旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

この1枚から 首都圏に「ロクヨン」が走っていた【4】

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《前回のつづきから》

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 愛地区に配置になった1041号機は、首都圏に残っていたEF64牽引の運用に入るために、長躯東海道本線を走る姿も見られました。中央西線は様々な事情でEH200が入れないこともあり、EF64 1000番代の独壇場でもあり重連で貨物列車を牽く姿を見ることができました。

 しかし、1041号機の活躍はそう長くは続きませんでした。

 1982年に製造されて以来、長きにわたって走り続けてきたものの、2014年に運用から外されてしまいます。僚機が更新工事を受けて延命が施されていたのと対照的に、1041号機はその対象から外されていたのです。

 1041号機が更新工事の対象から外された理由は定かではありませんが、恐らくは公人工事が進められている時点で、他機よりも状態がよすぎたのではないかと筆者は推測しています。通常、鉄道車両、特に国鉄形は比較的寿命が長いといえます。これは、国鉄の設計陣が、質実剛健の言葉通りに頑強で長期の運用に耐えうる設計をしていたことに由来するものです。事実、1960年代に製造された車両がいまだ第一線で活躍を続けている例は多くありますが、逆に民営化後に設計・製造された車両は車齢20年程度で廃車になってしまうケースもあるほどです。

 

f:id:norichika583:20200808145700j:plain中央東線の貨物列車は、EF64重連で賄っていたが、基本倍大の老朽化が進み2車体1両というH級機となったEH200がその後継の座に着いた。しかし、中央西線は様々な事情が重なり新鋭機であるEH200への置換えはなく、EF64 1000番代の独壇場となっていた。(8097レ EH200-21〔髙〕 新鶴見信号場 2020年8月8日)

 

 しかしながら、これだけ長期に渡って使い続けるためには、10年から20年目の間に更新工事などを施す必要があります。それは電機も同じで、EF65 1000番代も更新工事を受けた車両は今日も走り続けていますが、未更新だった車両はすべて廃車になってしまいました。

 この更新工事の対象になるかどうかは、その時々によって理由は様々であり、一言では語り尽くせませんが、あまりに状態が悪い車両は高額な工事費を投資するに見合わないことから対象から外されます。また、車齢が相当高くなっている場合も同様です。

 ところが、状態はよくとも平凡な車両ほど、更新工事の対象になりやすいということを聞いたことがあります。これは、更新工事を施すことで、さらに状態がよくなることを期待しているからだそうです。

 一方、あまりに状態がよすぎると、逆に更新工事のために運用から外すことを嫌い、その対象から外されてしまうのです。更新工事を受ける車両が出ると、その分だけ所要数が減ることになります。そうすると、予備として待機させておくべき車両が手薄になり、万が一の時には列車の運行に支障を来してしまうのです。そこで、一定程度の予備機を残す必要がありますが、状態がとてもよい車両は常に運用を続けることにして、車両所への入場を見合わせるのでした。もっとも、とてもよい状態の車両は、更新工事を施さなくとも一定程度長く使えるということの表れともいえるでしょう。

 実際、1041号機は更新工事は未施工でしたが、1014年の運用離脱まで30年以上も走り続けることができたのですから、機関車としても類い希な状態の持ち主だったといって過言ではないかも知れません。

 2014年の運用離脱は、まさに1041号機にとってその後の運命を決定づけることでした。

 1041号機が運用から退いた2014年、その前年からJR貨物は大きな構造改革が行われていました。それまで多数の貨物列車を運行していましたが、中には空車や空コンの状態で走る列車もあり、けして利益率が芳しいとはいえないものもありました。実際、筆者が貨物駅で予約システムを操作していると、空コン回送やコンテナの積載がない空枠だらけの列車も見受けられました。

 しかし、これらの列車を合理化し、常にコンテナが積載されている列車の運行へと、列車そのものの運行体系に改善したため、列車の運転本数が一定程度減らされました。言い換えれば、効率がよくコンテナが常に載っている、利益率の高い輸送体系への転換をしたのです。

 こうしたことから、貨物列車の運転本数も減ったため、機関車の運用にも余裕が出てきたといいます。こうした中では当然、余剰となる車両も出てくるので、更新工事が未施工だった車両が淘汰の対象になるのは当然のことでした。

 

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中央西線では愛地区配置のEF64 1000番代が今も重連で運用に就いている。かつて、中央東線では基本番代重連が当たり前だったが、EH200に置き換えられてからはこのような勇壮な姿見見られなくなった。電機重連での運用が常態化しているのは、全国でも中央西線が唯一となったが、EF64 1000番代も老朽化今後はEH200への置換えも予想される。(©西, CC BY-SA 3.0,  出典:ウィキメディア・コモンズ)

 

 1041号機はそうした中で、1982年に誕生して以来与えられてきた役割を終えて、運用を離れていったといえるでしょう。その後、更新工事を受けた僚機が貨物列車の先頭に立って走り続けているのを横目に、稲沢駅に隣接する愛知機関区の留置線で、静かに「その時」を待つ日々が続きました。

 後継となる車両の増備も進み、2016年にその運命の日がやって来ました。1041号機はこの年をもって廃車となり、解体されていきます。

 更新工事が未施工だったことから、終始、国鉄直流標準色を身に纏い、搭載する機器類もほぼ登場時のものであることを考えると、数少ない原形を留める車両だったといえます。もちろん、保安装置や運転台上に設置された冷房装置など、時代の流れに合わせて追加された装備もありましたが、それでも国鉄時代と変わらぬ出で立ち、特に前面窓を支える窓枠にライトグレーのHゴム、いわゆる「白ゴム」を用いているので、余計に昔日の姿を思い起こすには十分でした。2010年代にこの姿を維持し続けた1041号機は、国鉄時代を思い起こさせてくれる1両だったといえるでしょう。

 

 今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

 

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