旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

峠に挑んだ電機たち 第2章 奥羽山脈越えの隘路、33.0パーミルの板谷峠【12】

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 EF71形は板谷峠区間で補機として運用することを前提としたため、ED78形同様にそれに対応する機器を装備していました。特に連続した急勾配を下るために使う回生ブレーキはもちろん、勾配上で長時間の停車を余儀なくされた場合に備えてブレーキを保持する転動防止装置や、暴走を防ぐための過速度検知装置、そして回生ブレーキ自動空気ブレーキが故障したときに最後の手段として使う電機子短絡スイッチも装備していました。碓氷峠区間用のEF63形と同様の重装備を、EF71形にももたせたのです。

 これに加えて、EF71形は冬季は豪雪地帯になるため耐寒耐雪仕様も施されていました。初期に製作された車両は、前面窓にデフロスタを、後期車には熱線入りガラスを使いました。また、氷柱などから窓ガラスを保護するためのプロテクターを設置できるように、窓の周りには固定用のボルトも取り付けられていました。

 交流電機は通常、集電装置を1つしか使いません。これは、架線電圧が20,000Vと降圧であるため、集電装置とトロリー線が多少離れても電流供給に問題がないことと、直流機のように集電装置を2個使うと供給過剰になる恐れがあるからです。しかし、冬季にトロリー線に氷雪がついてしまっていた場合、集電装置1個ではこれを破損する恐れがあります。そこで、EF71形はいわゆる「霜取り」用として、もう1個の集電装置を使うことができるようになっていました。

 台車はED74形以来の仮想心皿方式のDT129系を両端に装着していました。これは、ED78形も同じであり、いわば国鉄交流電機の標準台車といえるでしょう。しかし、EF71形はF級機であるので、中間にも動力台車を装着する必要がありました。そこで、台車と台車受けの間にコロを挿入することで、曲線を通過するときに生じる横方向にも動くことができるDT137形が装着されました。

 このような重装備かつ強力な出力を誇るEF71形は、板谷峠区間を通過する旅客列車や貨物列車に、ED78形とともに運用に充てられました。もっとも、計画時は補機とされたEF71形でしたが、碓氷峠区間とは異なり本務機、補機の区別があまり厳密ではなく曖昧になったようです。実際に、ED78形が単機運用はもちろん、その補機にED78形が充てられたり、補機用として製作されたEF71形が単機で運用されて本務機であったり、さらにはEF71形が重連で運用されたりもしました。ただ、最強出力を誇るEF71形を重連で運用する場合には制限が加えられていました。というのも、設計上は最大牽引定数は730トンですが、急勾配で非常ブレーキをかけたときに、連結器に過剰な力がかかり座屈などの事故につながることから、ED78形と重連を組んだときと同じ650トンとされたのでした。

 

国鉄保有した電機の中で、もっとも強力な性能を誇ったEF71形は、碓氷峠区間専用のEF63形に並ぶ特殊仕様の車両だった。言い換えれば、EF63形を交流機仕様にしたような車両だったが、その運用は時として本務機としての役割を担うことになった。これは、本来であればED78形が本務機として充てられることになっていたが、仙山線などの運用にED78形が進出したことにより、その空いた穴をEF71形が埋めるようになったためである。秋田新幹線の建設による奥羽本線標準軌化によりEF71形は用途を失い、特殊仕様の大型かつ強力機であったため、他への転用もすることなく廃車になっていった。そして、EF63形とは対称的に、保存対象となった1号機を除いて他は解体されてしまった。残った1号機も2019年に解体されてしまい現存していない。同じ峠を越えるシェルパだったにもかかわらず、最後まで冷遇されたといっても過言ではない存在だった。(©Rsa, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons)

 

 また、EF71形の強力な出力は、逆に弱点にもなってしまいました。そもそも、EF71形の高出力は、牽引力を引き上げることが目的ではなく、回生ブレーキを使うときに主電動機の熱容量に余裕を持たせるためものでした。また、この高出力では、サイリスタは大容量になり、これに対応する主変圧器と主変換器も大型化してしまい、その結果車体はさらに大型化し、自重の増加を招くことになりました。そこで、サイリスタ素子をED78形と同数にするため、主電動機の回路は直流機と同然の2個直列3並列で固定接続としたのでした。このことが、実際の運用に入ると空転を頻発させることにつながり、これを抑えるために死重を搭載したため、自重はさらに増加し100トンを超える重量機になってしまったのでした。

 また、ED78形では出てこなかった故障も頻発させました。特にサイリスタの破損や通電不良などの初期不良を起こし、検修に携わる車両技術者やメーカーの技術者を悩ませましたが、技術者の必死の努力によって早い段階でこれを解決しました。

 

《次回へつづく》

 

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