旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

仕事(?)も兼ねて南武線集約臨を捉える

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 いつも拙筆のブログをお読みいただき、ありがとうございます。

 学校生活の中で、行事と呼ばれる活動は子どもたちにとって楽しみの1つだといえます。運動会や学校祭など、規模の大きな行事は多くの方が経験してきたことだと思います。これら一見するとイベントのようにも見えますが、実は学校の教育課程に位置づけられた学習活動で、それは文部科学省から出ている「学習指導要領」にも明記されいます。

 その中の1つに、修学旅行があります。このブログをお読み頂いている方も、きっと「ああ、あったあった」と思われているのではないでしょうか。小学校では6年生が、中学校では3年生がそれぞれの学校生活の集大成として、日常の学校生活とはひと味もふた味も違い、泊りがけで、しかも現地では史跡名勝を見て回ったり、あるいは地元ではできない体験をしてきます。当然、子どもたちにとって、非常に楽しみにしている行事でもあります。

 ところが、2020年は新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言などが発出されていたため、子どもたちにとって学校行事は軒並み中止か、あるいは形を変えての実施を余儀なくされました。修学旅行は「密を避ける」などの理由により、多くが中止となってしまいました。それにともなって集約輸送臨時列車、いわゆる「修学旅行列車」の運転も取りやめになってしまいました。

 年が明け、年度も変わってこの状況が続くのかが危惧されていましたが、新型コロナウイルスは相変わらず下火になったり感染拡大になったりの状況が続いているものの、修学旅行などの宿泊を伴う学習活動は制限を設けながらも、ようやく再開されました。そして、今年度の集約輸送臨時列車の運転も再開されました。

 さて、久しぶりに運転されるこの集約臨を捉えようと、筆者は南武線の久地ー宿河原間の踏切で陣を展開させました。実は、集約臨に仕事で乗ることはあっても、線路沿いに出て記録を取ろうとしたのは初めてです。

 しかも、南武線の撮影自体もあまり数をこなしているわけでなく、最後にこの場所で撮影したのが2004年だったので、それから16年も経っていては、線路上に何があるのかも覚えていません。そこで、少し早めに展開して、アングルを決めることからスタートしました。

 踏切での撮影は、少しばかり神経を使います。踏切上に障害物を検知する「踏切障害検知器」の設置場所によっては、踏切遮断桿ぎりぎりで撮影しようとすると検知器に触れてしまい、列車の運転を阻害しかねません。最近の検知器は筆者が鉄道マンだった頃のものと比べて性能もよく(当然ですが)、ほんの僅かでも作動させてしまうので注意が必要です。

 今回は上り列車がメインとなるので、立川方からやってきた列車を右カーブ(川崎方から左カーブ)を走行する列車を捉えることにしました。

 

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1600F N4編成(クハE233-8004×6)〔横ナハ〕 久地-宿河原 2021年6月28日 筆者撮影)

 

 まずは練習となる上り列車を捉えました。

 南武線は御存知の通り、かつては「首都圏国電の墓場」とまで揶揄されるほど、東京都心部で使われ続けた車両たちが、新型車の投入により押し出されてきた「中古車」たちが集う路線でした。

 民営化後にJR東日本205系を増備し、南武線にもようやく新車が投入されましたが、すべての103系を淘汰するには至りませんでした。残存する103系を淘汰したのは、山手線で使われていた205系で、しかも編成短縮により先頭車が不足したため、余剰となったサハを先頭車化改造した1200番代が充てられたほどです。こうしたあたりは、国鉄末期に主要幹線で列車ダイヤから国電ダイヤに改変したことで、先頭車不足を改造車で賄った115系のそれに似ていました。

 その205系国鉄形であるがゆえに、JR東日本が進める保全体系には適合できないため、これをも淘汰の対象になり、標準形車両と位置づけるE233系8000番代の新造で、南武線205系(支線用を除く)をすべて置換えて、いまでは新車として投入されてきたE233系8000番代の独壇場となりました。

  筆者はJR東日本の新系列車はあまり好きにはなれません。車体のつくりもどことなく「安っぽさ」を感じてしまいます。新製から数年もすると、車体側面に歪みが出始めることもあり、いかに安価に抑えようとしているのかと思わずにはいられません。

 車内も客室壁がFRPで成形されたユニットを貼り付けただけ、しかも座席は最近でこそ改善はしているものの、ウレタン樹脂をふんだんに使った「座れればいい」だけの硬いものです。メカ的にも、台車はとにかく軽くて安い構造で、二昔前の重厚感あるものとは異なります。

