旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

国鉄時代の鉄道管理局標記と民営化後の支社標記【2】

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《前回からのつづき》

 

 民営化から間もない頃、ほとんどのコンテナ車が国鉄から継承した車両で占められ、コキ100系の増備は始まったばかりで、非常に貴重な存在でした。特に床面が低くなったことで、載せることができるコンテナのサイズも大きくすることができました。しかし、絶対数が足りないので、一部は列車を限定して運用する車両もありました。

 筆者が福岡貨物ターミナルに勤務していた頃、構内本部から駅本屋へ向かってコンテナホームを歩いていると、留置された真新しいコキ100系の車体に、小さく「東タミ」と標記された車両がいました。また、「九福タ」という標記も見かけました。

 これは限定運用のために、常備駅を定めたコキ車の標記でした。

 「東タミ」は東京貨物ターミナル常備を表し、「九福タ」は福岡貨物ターミナル常備を表していました。どちらも最初に支社表記があり、「東タミ」は関東支社の東と、東京貨物ターミナルの電報略号である「タミ」から構成されていました。こうしたあたりは旅客車と同じなのでわかりやすかったのですが、後者の「九福タ」は珍しい標記の方法でした。

 福岡貨物ターミナルの電報略号は「フレ」です。「ふくおかかもつたーみなる」の中に「フ」はありますが「レ」はありません。これは、コンテナ貨物を取り扱う駅であり、フレートライナーとも呼ばれていたことから採られたものと推測できます。本来であれば「九フレ」となるのですが、これでは九州支社のどこの駅か分かりにくかったのでしょう、2文字目も漢字を使って「福岡」の「福」をつけることにしたのだそうです。ちなみに、社内では東京貨物ターミナルを「東タ(とうた)」、福岡貨物ターミナルのことを「福タ(ふくた)」、札幌貨物ターミナルのことを「札タ(さつた)」と略して呼ぶこともあります。

 これらの標記は、まだコキ100系が増備の真っ只中で、絶対数が少なかった頃に施されたものです。コキ100系でなければ運ぶことのできない、あるいは所定の運用が叶わない列車があり、その限定運用のために記されていました。貨車は基本的に全国どこでも運用されます。他の列車に連結されると、今度はどこへ行くのかわからない、言い換えれば一度逃してしまうと、どこにいるのかさえわからないので、追跡するためには全国の貨物駅を巻き込んだ大騒動につながるのです。

 そのため、この標記がある貨車は、他の区間、他の列車に連結されないように細心の注意が払われていました。そのため、入換作業はもちろんですが、連結されて荷役が行われているときは駅の営業係の職員が組成状態を確認するときに、こうした標記がある車両が所定外の列車に連結されていないかを確かめていました。

 もっとも、コキ50000が淘汰され、すべてコキ100系になった今日では限定運用もなくなったので、こうした標記は見ることもなくなりました。

 しかし、国鉄から継承したコキ車で常備駅がある場合は、この小さな標記ではありませんでした。

 ところが、コキ10000は多くが常備駅が定められていました。こちらは国鉄の貨車標記に倣っていました。構造が特殊で、運用も限定されていたこと、これを牽く機関車も選ばなければならなかったことから、コキ50000のような運用ができなかったことがその理由だそうで、コキ100系のような小さい標記ではなく、国鉄時代の大きくてわかりやすい標記にしていました。

 

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民営化後も運用が続けられていたコキフ10000には、関東支社配置を示す「東」の標記が、他の貨車と同じサイズで書かれていたものもあった。このコキフ10000は性能試験車を兼用する特殊仕様に改造された10900番代で、その用途から一般運用に就いていても「どこにいるのか」分かるようにするため、コンテナ車としては異例の常備駅を定めた車両として運用されていた。これ以外にも、コキ10000は隅田川駅常備と定められていた車両があり、「北海ライナー」限定運用のために同じ表記が書かれていた。

(©<永尾信幸, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons/div>

 

 この標記。全般検査などで塗装のし直しが行われる度に、同じく書き直します。「書く」と書きましたが、実際には人が手作業で書いているのではなく、何度か使えるシルクスクリーンのようなものを使って、塗料を塗りつけて書いていました。形式や数字、必要な標記の文字が揃えられていて、木枠に取り付けられているスクリーンと書きたいところに当て、その上から塗料を刷毛で塗るのです。

 今ではこうした作業をするのは、ほとんどが貨車や機関車だけになってしまいました。筆者が勤務したことのある小倉車両所には、貨車や機関車を塗装するための「塗装職場」が今もあります。その塗装職場には、車両に標記を書くためのスクリーンがいくつもあり、九州支社を表す「九」はもちろんのこと、関西支社の「西」やJR九州の「本」もありました。しかし、旅客車の多くはステンレス鋼やアルミニウム合金になり、塗装の必要がなくなったため、切り文字のシールが使われるようになってしまったため、塗装職場に入ってくる車両も貨物会社に所属する車両だけになってしまいました。

 

 今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

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