《前回からのつづき》
「クリーンかわさき号」の運転距離は、梶ヶ谷(タ)ー末広町間の約23kmに渡って運転されています。JR貨物が運行する定期貨物列車としては非常に短く、約30分ほどで到着してしまいます。現代の貨物列車は拠点間輸送方式であるため、「クリーンかわさき号」もそれに当てはまります。鉄道貨物輸送の強みは長距離を一度に多くの貨物を運ぶことができることであり、これだけの短い区間で、しかも30分ほどしか運転されない列車では、運賃収入もたかが知れています。
しかし、「クリーンかわさき号」は日曜と年末年始を除いて毎日運転されることで、短い距離でも定期的かつ確実に運賃収入が得られ、顧客が地方自治体であるため支払いが滞ることなど回収の面でも不安がないなど、JR貨物にとってもメリットがあります。加えてこれだけの短い距離での運転であるため、運用に充てる機関車は1両で済み、出区から入区まで2時間程度であることや、機関士の負担も少なく運用コストも長距離を走る貨物列車と比べて比較的抑えることができると考えられるのです。
「クリーンかわさき号」は運行開始当初はコキ50000形が使われていましたが、後に同じコキ50000形でも民営化後に電磁自動空気ブレーキ化改造を施し黄かん色に塗装された350000番台が充てられました。350000番台は東海道・山陽本線などで110km/h運転を実施するために改造された車両で、「スーパーライナー」と呼ばれる高速貨物列車に重用されていました。しかし、コキ100系が増備されると「スーパーライナー」の運用から外され250000番台と共通運用が組まれたものの、そもそも45両という少数派だったことが災いし、次第に持て余されるようになっていきました。そして、首都圏の貨物列車を中心にした運用になり、「クリーンかわさき号」にもこの350000番台が使われるようになったのです。

しかし、それも少数形式で検修手順が異なることなどから、2007年から淘汰が始まったことで、「クリーンかわさき号」の運用も終りを迎えます。その後継としてコキ100系が充てられるようになり、主にコキ104形の初期車が350000番台に代わって「クリーンかわさき号」に使われるようになります。
牽引する機関車も変わっていきました。当初は新鶴見区配置のEF65形1000番台(PF形)が充てられていましたが、後に愛知機関区配置のEF64形1000番台がその先頭に立つようになりました。2010年代には吹田機関区配置のEF66形100番台が「クリーンかわさき号」の運用に充てられ、2020年代はじめの頃まで続けられました。
いずれも長距離を走ってきた機関車が、新鶴見信号場で機関車の付け替えによって新鶴見区に入区し、次の長距離運行の合間での運用、いわゆる間合いで使われる形での運用でした。
しかし、JR貨物の直流標準機としての地位を徐々に確立し、増備が進められたEF210形の数が揃ってくると、国鉄から継承した電気の運用も徐々に縮小していき、EF64形1000番台は首都圏での運用が終わったことや、常に長距離・高速運転をこなしてきたEF66形100番台の老朽化が進んだことで、短距離運用とはいえ次の世代にバトンを渡すことになっていきます。
そして今日、JR貨物における標準直流機として増備が続けられたことで、多くの国鉄形電機の運用を取って代わってEF210形へと牽引機が替えられました。2025年現在、「クリーンかわさき号」の運用はEF210形が担っています。
車両の面でも世代交代などによって変化していきましたが、実は積荷となる生活廃棄物もまた変化していました。「クリーンかわさき号」の運行開始当初は、梶ヶ谷(他)近隣にある橘処理センターで焼却処分されたことで出てくる焼却灰と、川崎市北部で収集された一般生活廃棄物の一部、そして粗大ゴミと空き缶などの資源物を載せていました。

しかし、増え続けるゴミの量に、川崎市もまた危機感を抱くようになります。焼却灰の最終処分地であった東扇島は既に完成し、新たに浮島町に処分場を設けてここで埋め立てに使われます。しかしその面積は東扇島の比ではなく、2020年代に入った頃には残り30年以内にまでには満杯になると言われています。加えて環境意識の高まりから、ゴミの量を削減する方針に転換し、それまで一般ゴミの収集日は資源ゴミ収集日以外は毎日であったものを週に2日に減らし、さらには紙類とプラスチック包装容器の収集日を新たに設け、空き缶・空き瓶の日にはペットボトルを分別するなど、分別収集を細かく設定しました。
こうした施策を進めたことにより、一般廃棄物、いわゆる普通ゴミと粗大ゴミの鉄道輸送を廃止し、代わってペットボトル容器やミックスペーパーを鉄道で輸送するようになり、続いて廃プラ容器を新たに輸送し、浮島町にある浮島処理センターで処分するようになりました。2025年現在、「クリーンかわさき号」が輸送するのは焼却灰とプラスチック包装容器となり、使われるコンテナも川崎市が保有していたUM11A形とUM12A形は老朽化などによってほとんどが廃棄され、全国通運から借り受けたUM12A形に置き換えが進んでいます。
《次回へつづく》
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