 同じ世代の車両でも、ほぼ同一の設計ともいえる私鉄の車両や、JR西日本の225系や227系のほうが、もう少し鉄道車両らしいと感じてしまうのです。

 とはいえ、南武線の今の主役はE233系なので、これはこれで今のうちに記録しておくのも大切かもしれません。なにしろ、JR東日本は新型への置き換えペースは非常に早く、新型車の導入が始まると早くて1年、遅くとも3年以内にはすべて置換えられてしまいます。南武線E233系8000番代も、2017年に205系を置換えていますので、早ければあと10年もすると置換えが始まってしまうかもしれないのですから。

 

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1661F N36編成(クハE232-8036×6)〔横ナハ〕 久地-宿河原 2021年6月28日 筆者撮影)

 

 上り列車を撮影すると、ただでは終わらせまいと、下り列車の撮影もしてみました。

 ピントの甘さも気になりますが、この日は曇り空でシャッタスピードと絞りの調整に苦労しました。おまけに立川方には何やら怪しい黒い雲が立ち込め、ますます明るさが無くなりそうです。

 下り列車は、ちょうど南武線と交差する府中街道跨線橋と、東名高速道路の高架があるので、シャッターを切るタイミングが難しかったです。ご覧のように、早く切ってしまうと後ろのほうが高架下にかかってしまいました。しかし、手前まで持ってこようとすると、今度は地上の信号機器が入ってしまうので、なかなかいい構図を決められませんでした。

 

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9484M NB-11(クハE257-511×5)〔千マリ〕 久地-宿河原 2021年6月28日 筆者撮影

 

 いよいよ、お目当ての集約臨9498Mがやってきます。

 踏切が鳴動してからかなり時間がありました。そもそも南武線は貨物列車も走るので、踏切を制御する軌道回路の構成は、電車だけ走る路線と比べて長くとっています。例えば、私鉄である東急東横線の踏切鳴動時間は、列車の通過約30秒前ぐらいから鳴動仕出し、通過後約15秒〜30秒で停止します。

 しかし南武線の場合は通過する列車にもよりますが、通過前約45秒〜60秒、通過後も約30秒〜60秒となっています。これは、機関車牽引の貨物列車と電車列車ではブレーキ特性が異なるためで、電車列車と比べて貨物列車は非常ブレーキをかけても逸走距離が長いためなのです。

 普通列車であれば既に通過してもおかしくない時間が経っていましたが、さすがに集約臨は途中駅はすべて通過、しかも普通列車との合間を縫っての運転なので、かなり遅いスピードで走行していました。

 立川方から顔を出してきたのは、幕張車両センターに配置されているE257系500番代です。シルバーと黄色に塗装され、まるで1960年代に打ち上げられたアポロ月着陸船にも似た顔つきに、貫通扉には長方形を立てにした相性表示版は、まるで旧型国電に取り付けられていた行先サボを想起させる、特徴的な前面デザインです。

 日光から約3時間もの長旅をしてきた6年制の子どもたちが、いよいよ旅の最終盤に差し掛かっている列車を捉えました。

 実はこの日のこの列車を捉えたのは、もう一つの意味がありました。

 それは、この列車の「乗客」となっている子どもたちは、彼らが2年生のときに筆者が担任をした教え子たちだったのです。そんな彼らが小学校生活の集大成となる修学旅行に出かけていき、その帰路となる列車を写真に収める「趣味」の面と、出迎えるという「仕事」の面を持ち合わせていました。

 本来であれば、駅などで出迎えるのが最もよいことなのでしょうが、土日の修学旅行であったため、引率した職員以外は週休日であることと、新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点から、駅での出迎えは禁じられていたのです。

 ならば、沿線で「趣味」として写真を撮り、手を振って出迎えるのであれば問題はないと、この日の9484M を撮影したのでした。

 この写真を撮影したあと、すぐに踏切から離れると走りゆく列車に向かって手を振りました。

 いずれにしても、日常の生活でもさまざまな制限や、今までになかったことを日常の中でしなければならないというストレスの中で、こうして修学旅行に出かけることができ、一生の思い出を作ることができたのは、いずれ巣立っていく彼らにとって素晴らしいことだったと思います。

 

 それにしても、E257系の愛称表示器に出ている文字。いくらなんでも「団体」とはいかがなものでしょう。先代の185系や先々代の183・189系、そして元祖の167系にはしっかりと「修学旅行」の幕が用意されていました。筆者もそれぞれに乗りましたが、やはりこの表示があることで、「自分たちのために用意された列車」ということを理解できたと思います。

 それがただ単に「団体」とは、無味乾燥にも思えるのは筆者だけでしょうか。LED表示なので、コンピュータのメモリに手を加えるだけであることを考えると、こうしたあたりの気配りをしてほしいものだと思わずにはいられません。

 

 今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

 

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