旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

悲運の貨車〜物流に挑んだ挑戦車たち〜 走る魔法瓶・生活を支えたLNG専用タンク車 タム9600【1】

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 いつも拙筆のブログをお読みいただき、ありがとうございます。

 「魔法瓶」という言葉を知っている方は、恐らく筆者と同年代の方か、あるいは諸先輩方かと思います。子どもの頃、遠足などで水筒を持っていくと、よく母から「水筒を落とさないように気をつけなさい」と言われたものです。

 昔の水筒は、中に入れた飲み物の温度が急激に変化しないように、鏡のようにメッキ加工されたガラス瓶が入れられていて、外側の容器との間を真空に保つように作られていました。こうすることで、冷たいものは温まらないように、逆に暖かいものは冷めないように温度を保つ構造をしたものを「魔法瓶」と読んでいました。この、ガラス瓶が入っているため、落下などの衝撃に非常に弱く、ともすると中のガラス瓶が割れてしまうと飲み物が飲めないばかりか、水筒そのものが使えなくなってしまったのです。

 現在でも、同じ構造の水筒は数多くあります。ただし、内側の容器はガラス瓶に代わってステンレスなど、衝撃と腐食に強い材質が使われるようになり、以前ほど取り扱いに神経を使う必要がなくなりました。

 同じ「魔法瓶」の構造は、実は貨車にも存在しました。積荷の性質上、温度を低温に保たなければならない場合、この「魔法瓶」と同じように、内側のタンク体と外側の容器があり、その間を真空構造にしていました。

 その低温で保たなければならない貨物はあまり多くありませんでしたが、それでも、鉄道で輸送することがあり、特にLNGやLPGと呼ばれるものがその対象でした。

 LNGやLPGと言う言葉を聞いたことがあると思います。LNGは「液化天然ガス」で、私達が日常の生活で使う都市ガスがこれにあたります。LNGのほとんどは、海外からの輸入で、専用のLNGタンカーで運ばれて陸揚げされると、LNG基地などに設置されたタンクに保管されます。LPGは「液化石油ガス」で、多くは石油の精製過程で出てくる副産物で、一般にはプロパンガスと呼ばれるものを指します。

 LNG、LPGともに常温ではガス、すなわち気体の状態になります。しかし、これらのものは直接需要家に送るのであれば、専用の管を通して気体のまま供給することができますが、遠方へ送るとなると気体のままでは重量に対して体積が大きくなるため、輸送効率が落ちてしまいます。そこで、LNGは沸点となる-160℃という極低温にした上で加圧して液体にし、LPGは常温で加圧して液体にすることで、専用のタンクローリーやタンク車、タンクコンテナで輸送するのです。

 

現在も、LNG液化天然ガス)は鉄道でも輸送されている。JR貨物の方針により、既に車扱輸送はなくなったが、このように専用のコンテナによって行われているが、その礎となったのが今回紹介するタム9600であるといってもいい。(©Chatama, CC BY-SA 3.0, 出典:ウィキメディア・コモンズ)

 

 そのうちLNGは極低温にまで冷却して加圧するので、冷却された状態のまま保温することと、加圧してあるので圧力に耐えることができるという、2つの条件を満たす容器が必要になります。鉄道で輸送する場合、その特殊な構造をもったタンク車、あるいはタンクコンテナが必要になるのです。

 首都圏で都市ガスを供給している東京瓦斯は、1971年から横浜市磯子区にある根岸LNG基地から茨城県日立市の間でLNG輸送を始めました。当初はLNG専用タンクローリーによるものでしたが、需要が急速に増大していき、タンクローリーによる輸送では捌ききれなくなっていました。そもそも、LNGは前述の通り、極低温で加圧することで液体になり、しかも比重が非常に軽いために重量に対して体積が多くなるため、1台のタンクローリーで運ぶことができる量には限りがありました。そこで、増大する需要に応えるため、東京瓦斯は鉄道によるLNG輸送を計画しました。

 このような経緯から、1973年に国鉄で初めてLNG専用のタンク車として日本車輌で製造されたのが、タム9600形だったのです。

 

《次回へつづく》

 

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