旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

工業製品として見た東急7000/7700系【2】

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2.工業製品としてみた7000系

 1969年につくられて以来、途中電装品の改良を加えながらも50年以上走り続けてきた7000系/7700系。多くの鉄道車両が40年ほどで引退していった中、50年以上というのは驚異的とってもいいでしょう。
 ここでは、この50年以上も使い続けることができたという理由を、工業製品として見ながら迫っていきたいと思います。


前回までは

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 2-1 オールステンレス車であるが故に

 7000系が誕生した時代、多くの鉄道車両は普通鋼でつくられていました。もちろん、ステンレス鋼でつくることができる技術が確立されていなかったことや、ステンレス車自体の価格が高価だったことも要因の一つでした。

 しかし、東急電鉄は子会社である東急車輌がオールステンレス車の製造技術を得たことで、多少製造価格は高くても、そのメリットは十分にあるということで、日本初のオールステンレス車両を誕生させました。

 ステンレス鋼のメリットはやはり腐食に強いことでしょう。
 鉄道車両は常に屋外にいます。熱い晴れの日はもちろん、雨の日も走り続けています。寒かろうが暑かろうが、屋根のある車庫にいることはありません。工業製品としては非常に過酷な環境に、その体を晒し続けています。

 そのため、普通鋼でつくられた車両は、鋼板の地肌を剥き出しになどできません。そんなことをしてしまっては、たちまち錆が発生してしまいます。ですから鋼板を保護するためにも塗装をすることが欠かせませんでした。

 もちろんその塗装も永遠ではなく、ある一定の周期ごとに塗り替えてあげる必要がありました。かつての鉄道車両がカラフルだったのは、所属する会社や走る路線を識別できるようにすることはもちろんですが、何よりも車両の外板を保護することが大きな目的だったのです。

 ところが、ステンレス鋼ではその必要がありませんでした。

 腐食に強い性質なので、わざわざ保護のための塗装は必要ありません。適切にメンテナンスがされていれば、普通鋼に比べて非常に長く使えるものです。

 7000系はそのメリットを十分以上に発揮したといえるでしょう。
 また、製造コストは高価でも、塗装の必要がないということは、塗装にかかわるコストを軽減できました。大規模検査のたびに塗り直していたのが、その必要がないが故に塗料も必要なく、塗装に携わる人員も削減でき、さらに検査に必要な日数から塗装の時間を減らすことができました。多くの維持費を軽減できたのも、ステンレス鋼を使ったためといえるでしょう。

2-2 しっかりとした構造設計

 7000系は1960年代の設計です。

 この頃は軽量化技術というのは今ほど発達していませんでした。そのため、7000系は材質こそステンレス鋼を使いましたが、その構造は旧来の方法を踏襲せざるを得ませんでした。
 また、技術供与をしたバッド社からの指示もありました。7000系の正面を見ると、左右の前面窓との間に貫通扉が設置されています。前面に貫通路を備えた鉄道車両はいくらでもありますが、その意匠は独特なものでした。

 後年につくられた8000系と比べるとよく分かると思いますが、7000系の貫通扉は一段奥に引っ込んだ意匠になっていることに気付かれると思います。この一段奥に引っ込んだ貫通扉の構造もバッド社の指示によるものでした。貫通扉の両脇には衝突時に車体の強度を担保するための「衝突柱」が設置されたため、こうした意匠になったのでした。

 車体外板もステンレス鋼を使うことで、従来の普通鋼に比べて薄いものを使うことができました。薄い鋼板を使うことで、車両の重量を抑えることができます。その反面、溶接部などには歪みが生じやすく、見た目にもあまり好ましいものではありません。加えて薄い鋼板は、振動などで加わった力によって歪んでしまうことも考えられます。

 そこで、薄い鋼板の上にある程度の強度を保たせるために、同じステンレスの鋼板をプレスしてつくった、「コルゲート」と呼ばれる板を貼り付けました。こうすることで、加わった荷重によって歪みにくくするとともに、見た目にもそれが判らないようにしました。

 

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▲1960年代に設計・製造されたステンレス車両は、製造技術によるものもあったが比較的堅牢につくられたといえる。そのため、製造後も長きにわたって使われ続けることができるばかりか、写真のように改造を施されても耐えられるものであった。写真は東急8000系を改造した伊豆急8000系。左側は中間車を先頭車化に改造されたが、今日の超軽量車両と異なり、車体に歪みなどが見られず右側の未改造車と比べても遜色ない。(Rsa [GFDL または CC-BY-SA-3.0], ウィキメディア・コモンズ経由で

 

 7000系では客室窓の下に、このコルゲートがつけられました。
 そしてこのコルゲートは同じステンレス鋼ですが、ほかの外板と異なり光沢のあるものを使ったので、シルバー一色の無機質なりがちな車体にアクセントを加える役目も担いました。

 いずれにしても、設計の古さに由来する強固な構造や、薄い外板の歪みを防ぎ見えなくするためのコルゲートは、1960年代の設計に由来するものでした。

 しかし、この設計が後年になって吉と出ました。

 1980年代になって、製造から25年以上経った7000系の電装品を更新して7700系に改造するときに、車体の強度を調べることがおこなわれました。構造設計が旧来のままで、しかも腐食に強いステンレス鋼を使ったため、腐食などによる「浮き」もなく、全体として良好であることが確かめられました。また、製造時の強度を25年が経っても変わらず保っていることも確認されたそうです。

 先進的なステンレス鋼を使ったことと、今日では過剰ともいえるほど強固な構造設計であったこと、そして新技術を取り入れはしたものの、当時の製造技術が極端な効率化・合理化を追求せず、確実であることを旨とした思想が反映されたものだと考えられます。

 故に、東急電鉄は7700系に更新改造をする際に、電装品と台車、そして車内の内装のみを新しいものに取り替え、台枠や構体などといった車体はそのまま使うことができたのでした。

 今日量産されている多くのオールステンレス車は、生産の効率性・合理性を追求するあまり、車体強度の面で不安のある車体になってしまいました。特に外板の板厚は極端にまで薄くされ、ともすると人間の手の力で折り曲げることができるのではないかと思いたくなるほど薄いものが使われています。そのため、運用開始から10年ほどで外板の歪みが目立ち、中には補修すら難しくなるほどベコベコになっていた例もありました。

 こうしたことを考えると、25年経っても車体の強度が製造時と変わらなかった7000系の車体は、いかに頑丈につくられたかが解るといえるでしょう。〈了〉

 

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