旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

この1枚から 車番の下の「二重線」は直通車の証

広告

 いつも拙筆のブログをお読みいただき、ありがとうございます。

 かつて国鉄の貨物輸送の主役が車扱貨物が中心だった頃、実に多種多様な貨車が行き来していました。多くは有蓋車で、筆者が幼い頃に見に行った新鶴見操車場の仕訳線群には、とび色に塗られたワム80000や、黒一色のワラ1、たまにワム60000やワム70000といった貨車が連なっていました。

 ワム80000もワラ1も、あまりにも当たり前に、そして数多くやってくるので、さすがに珍しい車両でもいないかと思うこともありましたが、今となってはそのどれもが貴重な存在だったと思い知らされています。

 さて、そんな数多くの貨車たちの中に、見た目は同じでも「何かが違う」貨車がいました。

 例えばワラ1。

 有蓋車としてはもっとも一般的な17t積有蓋車で、17,000両以上がつくられました。ワラ1は国鉄だけでなく、貨物輸送を多く扱っていた私鉄でもつくられ、東武鉄道は自社の貨車としてのワラ1を120両も保有していました。

 私鉄の貨車なので、自社線内で運用をするのが原則です。しかし、載せる貨物によっては自社線内発着になるとは限りません。自社線を離れた遠くの地が貨物の目的地になることもしばしばありました。

 これが旅客なら駅で乗り換えれば済む話ですが、貨物は勝手に乗り換えてくれません。駅で自社の貨車から国鉄の貨車へと載せ換えることも考えられますが、そんなことをしていては時間もかかりますし、何より載せ換えの時に大切な貨物を破損してしまう危険もあります。

 そこで、貨車そのものを国鉄の線路上に走らせることにしたのです。

 

f:id:norichika583:20200906114254j:plain

ワキ824 2014年9月13日 三峰口駅秩父鉄道車両公園

 

 いわゆる「国鉄直通認可車」と呼ばれる貨車たちで、この認可を受けた貨車は、私鉄の車両でありながら国鉄線上を運用することができたのです。こうすれば、貨物を載せ換えることなく、国鉄線との授受駅で貨車を引き渡せば、遠くの荷主の元へ貨物を安全に届けることができたのです。

 これだけ便利になると、多くの私鉄で貨車を製造して、認可を受けて貨物を運んでいたかと考えられますが、実際には一部に過ぎませんでした。旅客輸送が主体の私鉄で、わざわざ貨車をつくって維持管理にかかるコストを増やすよりも、絶対的に大量の貨車を保有している国鉄から直通してもらった方が合理的だったからです。

 実際に、かつては多くの私鉄でも貨物輸送を行っていましたが、国鉄の貨車が私鉄線上を私鉄の機関車に牽かれて走る姿は多く見られました。東武鉄道のように、わざわざ自社で保有する貨車をつくる方が珍しかったのです。

 秩父鉄道も関東地方の私鉄では、貨物輸送が盛んな鉄道事業者です。かつては多数の車扱貨物を取り扱っていましたが、国鉄の貨物輸送の大合理化やトラックなどへの移転が進み、2020年には扇町駅から発送されていた石炭輸送が廃止されたことで、国鉄→JR線直通の列車が消滅してしまいました。

 その秩父鉄道が貨物輸送全盛期の頃、国鉄の貨車と同一設計の有蓋車を保有していたのです。通常なら二軸貨車というのが考えられますが、秩父鉄道保有していたのはなんとボギー有蓋車であるワキ5000。秩父鉄道での形式はワキ800と名乗っていました。

 同一設計なので、国鉄直通車の認可を受け、車番の下にはあの「二重線」が引かれていました。

 

f:id:norichika583:20200906114249j:plain

ワキ824 2014年9月13日 三峰口駅秩父鉄道車両公園

 

 ご覧の通り、車体が黒一色に塗られている以外は、プレス加工鋼板の総開き扉を備え、パレット荷役に対応した構造をしていました。妻面もプレス加工鋼板で、屋根はいわゆる角屋根と呼ばれるもの。車体の寸法もワキ5000と同一でした。

 大きく違うのは塗装の他には台車でした。ワキ5000が前期車ではTR63を、後期形ではTR220、さらにはTR216を装着していたのに対し、ワキ800はといえば設計の古いベッテンドルフ式のTR41でした。これは、TR63などの台車は高価だったようで、多くの私有貨車は安価なTR41を好んで装着したともいわれています。

 また、国鉄車と区別できるように、車体には保有する鉄道事業者の社紋と略称が描かれています。これは直通車でなくても、多くの私鉄が保有する貨車に見られたものでした。

 いずれにしても、鉄道貨物が全盛だった頃を想起させてくれる車両で、恐らくは沿線で製造されていた袋詰めセメントなどをパレットに載せて運ぶためにつくられたのでしょう。国鉄線上を、国鉄の貨車に混じって走っていた姿を見てみたかったものです。

 秩父鉄道の歴史を伝える貴重な存在でしたが、長年露店展示だったために老朽化が進行し、残念ながら解体処分されてしまい現存していません。

 

 今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

 

あわせてお読みいただきたい

blog.railroad-traveler.info

blog.railroad-traveler.info

blog.railroad-traveler.info

blog.railroad-traveler.info

blog.railroad-traveler.info

 

#貨車 #貨物列車 #秩父鉄道 #有蓋車