《前回からのつづき》
1995年10月、日本で初めての生活廃棄物を鉄道によって輸送する列車が、武蔵野南線梶ヶ谷貨物ターミナル駅から東海道貨物線川崎貨物駅を経由し、神奈川臨海鉄道末広町駅の間で運行が始められました。
この貨物を輸送するために、コンテナは川崎市が焼却灰専用のUM11A形と生活廃棄物専用のUM12A形、そして粗大ゴミ専用のコンテナを積むためのアダプターコンテナを用意した私有コンテナと、輸送を受け付け取り扱う全国通運から空き缶輸送用にUM8A形無蓋コンテナを借り受けることで準備を整えました。
一方、列車の運行を担うJR貨物は、この区間で運用に充てるコキ50000形を用意、牽引する機関車は新鶴見機関区のEF65形1000番台PF形を充て、そして運行を担う機関士も運用に組み入れました。
列車自体はJR貨物が担当するものの、梶ヶ谷(タ)と川崎貨構内を除いて、本線はすべてJR東日本が保有し管理しています。そのため、川崎市の構想を実現するために、特殊な貨物を輸送する列車であることや、貨物の飛散や臭気の放出、廃液の滴下に対して徹底した対策を施した専用のコンテナを使い、本線上に列車の運行はもちろんのこと、それらによって汚損しないことなどを協議した上で、定期列車として新たなダイヤ設定を要請しました。
実は、貨物列車の増発は、思っているほど簡単なものではありませんでした。本線のほとんどは旅客会社が保有し、ダイヤの設定も担っています。列車1本を増発しようとすると、そのためのダイヤ(スジ)を新たに設定しなければなりません。特に首都圏のように列車の運行頻度が多いところでは、早々簡単にできるものではなく、どうにかして1本のスジを入れ込まなければならず、そのために定期列車の時刻を動かすなどします。1分から1分30秒ほど定期列車を動かして、新たな貨物列車のためのスジを入れることができたとしても、今度は定期列車の車両運用や乗務員運用を変更したり、実際にダイヤの小改正が実現できたら、今度は駅に掲示している時刻表の修正などをする必要があり、膨大な手間と時間、そしてコストがかかるのです。
また、貨物列車を牽く機関車も、保有と検査などの法定的な責任は貨物会社にありますが、運用となると貨物会社ではなく旅客会社がその権限をもっています。つまり、機関車は資産としては貨物会社の保有でも、貨物会社の思い通りに動かすことはできないのです。

日本でも初めてといえる生活廃棄物専用列車である「クリーンかわさき号」の一番列車は、記録を辿っていくとあろうことかEF65形500番台P形が充てられていた。かつては「名門」とも言われた東京機関区に配置され、寝台特急の先頭に立つといった花形仕業を担うという栄光の車歴をもっていたのが、跡目を1000番台PF形に譲った後は貨物列車を中心とした地味な運用で余生を送っていた。しかし、1987年の分割民営化ではほとんどがJR貨物に継承され、EF65形本来の役割である貨物輸送を支え続けることになった。そんな500番台P形が、かつての栄光などなかったかのように廃棄物輸送列車の先頭に立つとは誰も予想し得なかったことだといえる。しかし、時代の最先端を切り拓いたという意味ではかつてのブルトレ仕業と並んで、脚光を浴びたのかもしれない。(出典:写真AC)
幸いにして、この新たな貨物列車の運行にあたっては、ほぼ全線に渡って貨物専用の線路を走ることになっていたので、駅の時刻表を修正ないし交換といった作業とコストはかかりませんでした。もともと列車の運行頻度も旅客線とは異なって少ないため、さほど難しい作業ではなかったと想像できます。とはいえ、複雑な作業と手続を経て、増発される列車のダイヤを設定を実現したことで、ようやく列車の運行が可能になったのでした。
こうして、梶ヶ谷貨物ターミナル駅と末広町駅の間で、生活廃棄物を積んだ貨物列車である「クリーンかわさき号」の運行が始められ、最初の列車には新鶴見機関区配置のEF65形1065号機が充てられ、その全面には川崎市のシンボルーマークを配したヘッドマークが掲げられました。
こうして運行が始められた「クリーンかわさき号」は、生活廃棄物を収集する平日と土曜日に1往復が運行され、往路は積載した状態で夕方の時間帯を、復路は空コン返却として朝の時間帯に運行されています。これは、日中に梶ヶ谷(タ)近隣にある橘処理場から排出された焼却灰と、市北部で収集した生活廃棄物や空き缶など資源物を載せる時間を確保するためです。
また、川崎貨に到着した列車は、ここで機関車の付け替えが行われます。武蔵野南線と尻手短絡戦を経て南武支線、そして東海道貨物線はすべて電化されているので、電気機関車がその先頭に立っていますが、川崎貨から末広町までの神奈川臨海鉄道浮島線は非電化であるため、神奈川臨海が保有するDD55形などのディーゼル機関車に付け替えているのです。
《次回へつづく》
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