旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

国鉄の置き土産~新会社へ遺産として残した最後の国鉄形~ 北海道と四国、異なる地で走り続けるステンレス製気動車・キハ54形【5】

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《前回からのつづき》

 

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 0番台には冷房装置も設置されました。従来、国鉄気動車は急行形や特急形といった優等列車に使う車両に装備され、ローカル運用が主体の一般形や通勤形には設置されませんでした。しかし、私鉄の多くが一般用車両にも冷房装置を設置し、国鉄も全部とまでは行かないまでも、電車に冷房装置の設置を進めていました。そこで、民営化後に新会社がよりよい接客サービスを提供できることを考慮し、新製時から冷房装置を設置しました。

 国鉄気動車の多くは、電車と同一の冷房装置を使っていました。分散式のAU13形や集中式のAU75形で、前者は165系485系などに、後者は103系113系などに多く使われています。実績のある信頼性の高い装置の一つですが、そのいずれもが冷房用の電源を必要としていました。気動車に設置する場合、駆動用のエンジンとは別に、電源用のエンジンを別に搭載し、これを動かして電動発電機から電源を供給していたのでした。しかし、このエンジンを別に搭載することは、車両の重量を重くしてしまい、床下にはこれを設置するスペースが必要でした。そして何よりも、電源用の発電セットを搭載することは、製造コストの増大につながってしまいます。

 

キハ54形は製造コストを極力軽減させるために、民生品を大いに活用していた。乗降用扉は折戸式とし、ドアエンジンはバス用のものを流用している。また、冷房装置は従来の国鉄の常識に囚われることなく機関直結式を採用、バス用のものを流用したAU26形を装備した。(©Olegushka, CC BY-SA 4.0, ウィキメディア・コモンズ経由)

 

 そこで、キハ54形は長年に渡って続けられてきたこの冷房方式を見直し、極力コストを抑えた方法を採ることにしました。搭載されたのは、既に多くのバスで使われていた機関直結式の装置でした。バス用であれば、実績も多く信頼性にも問題はありません。なにより、導入コストも抑えることができ、発電セットも必要ないので、1両編成で運行するキハ54形には最適なものでした。

 このAU26形と国鉄制式名が与えられた冷房装置は、機関直結式というこれまでにない方式のものでした。機関直結式とは、冷房装置に必要な動力を、走行用エンジンから直接取り出すというものでした。冷房装置はコンプレッサーを回すことによって、冷えた空気を熱交換器に送り、そこからダクトを経て車内の吹き出し口から送り込みます。このコンプレッサーを回すために、従来は電気モーターを使っていたため、その電源が必要だったのです。しかし、機関直結式はコンプレッサーを回すための電源は設けず、代わりに走行用エンジンの動力を使う方法でした。

 この方法は自動車のエアコンで使われるもので、エンジンの動力の一部をエアコンのコンプレッサーを回すために使います。そのため、夏場にエアコンを使っているとき、これを使っていない場合と比べて加速が悪くなったり、急な坂道を登るときに車が重たく感じたりするなど、エンジンに負担が生じてしまうのです。国鉄制式のエンジンは走るだけで精一杯という非力だった故に、機関直結式の冷房装置を使うことが難しかったのです。

 しかし、キハ54形に搭載されたDMF13HS形は、高回転・高出力のエンジンなので、機関直結式の冷房装置を装備しても、ある程度は対応ができると考えられたことや、何よりもバス用として既に多くの実績があったことから、1両単位で運行する車両にも搭載することができたのでした。

 

車内はバケットシートを並べたロングシートで、着席定員を明確化するとともに、乗車定員を多くしている。ラッシュ時にも1両編成で運用する路線があることから、収容力重視の設計になった。奥に見える乗務員室は運転台のみの片隅式で、貫通扉のある中央部には運賃箱を備えることができる設計だった。将来のワンマン化を考慮していたことがわかる。(©MaedaAkihiko, CC BY-SA 4.0, ウィキメディア・コモンズ経由)

 

 客室にはバケットシートをレール方向に並べたロングシートを備えました。このシートはキハ38形でも使われているもので、既存の車両と同じ部材を使うことでコストの軽減を図っています。比較的中距離を走ることが想定されていましたが、ロングシートにすることでラッシュ時間帯の収容力を確保することを優先にした設計思想だといえます。着席定員は大幅に減り、従来の気動車と比べるとサービスの低下と言われても仕方ないのかも知れませんが、ラッシュ時でも1両編成で十分な輸送量であることを想定すると、このシート配置はやむを得なかったのかも知れません。

 

《次回へつづく》

 

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