旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

続々・悲運のハイパワー機 重連を単機で担うことを狙った「ガンメタ」のメーカー借入機 ED500形【4】

広告

《前回からのつづき》

 

blog.railroad-traveler.info

 

 1994年に登場したED500形は、国鉄分割民営化によってJR貨物が設立されてから8年目のことでした。この頃までに、JR貨物は最新の技術を投入した大出力電機であるEF200形とEF500形を開発し、実用化に向けた試験を繰り返し、紆余曲折を経て直流機であるEF200形は実用化と量産にようやくたどり着けました。

 しかし、交直流機であるEF500形の試験成績は芳しく無く、実用化そのものが危ぶまれていたのも事実です。試験の拠点となる新鶴見機関区の仕業検査線に留置されていたり、検修庫の前にある留置線に佇む姿を何度も見かけたものです。

 その一方で、JR貨物にとっていかんともし難い課題がありました。

 東海道山陽本線方面の列車は直流機単機で、重量列車となる貨物列車を牽くことができていました。これはほとんどが太平洋沿岸の平坦線を走行するためで、万一、途中の駅や本線上で停車したとしても、十分な牽引力を備えていたため、0km/hからの引き出しも可能でした。

 中央本線や東北方面となると話は変わります。中央本線八王子駅以西では勾配が連続し、中にはそれが厳しい区間もありました。そのため、国鉄時代から中央本線八王子以西で運用する貨物列車は、EF64形が重連で貨物列車を牽いていました。さらに、東北本線は三本松を中心に連続勾配もあるなど、重量の重い貨物列車を牽く電機には過酷なところであると言えるでしょう。そのため、国鉄時代から中央本線の貨物列車はEF64形が、東北本線ではED75形が重連での運用が組まれていたのです。

 重連で走れるのなら、そのままでも問題はないのではと考えられるかもしれまん。しかし、1本の列車に機関車を2両充てることは、その分だけ保守にかかるコストも倍になるということです。また、必要な機関車の数も倍になり、必要とする数も倍になります。トータルの運用コストは単機運用と比べれば明らかに不利になってしまうのです。

 加えて、JR貨物は第2種鉄道事業者としての鉄道事業免許を得ています。これは、第1種または第3種の鉄道事業者が運営する鉄道線路を「借りて」列車を運行するもので、列車を走らせると線路使用料をこれらの鉄道事業者に支払わなければなりません。そして、JR貨物の場合、多くは旅客会社の路線で貨物列車を運行しているため、線路使用料を支払うことになるのですが、機関車の場合、重量が重いためその金額は貨車と比べれば高くなり、重連運用の場合はその数の分だけ高くなってしまうのです。

 分割民営化時の取り決めとして、JR貨物が旅客会社に支払う線路使用料は、アボイダブルコストルールという方法で計算されるので、第3セクターなどに支払う金額より安価に抑えられてはいます。とはいえ、経営基盤が脆弱で慢性的に厳しい財政状況の中に置かれているため、できるだけ持ち出しとなる経費は低く抑える必要があります。

 そこで、重連運用が常態化している運用を見直し、単機で牽くことができる機関車に置き換えることで、線路使用料を抑えることを目的に、単機で重連相当の性能をもつ電機が開発されたのでした。

 

東北本線は連続勾配を抱える区間が存在し、1200トン以上の重量列車は粘着性能に優れた交流機でも重連運用が常態化していた。分割民営化後もその運用は続けられ、ED75重連高速貨物列車を牽く姿は頻繁に見られた。しかし、重連運用は機関車2両分の線路使用料を旅客会社に支払わなければならず、貨物会社にとっては大きな負担だった。これを解消すべく、単機で重量列車を牽くことを構想するのはごく普遍的なことだといえる。(©Olegushka, CC BY-SA 4.0, 出典:ウィキメディア・コモンズ)

 

 そして、交流区間でも運用可能な高出力機としてEF500形が開発されたものの、前述のような様々な問題が思うように解決することができず、1994年に実用化が断念されてしまったのでした。

 新型交直流電機の開発が難航している1992年に、日立が自主開発したED500形をJR貨物に貸し出しという形で試験運用に提供してきたのです。

 同じようなメーカーが自主開発した機関車を、国鉄に貸し出しという形で試験運用したという例はありました。それは1950年代終わり頃から1960年代前半のことで、当時は技術的に未熟だったディーゼル機について、メーカーに競作させてこれを発展させていくという側面がありました。

 しかし、日立がED500形を開発した理由はこれとは異なると考えられます。そもそも、新型電機に採り入れられたVVVFインバーター制御の技術は、1980年代前半には鉄道車両に使われるようになっていて、まったく新しいものとはいえませんでした。確かに電気機関車に使うことは初めての経験でしたが、基礎的な技術はほぼ確立されていたといえるでしょう。その意味では、かつて国鉄が借り入れた機関車のような、技術を発展させるという理由ではないといえるのです。

 

《次回へつづく》

 

あわせてお読みいただきたい

blog.railroad-traveler.info

blog.railroad-traveler.info

blog.railroad-traveler.info