形やキハ53形が製作されました。 

 しかし、低出力かつ燃費の悪いDMH17系エンジンを1基ではなく2基も搭載するとなると、運用コストの面で課題がありました。特に燃費が悪いために日常の運用では、燃料の軽油を多く消費してしまうことで、単純計算で1基搭載車の2倍は必要になります。そして、保守の面でも1基搭載車よりも2基搭載車ではその手間と工数も倍になり、運用コストを倍とまでは言わないまでも、相応に高くなるのは明らかでした。 

 

車体の軽量化技術が確立すると、国鉄は次々に新型気動車を開発していった。キハ20系はキハ10系と比べて格段に乗り心地、居住性を向上させることを実現し、ローカル線のサービス向上に寄与した。しかし、DMH17系エンジンに由来する非力さは、平坦線では問題にならなかったものの、勾配線を抱える線区ではその弱点が露呈した。その対策として、1両でエンジンを2基搭載した強力型を造らざるを得なかった。(上:キハ20 457 碓氷峠鉄道文化むら 2011年7月18日 下:キハ52 125 上総中野駅 2013年6月30日 いずれも筆者撮影)

 こうした状況の中で、高出力エンジンを求める声は高まり、国鉄も開発に挑み続けました。国鉄は1960年に、高出力エンジンを搭載したキハ60形と、その二等車であるキロ60形を試作しました。いわゆるキハ60系と称されるこの気動車は、出力400PSとDMH17系の2倍以上を誇る大出力エンジンであるDMF31HSAを搭載しました。直列6気筒、排気量31,000ccという構造をもつこのエンジンは、もともとはディーゼル機用に開発されたDMF31系に属するもので、DD13形をはじめその派生型であるDD14形やDD15形にも搭載され、さらにはこのエンジン2組をV型に組み合わせたDML61系はDD51型やDE10形など、多くのディーゼル機に搭載されたベストセラーエンジンとなったのでした。 

 しかし、もともとディーゼル機に搭載することを前提とした垂直シリンダーを基本とした設計であったため、これを気動車に設置するためには床下の狭いスペースに対応しなければなりません。DMF17系は水平シリンダーを基本として設計されていたことなどから、潤滑不足による不調を起こすことが少なかったのに対し、DMF31HSAは垂直シリンダーを基本としたDMF31系を基本としていたこともあって、潤滑不足による不調を度々起こしてしまいました。また、DMF17系は排気量が17リットルと低めであったのに対して、DMF31系は31リットルという排気量であるにも関わらず、同じ6気筒エンジンであったため、気動車に搭載するエンジンとしてはシリンダーが大きすぎたことも潤滑不足を招く要因になったと考えられます。 

 こうして、大排気量で大出力のDMF31HSAを搭載したキハ60系は、度々起こる不調に悩まされた結果、気動車のエンジン大出力化という目論見は頓挫し、後に製造される急行用気動車であるキハ58系とその派生型も、DMF17系エンジンを搭載することに甘んじなければなりませんでした。 

 キハ60系の失敗によって、当面は低出力であるものの動作が安定し、実績と信頼を積み重ねたDMF17系エンジンを使い続けなければならなくなりましたが、それでも、1機関あたりの出力を向上した強力エンジンを実用化させる構想を、国鉄技術陣は諦めるどころから、さらに開発を続けることになります。 

 DMF31HSAは気動車としては排気量が大きいため、シリンダーが大きく潤滑不足に陥ることが問題でした。そこで、シリンダーの大きさを適正化させて、潤滑不足というエンジンにとっては致命的ともいえる欠陥を抱えた構造を基本から見直すことにしました。 

 具体的には、エンジン出力は1機関あたり500PS程度の大出力を確保し、そのため排気量も30リットル程度が望ましいと考えられました。そして、排気量と限られたスペースに搭載する気動車に対して適切なシリンダーの大きさとするため、シリンダーの数を6気筒から8気筒へ変更しました。こうすることで気動車に搭載するエンジンは横置き形になることに由来するDMF31HSAで問題になった潤滑不足を防ぎ、安定した動作を可能にしたのでした。 

 そして、この新型エンジンはDMH17系に代わって新たに開発されたDMF15系エンジンを基本に、これを2組対向に組み合わせ、バンク角180度のV型12気筒としたのが、DML30系エンジンだったのです。

 

《次回へつづく》

blog.railroad-traveler.info

blog.railroad-traveler.info

blog.railroad-traveler.info