旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

学校の児童生徒だけが乗る「専用列車」 思い出とともに走った修学旅行用電車たち【6】

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《前回からのつづき》

 

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 1965年に新製された167系は、関東地区対京阪神の増発用として田町電車区に配置、さらに翌1966年には山口県広島県からの要望により、山陽地方用として下関運転所にも配置されて、修学旅行の生徒を輸送する任に就きました。

 しかし、こちらは運転開始が155系などと比べて遅かったこともあり、1974年に東海道新幹線への修学旅行移転によって、1975年には山陽新幹線の博多全線開業によって列車の運行が廃止されてしまいました。製造からわずか10年程度で本来の用途を失った167系は、田町区配置車はそのまま波動輸送用の予備車として、下関所配置車は田町区と宮原電車区へ配置転換となり、やはり波動輸送用となりました。

 修学旅行用としての用途を失った167系は、水タンクなどの特殊な設備が撤去されました。しかし、車体の塗色はそのまま朱色3号と黄1号の修学旅行色をまとったまま、繁忙期の臨時列車などに充てられました。

 1979年に国鉄の塗装規定が改定されると、朱色3号と黄1号の修学旅行色は廃止され、165系と同様に湘南色に塗り替えられます。また、1978年からは155系・159系では実施されなかった冷房化改造工事も施工され、デッキ部にあった物置に洗面所を設置するなど、一般の急行形と同じ設備に更新する工事も施されます。

 

165系と基本構造が同じ167系は、集約臨での運用が減少したあとは湘南色に塗り替えられ、波動輸送用に充てられるようになった。写真のように、夏季の繁忙期などには臨時・季節列車の運用に就いて多くの旅行客を運んでいた。(クハ167(番号不明) 熱海駅 1985年8月13日 筆者撮影)

 

 1975年で本来の修学旅行用としての用途は失いましたが、実際には完全に廃止されることはなく、中距離の集約臨は運転され続けていました。これは、神奈川県内の公立小学校が実施する修学旅行で、神奈川県と日光を結ぶ集約臨に、155系からその任を引き継いで充てられました。

 筆者も小学生の頃、この集約臨に乗って修学旅行にでかけましたが、167系が充てられていたことに驚きました。一見すると165系とあまり変わりませんが、狭幅の乗降用扉がその出自を物語っていたので、本来の用途が残っていたことに嬉しくもありました。また、日光線は連続した勾配が存在する勾配線区であるため、165系と同じ性能をもつ167系でなければ、この集約臨は難しかったのではと考えられます。

 167系で特筆することは、定期急行列車の運用をもっていたことでしょう。急行「東海」に併結されていた御殿場線直通の急行「ごてんば」には、田町区に配置されている167系が充てられていました。残念ながら、1985年の「ごてんば」廃止にともなって、167系の定期運用はなくなってしまいましたが、本来は修学旅行用として作られた車両が、定期急行列車に充てられた唯一の例となりました。

 1987年の分割民営化では、田町区配置車はJR東日本に、宮原区配置車はJR西日本にそれぞれ継承され、引き続き波動輸送用に充てられました。特に田町区配置車は、制御者であるクハ167の前面強化工事とあわせて、前部標識灯を大型の白熱灯から、小型のシールドビーム灯へ交換、あるいは角型のライトケースへの変更工事や、ATS-Pの設置、パンタグラフをPS16からPS21に交換するなど、多岐にわたる工事が施されました。中には座席を交換するなどアコモ−ディション改造まで施された車両もありましたが、それらはもっぱら一般の波動輸送用に用いられました。

 167系の中でH11編成は、長野工場で前面強化改造などを受けましたが、座席の交換は実施されず、車内は新製時とほぼ変わることはありませんでした。そして、このH11編成こそ、H19編成とともに民営化後も神奈川県内−日光間の集約臨に充てられた車両で、多客時には大垣夜行列車の臨時増発列車にも充てられました。

 製造から30年以上、40年近くになるとさすがに老朽化・陳腐化は否めませんでした。2003年の春季大垣夜行列車での運行を最後に、167系はすべての運用から退いていきました。製造本来の目的としては、前年の2002年の集約臨が最後のシーズンになり、1983年に前任の155系が全廃されたことで、神奈川県内−日光間の集約臨を引き継いで以来、20年もの間、筆者も含めて数多くの神奈川県内の小学生を輸送し続け、修学旅行用車両としての任を全うし、その年の5〜7月にかけて全車が廃車になり、系列消滅したのでした。

 

《次回へつづく》

 

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