旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

国鉄の置き土産~新会社に遺していった最後の国鉄形~ 「魔改造?」出自が変わり種で国鉄最初で最後の1M方式旅客電車・123系【11】

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《前回からのつづき》

 

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 クモハ123-5・6の2両は当初の計画通りに、阪和線羽衣支線の運用に充てられることになります。しかし、その運用に就いたのは落成から3か月が経った7月まで待たなければなりませんでした。その間は、配置先になった日根野区に留置されたまま、一時は「塩漬け」状態のような扱いになりました。6月になって鳳電車区へ移動して乗務員訓練が始まり、これが終わったこと受けての運用開始となったのです。

 阪和線羽衣支線は僅か1.4kmと短く、駅も1駅しかない単線路線です。もともとこの路線は、阪和線を建設開業させた阪和鉄道によって、当時は東羽衣駅近くにあった海水浴場への旅行客を運んでいました。しかし、戦前の鉄道輸送では競合する他社との争いは熾烈を極めたと言います。乗客の奪い合いをするため、社員が駅前などで勧誘するために大音量で叫んだり、酷いときには運行を妨害することもあったようです。

 羽衣支線もまた、競合する南海鉄道との乗客の奪い合いが展開されました。特に関西圏はその地形や都市の配置から、私鉄各社の競争はもちろんのこと、官設である国鉄との競争も熾烈でした。中には列車を踏切上で減速したり停車させたりするなどして、競争相手の乗客の通行をも妨害する陰湿な手段もあったそうです。

 とはいえ、羽衣支線は海水浴客を輸送することを主眼に建設された短距離の支線でしたが、その海水浴場も都市の発展とともに姿を消していきました。代わりに沿線には住宅が建ち並び、都心部へ向かう人々の通勤通学輸送を担うようになっていきました。

 このように、建設当初の目的から時代とともに性格が変わった羽衣支線ですが、1970年代は旧性能電車である72系が、そして新性能化後は103系が運用されていました。しかし、いずれも3両編成を組んでの運用だったため、当時としては輸送力が過多になっていたと考えられ、輸送力を適正なものにするとともに、運用コストを削減することを目的にした配置だったといえます。

 

阪和線羽衣支線の輸送力の定期制かをねらって投入されたクモハ123-5・6だったが、朝夕のラッシュ時など多客時には中間にサハ103形、あるいは一端にクハ103形を増結しなければならないなど、1M方式電車として能力を発揮できる場面は限られてしまった。日中の閑散時には減車して2両あるいは1両編成を組んでいたものの、増解結の手間もあるなど素に実践キハ芳しくなかった。結局は、羽衣支線でのクモハ123形の運用は不適当と考えられ、その役目を103系に明け渡して岡山へと移っていった。(出典:写真AC)

 

 こうして、羽衣支線の運用に就いた5・6号車は、僅か1.7kmの短い路線を往き来する日々を送ることになります。日中の閑散時には1両編成で、ラッシュ時には増結して運行されていましたが、やがて沿線の開発が進み利用者が増加してくると、このような編成では押し寄せてくる人々を捌くことができなくなり、5号車と6号車の間にサハ103形を挟んだ3両編成を組むようになりました。

 このような異系列同士で連結を可能にしたのは、5・6号車が改造時から貫通扉を設置していたことでした。2〜4号車のように非貫通構造のままなら、中間にサハ103形を連結したとしても、車内で往来ができないばかりか、乗客は車内で別の車両への移動ができなくなります。また、万一の事故などによって、乗客が別の車両へ避難しなければならない事態が起きたとき、安全な車両へ移ることもできなかったでしょう。

 3両編成では輸送力が過剰だと考えられて1M方式電車であるクモハ123形を投じたのが、人口の増加によってサハ103形を挟んだ3両編成に戻るなど、1両単位での列車では輸送力が不足してしまったのです。

 結局、羽衣支線に投入されてから8年後の1995年になると、その運用から離脱することになります。そして、瀬戸大橋線の開通によって輸送量が極端に低下したことで、旧性能電車であるクモニ83形を旅客車に改造した、民営化後最初で最後に製作されたクモハ84形の後継として、宇野線での運用に充てられることになり、岡山電車区へと配置転換されました。

 岡山電車区へ配置転換になると、それまで青22号1色だった装いに、瀬戸内海を飛ぶカモメをイメージしたステッカーをアクセントとして貼り付けましたが、それ以外は羽衣支線時代と大きく変わることはありませんでした。

 しかし、宇野線での活躍も長くは続きませんでした。

 

《次回へつづく》

 

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