旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

学校の児童生徒だけが乗る「専用列車」 思い出とともに走った修学旅行用電車たち【5】

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《前回からのつづき》

 

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■出力強化・勾配線区用165系の修学旅行用167系

 153系を嚆矢とする急行形・修学旅行用の電車群は、主電動機に出力100kWのMT46を装備していました。この主電動機は国鉄初のカルダン駆動を採用した新性能電車である101系に採用・装備したもので、初期の新性能電車の標準的な主電動機といえます。

 一方、MT46は平坦線区で運用する電車に装備することを前提としていたため、勾配線区での運用となると出力不足が指摘されました。国鉄鉄道路線で、勾配が少なく比較的緩い平坦線区は東海道本線ぐらいで、同じ太平洋岸を通る山陽本線では、一部に勾配が厳しい区間を抱えています。言い換えれば、153系とその一族は、東海道本線山陽本線の一部でしか運用することができない電車といえるのです。

 しかし、国鉄の電化区間が進展していくと、中央本線など勾配が多く、急峻な線形を抱える勾配線区にも、153系と同じ設備をもつ急行型電車が必要になってきました。客車列車ではこうした路線で運用できる電機が限られることや、運用効率の面では電車の方が勝るという判断があったためでした。

 国鉄は、153系の出力増強型である、163系の新製増備を計画しました。主電動機は出力100kWのMT46から、120kWのMT54に替えたもので、車体や客室設備などは153系とほとんど変わらないものでした。

 ところが、主電動機出力を強力にした163系は計画されたものの、実際には製造されることはありませんでした。唯一、163系を名乗るのは一等付随車であるサロ163のみ、これも153系のサロ152が不足したため増備車が必要だったことと、既に153系は製造が終了しており、計画中の163系に移行していたことから、先行してサロのみが163系として製造されたという変わった経緯によるものでした。

 163系が計画のみで中止に終わった背景には、主電動機出力を増強したところで、勾配線区での運用に必要な装備がなかったことでした。そこで、主電動機はMT54を装備し、勾配線区で欠かすことのできない抑速ブレーキや、ノッチ戻し制御を可能にした主幹制御器を装備した165系が新製増備されました。

 165系は勾配線区や寒冷地でも運用できる装備をもっていました。特に、連続する勾配を下る時に欠かすことのできない抑速ブレーキや、山岳区間の登坂時の出力制御で運転士が必要と判断した時に、制御回路を戻す操作が可能になる「ノッチ戻し」制御ができるCS15Aは、153系にはないものでした。

 また、勾配が多い山岳線区は平坦先駆に比べて寒冷な気候であるため、特に冬季には降雪などもある地域です。そうした線区では耐寒耐雪装備は必須のもので、165系は基本的に耐寒耐雪装備をもって新製されました。

 温暖な平坦線区でしか運用ができない163系と、寒冷な勾配線区でも運用が可能な165系と作り分けることは得策でないと判断した国鉄は、MT54を装備した急行形電車は165系に統一するという方針になり、1963年以降に新製された急行形電車は、すべて165系になりました。

 同じ頃、修学旅行用電車として落成・運用に入っていた155系と159系は、教育関係者を始め、実際に旅行に出かける生徒の保護者はもちろん、運用を担う国鉄関係者からも好評を得ていました。155系、159系ともに東海道本線山陽本線の一部で運用することが前提であったため、基本構造は153系と同じものでした。もっとも、155系と159系の新製にかかる費用は、列車の発駅にある都府県が利用債を引き受けたことで捻出されたもので、当初から勾配線区での運用を前提としていませんでした。

 この好評を聞いた、群馬県・栃木県・茨城県の北関東三県の教育関係者からも、同じ修学旅行用の車両による列車の運転が要望されるようになりました。そこで、新たな修学旅行用車両として新製されたのが167系でした。

 

耐寒耐雪装備をもち、抑速ブレーキなど勾配線区で運用することを想定して開発された165系を基に、修学旅行用の設備を備えた167系。一見すると165系と変わりないが、乗降用扉は700mmとなるなど、155系以来の設計を踏襲していた。新幹線による修学旅行輸送が始められると、在来線での運用も減り波動用として用いられることが多くなった。しかし、関東地区では小学校の修学旅行輸送は残り、田町配置車は写真のように湘南色に変わっても修学旅行輸送が続けられ、167系が充てられ本来の用途についていた。(品川駅 1984年 筆者撮影)

 

 北関東三県は、155系の発駅である南関東と比べて寒冷な気候です。冬にはともすると、雪が降ることもあります。また、特に大宮以北は高崎線東北本線ともに連続する勾配を抱える勾配線区であり、155系では対応が難しいとされました。

 167系は155系・159系が153系をベースとしたのと同様に、165系をベースに修学旅行用の設備を設置した車両でした。

 乗降用扉は客扱いが一般の列車と比べて少ないことから、155・159系と同様に扉幅は700mmの狭幅とされました。その分、できたスペースには大型のゴミ箱や一度に2人が使える洗面所が設置されました。

 客室の座席は、165系と同じ2人掛けの固定クロスシートを設置しました。これは、集約臨が運転されない夏季などには、波動輸送用の一般の臨時列車に充てることが想定されたためで、165系との差は極力少なくなるように設計されたのでした。

 波動輸送用の運用に充てることが想定されていたので、場合によっては狭小トンネルを抱える中央東線などの列車として運行されることも考えられました。155・159系は屋根全部が低屋根構造とされましたが、167系ではパンタグラフ部分のみが低屋根構造とされました。これは、115系などの800番代車と同じ構造でしたが、167系は全車がこの一部低屋根構造とされたので、特に800番代の区分はされませんでした。

 

《次回へつづく》

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