旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

この1枚から 「みずほ」という寝台特急がありました【後編】

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《前回のつづきより》
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 1970年代に入ると、「みずほ」は最新鋭の14系へと替えられました。14系は20系と比べるとB寝台の幅も広く居住性は向上しましたが、A寝台はそれまでの個室を備えた車両ではなくなり、プルマン式と呼ばれる開放式二段寝台になりました。

 しかしその頃から寝台特急の需要は低下していきます。航空機の大衆化や、モータリーゼションの進行、さらには東海道・山陽新幹線の全線開業によって、長距離を旅行する手段が必ずしも夜行列車でなくても可能になったからです。加えて、国鉄の寝台車は20系でB寝台で幅が60cm、14系でも70cmでしかも三段式と、長時間を過ごすには居住性に難があったことも、夜行列車離れの遠因になったといえます。

 そうした中、1984年には「みずほ」と共通運用を組む「さくら」には、B寝台を4人用の個室化にした「カルテット」が組み込まれました。そして、これを牽く機関車も翌年には東京機関区所のEF65 1000番代(PF形)から下関運転所所属のEF66へと代わり、間もなくして分割民営化を迎えることになります。

 

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(©Gohachiyasu1214 / CC BY-SA (https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0) Wikipediaより引用)

 

 JRに引き継がれた寝台特急は、しばらくの間は国鉄時代のまま維持されました。しかし、需要の低下には歯止めがかからず、追い打ちをするかのようにバブル経済の崩壊によって景気が低迷し、安価な高速バスの台頭と、航空需要の拡大と運賃の割引率拡大、そして格安ビジネスホテルの供給拡大など、旅行者が移動手段を選択する幅が広がり、必ずしも夜行列車で移動をする必要性が薄れてしまいました。

 こうして夜行列車、特に寝台特急を取り巻く環境が厳しくなり、凋落の一途を辿り始める中で、「みずほ」の需要は極端に低下していき、ついに1994年に「みずほ」は東京ー九州間を結ぶ他の寝台特急の中でいち早く廃止となり、「はやぶさ」「富士」などを補完する役目を終えました。

 筆者も福岡・門司勤務時代はいろいろな寝台特急に乗り、実家との間を往復したものですが、「みずほ」は特に利用しやすい列車だったと記憶しています。特に、門司から実家へ戻るときの上り列車は、門司駅を20時20分に発車するので、17時過ぎに勤務を終えて夕食を食べてから乗るにはちょうどよく、到着も横浜に10時37分と比較的ゆっくりだったので、無理のないスケジュールが立てられたのです。

 そして、これは喜ぶというより悲しむべきことなのでしょうが、他の列車に比べても寝台券がとりやすかったのです。もっとも、このことを裏返せば「それだけ利用する人が少ない」ということの表れだったのですが、乗りやすい取りやすいというのは当時の筆者としてはとてもありがたかったのでした。

 ただ、一つ難点をいえば食事に困ったということでしょうか。食堂車であるオシ14は連結されてはいました。しかし、筆者が乗ったときには既に食堂の営業が終了し、車内販売に切り替えられてしまったため、駅で食料を調達するか、車内販売で購入するかしか選択の余地がありませんでした。

 このため、上りの寝台特急に乗ったときに食堂車で食事をしたという記憶はなく、実家から門司へと再び赴く時に乗る下り列車の方が記憶に残っています。言い換えれば、下りの「みずほ」には乗ることがなかったのでした。

 食堂車の営業休止のようなことは、かつての寝台特急では考えられなかったことですが、これも時代の趨勢とでもいうのでしょう、寝台特急の凋落をよく表しているものといえます。

 幼少の頃、あれだけ乗ることに憧れていた列車たちは、実際に自分の働いた稼ぎで乗れるようになった時には、既に斜陽化も激しく、民営化の産物とでもいいましょうか、長距離を長時間かけて走る列車たちはその価値を失い、ともすればダイヤ編成上の「厄介者」とまで扱われるようになっていました。

 そして、車内は全盛期の頃からは想像もつかないほど閑散とし、「みずほ」の廃止を皮切りにその数を徐々に減らしていき、ついには最後まで残った「富士」「はやぶさ」も、2009年3月14日のダイヤ改正前日をもって廃止になり、戦前から脈々と続いてきた東京ー九州間の長距離夜行列車の歴史に終止符を打ちました。

 

 今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

 

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#国鉄 #夜行列車 #寝台特急 #ブルートレイン